第2話 幼馴染の裏切り

その日は結局、どうしたのか麗華から連絡は無かった。

いつも僕の部屋で二人でやっている予習復習の勉強会や夕食にも来ない。

少し嫌な感じがしたけど確認するまでも無いと思い、僕からはお休みの挨拶だけ入れておいた。


翌朝、麗華は僕の家に迎えに来ることもなく先に学校に向かった様だった。

もしかしたら今日は日直で早く登校する必要があるのかも知れない。


学校に着いた僕は、クラスの陽キャに囲まれている麗華を見て安心した。

麗華の機嫌も凄く良さそうだし、僕の知るいつも通りの光景だった。


僕は手招きする達也に呼ばれ、足早に席に着く。

何だかとても慌てている様子だ。


「お、おい優太! お前、知ってるのか?」

「おはよう達也。そんなに慌てちゃって、何の事?」


「麗華ちゃん、あの赤羽先輩から告白されたらしいぞ。今朝からクラスのみんなが噂してる」

「赤羽先輩? 誰なの?」


僕はその先輩の名を聞いた事が無かった。

有名な人なんだろうか。


「知らないのか。赤羽あかはね先輩って有名だぞ。二年生でテニス部のエース、背が高くてイケメンで、親はどこかの病院の院長で凄い金持ちらしい」

「ふ〜ん。そうなんだ」


「そうなんだって、お前。心配じゃないのか?」

「心配? 心配なんか要らないよ。大丈夫、僕は信じているからね」


先生が教室に入り、チャイムが鳴ったので授業が始まる。

僕は部活には入らずに勉強を頑張っているので集中して授業を受けた。


そしてお昼過ぎに、僕にメッセージアプリから連絡が入った。

やっぱり麗華からだ。


放課後、屋上に来て欲しいという内容だった。

恐らく早く僕との付き合いをオープンにしたいという相談だと思う。

僕はOKの返事をして、放課後を待った。




ーーーーー




「ゴメン。待った?」

「ううん。今来たところよ」


僕たちは恋人らしいやり取りをして笑みを交わす。

麗華の笑顔を見るのは僕にとって幸せな事だった。

僕だけの最高の笑顔だ。


「優くん、あのね……実は昨日、赤羽先輩から告白されたんだけど……」

「達也に聞いたよ。クラスの噂にもなってるみたいだね。でも心配しないでも大丈夫だよ。僕は麗華を信じてるからね」


「……優くん、その、ゴメン……私、赤羽先輩にOKしちゃったんだ……」

「えっ!? どういう事! 僕がいるのに?」


これは悪い夢なんだろうか?


「うん……優くんとはお隣り同士だからいつでも会えるし、赤羽先輩の家はお金持ちみたいなの。私、ずっと裕福なお金持ちの家庭に憧れていたの! 優くんの事は好きだけど普通の家庭だし……本当に悪いけど、優くんとのお付き合いは無かった事にしてくれない?」


「えっ!……そんな……嫌だよ……」


僕の幼馴染の麗華がこんな事を言うはずがない。

昔からずっと一緒だった僕よりもお金持ちが良いだなんて……


「優くん、お願い。この通り! 幼馴染の幸せを応援すると思って!」

「でも……」


麗華が僕に腰を折って頭を下げた。

僕はまだ麗華がそんな事を言うだなんて信じられないので、これが最後と思って確認する。


「念の為に聞くけど、実はお母さんが病気でお金が必要とかじゃないよね? もしそうなら、うちの親に相談してみるけど……」

「ううん。お母さんは凄く元気よ。私が赤羽先輩と付き合いたいだけなの……」


「そ、そう…………」


僕が先に付き合っていたのに、麗華は僕を捨てると言うのだろうか。

幼馴染としてずっと……ずっと一緒だった僕を……


それで麗華は平気なのか? 僕はいらない人間なのか……


「わ……った……」

「え? 今なんて?」


「わかったって言ったんだよっ!」


僕は溢れ出る涙を隠しながら、屋上から走り去る。

僕が、僕が先に好きで付き合っていたのに……なんで……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る