配信30 ニュース:カーバンクルの宝石と偽り、宝石商逮捕

 夜十時。

 夜の帳がすっかり落ち、闇の合間を魔物や盗賊たちが動き出すころ。人々は通信用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。

 やがて、ジジッと音がしてパネルからひとつの映像が浮き上がる。そこから心地の良い音楽が流れはじめると、聞こえてくるのは明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。


――――――――――――――――――――


「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」

「……バルバ・ベルゴォルだ……」


「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」


「ところでバル、ちょっとバルの部下の人たち二、三人借りていい?」

「初っぱなからなんだ急に!?」

「リクエストがめちゃくちゃ多すぎて、捌ききれなくなってきたから一旦どうにかしたくて」

「お前がやり始めたことなのだからお前がなんとかしろ! というかそんな事を配信に載せるな!」

「じゃあ借りるね」

「お前は話を聞くという機能をどこに置き忘れてきたんだ?」

「ダメな時はちゃんと人に頼ってお願いって出来るのが大人ってもんだろ」

「お前に大人とはなんたるかを説かれたくないんだが。というかなんだ、今日はそういう系のニュースか?」

「えっ、違うぞ。いまのは普通にお願いで、今日のニュースとはぜんぜん違う」

「なら余計に配信に載せるな!」


「あ~、でも今日のニュース、このリクエストに答えてればもしかしたらもっとはやく判明した事件かもってことはあるねぇ」

「そんなことあるか……?」


「ちなみにちょっと聞くけど、バルはどうなの。これはもう自分ではどうにもならないなってときは誰かにちゃんと相談とかするタイプ?」

「なぜそっちに興味を持ったんだ……、吾輩は魔王だ。そんなことはせん」

「じゃあバルはダメな大人の典型だな」

「毎回言うようだが喧嘩を売っているのか?」

「でも、誰かに相談できてたらこんなことになってないかー」

「……なんのことだ」


「というわけで、今日のニュース!」

「おい待て、ニュースの前に、いまのはどういう意味だ」

「え? いやほら、一度くらいは勇者を撃退できてたかもしれないじゃん」

「……。……ああ、そういう意味か」

「なに? なんか私、痛いとこ突いた?」

「いや……なんでもない。それよりいまの相談とかいうのはニュースに関係あるのか?」

「いや無いけど」

「せめてフリぐらいしっかりしろ!?」



+++――――――――――――――――――――+++

《カーバンクルの宝石と偽り販売か。宝石商の男逮捕》


 ト=イ聖王国で、貴族の女性に偽の宝石を売りつけたとして、有名宝石店『表通りの花』に勤める宝石商の男が逮捕されました。詐欺の疑いで逮捕されたのは、ハン・ハーゲン容疑者(42歳)。ハン容疑者は主に貴族の女性達を相手に、直接邸宅に出向いて宝石を売る方式で信頼も厚い人物だった。


 ハン容疑者は被害者の女性に、「近年の魔王復活の影響で、カーバンクルが頻繁に姿を見せるようになった。冒険者が狩ったカーバンクルの宝石が特別に手に入った」などと言って、偽の宝石を売りつけたとされている。

 カーバンクルは四つ足の獣に似た魔物で、額に赤い宝石のような部位があるのが特徴。魔物と言われてはいるものの、あまり人前に姿を見せず、見せたとしても温厚な性格で、襲われたというような話は聞いたことがないという。その遭遇率の低さから、赤い宝石は幸運をもたらすしるしとも言われている。今回、被害にあった女性達もそうした幸運の話をされたと言われている。

 しかし、カーバンクル自体が増えていることには疑問が残るという。カーバンクルが住むという森の番人も、『以前からたまに見かけますが、魔王が復活してからとくべつ頻繁に見るようになったわけではないですね。やることと言えばちょっと夕飯の魚をくすねたりする程度で、かわいいものです。魔王の復活で心配していましたが、あまり変化はありませんね』と語る。


 また、今回の件により宝石店『表通りの花』にも疑惑の目が向けられている。ハン容疑者は店の中でもかなりの有名人物。そんな人物が起こした事件を店が把握していなかったとは考えにくいと考える人もいるようだ。果たして今回の事件はハン容疑者の単独だったのか、店ぐるみのものだったのか。今後の調査が待たれるところである。

+++――――――――――――――――――――+++



「はい」

「はいってなんだ」

「カーバンクルって実際なに?」

「まあ聞くと思った」


「リクエストそのものは来てたんだよねえ。カーバンクルって魔物って言われてるけど実際はどうなんですかって」

「そもそもなぜ吾輩に聞くのだ」

「そりゃまあ魔王に聞くのが一番手っ取り早いからでは?」

「……」


「ほら、クラーケンの件とかあっただろ。割とこういう、魔物だと思われてるけど実際そう見えないとか、魔物だと思ってたけど魔王が復活しても特に何も無い……みたいなことってあるから」

「そこでなぜ普通に『魔物じゃない』という結論に行かぬのだ」


「とにかく……あれを魔物や妖精と勘違いしている奴もいるようだが、カーバンクルは竜の一種だぞ」

「竜!?」

「なぜそんなに驚く?」

「だって小さいじゃん、カーバンクル!?」

「小さいな」

「絵とか見ると、むしろ猫とかウサギとかに似てない?」

「猫……、まあ、姿はな。毛もあるし、どちらかいうと四つ足の獣に似ていると思うのが自然だろうな」

「小型の竜もいるっちゃいるけどさあ、それともぜんぜん似てないっていうか」

「まあ、つまりは神獣の一種と思っておけばいいだろう。少なくとも魔物ではないし、吾輩の管轄ではない」

「と、いうことだ!」


「それじゃ、このあたりでそろそろブレイク! 今日の邪霊楽団へのリクエストは~、『たまに★2ダンジョンで邪霊楽団が弾いてる、なんか暗いけど楽しそうな曲』!」

「どういうリクエストだ」

「ちなみに聞くけど、カーバンクルの宝石は本当に幸運が手に入るの?」

「あれは別に宝石ではないんだが……」

「そうなの!?」

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