配信15 ニュース:コカトリスの卵料理店、盛況に

 夜十時。

 夜の帳がすっかり落ち、闇の合間を魔物や盗賊たちが動き出すころ。人々は通信用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。

 やがて、ジジッと音がしてパネルからひとつの映像が浮き上がる。そこから心地の良い音楽が流れはじめると、聞こえてくるのは明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。


――――――――――――――――――――


「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」

「……バルバ・ベルゴォルだ……」


「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」


「そういえば、バルって何か好きな食べ物ある?」

「急になんだ!?」

「いや、弱点は教えてくれなさそうだけど、好きな食べ物だったらワンチャンあるかなと」

「気まずいお見合いか何かか?」

「魔王が気まずいお見合い概念を知っている事にビックリしてるよ、私は」


「私はあの~、前にね。コスタズの王都のさ、アカデミーに居たことがあったんだけど、アカデミーの近所に創作料理の店があって、そこのカルボナーラがめっちゃ好きだった」

「いやわからん」

「カルボナーラっていうわりにあっさり目で、カリカリのベーコンが美味しいんだこれが!」

「はあ」

「ほうれん草が入ってて見た目にもしつこくないし、自分で塩こしょうで味付けも変えられてさ」

「……」

「なんか食べたくなってきた。バルちょっと連れてってくんない?」

「吾輩に頼むな!」


「で、そういうバルは何か好物とかないの?」

「あまり考えたことがない」

「えー。それはなんかもったいなくない? というかひょっとして魔物にそもそも料理って感覚無い?」

「そうでもない。我が配下にも料理という概念は存在するぞ。ただ獣たちとそうした行動をする者たちと千差万別だからな」

「へー。料理する魔物って?」

「魔人達と、ゴブリンどもも簡素な料理くらいする」

「ゴブリンも料理するの!? あっ、でも煮物とかやってるね!?」

「やってるだろう?」


「それに、今回の戦争で我々が勝てば、どうせすべて吾輩達のものになるしな」

「ん?」

「あ?」

「もしかして文化乗っ取るつもりでいる?」

「別に破壊してもいいんだぞ?」

「そう言われると、もったいなくない?」

「そうだろう?」

「そうだな」


「そういうわけで今日のニュースは……」

「待て。もしかして今のが全部フリだったのか!?」

「ちょっと、途中で乱入しないで! 今日のニュースはこちら!」



+++――――――――――――――――――――+++

《世界初、コカトリスの卵料理専門店『コッカとライス』盛況に》


 魔王復活以降、魔物の凶暴化で多くの被害が確認されているのはみなさんご存じの通りだろう。しかしその反面、冒険者ギルドや武器職人など、盛況になっているところも多く見られている。


 ここもそのひとつ。意外かもしれないが、大衆レストラン『コッカとライス』だ。

 ここはこだわりの卵を使った、絶品の創作オムライス専門店。定番のトマトソースからほうれん草ソースなど、様々なオムライスが食べられる。その中でもこの店が得意としているのが、名前からもわかるとおりコカトリスの卵を使ったオムライスだ。

 味はまろやかで、生臭さもなく他にはない味わい。さらにはコカトリスの卵に合うソースを五年かけて作り上げて、いまなお試行錯誤を重ねているという念の入れよう。一日十食限定で作られていた名物にして高級料理でもある。


 なにしろ店名である『コッカとライス』はコカトリスの別名である「コッカトライス」と、北国の一部地域でニワトリを意味する「コッカ」、そして米を意味する「ライス」から来ている。

 コカトリスの卵が飲食可能であることは以前から知られていた。コカトリスは魔物ではあるが、その肉は柔らかく、家畜としてのニワトリに負けず劣らず。シッポの蛇もまた一部地域では酒漬けにして飲まれているなど、比較的食糧として見なされやすい。しかし、その実態は魔物。倒すのは容易ではなく、そのうえ魔王の出現で凶暴性が増している。

 しかし、実は卵であれば比較的手に入れやすい。魔王が出現してからもそれは変わらず、むしろ数が増えつつあるおかげで卵も増加している。魔王の復活による魔物の強化は歓迎すべき事態ではないが、採取スキルを持った冒険者達がこぞってコカトリスの卵をどうやってかすめ取るかに頭を悩ませている。


 店主のドゥードル氏は、「このコカトリス達のおかげで、一日十食限定だったコカトリスのオムライスが、いまでは一日三十食まで増えています。実は少しだけ値下げもさせていただきました。いまのうちに是非一度、食べていただけると幸いです」と語る。


 コカトリスの卵は以前より、ニワトリの卵なのか、シッポである蛇の卵なのか議論が交わされてきた。しかし識者達の議論をよそに、『コッカとライス』の特製コカトリスオムライスは人々の胃袋を掴んでいるようだ。

+++――――――――――――――――――――+++



「いや、どう!? 食べてみたくない?」

「……あ~……」

「あっ、もしかしてバル、コカトリスのオムライス食べた事ある!?」

「いや、ここまで凝ったものはさすがに無い。ただ、人間どもまでコカトリスの卵を食い始めたのかと思ってな……」

「微妙?」

「微妙というより、それほど騒ぐようなものか、と思ってな」

「なんかいま、『輸入されてるとこは高いけど、現地民は同じレベルで安くて美味いの食ってる』みたいな感覚になってる」

「吾輩達を現地民扱いするな」

「じゃあ何!?」

「じゃあ何ってなんだ!?」


「他にもない? 人間にも食べられる魔物。卵みたいに部位でもいいよ。できれば人間が死なないやつでお願いします!!」

「知らんわ、勝手に探せ!! そういうの得意だろうがお前ら!!」

「それはそう」

「急に冷静になるな、怖いわ」


「というわけで、《深夜同盟》では魔物を食材として利用している料理を募集しています」

「わけのわからんものをこれ以上募集するな」

「じゃ、このへんでいったんブレイク! 今日も最後まで楽しんでいってね! それじゃ、またあとで~~!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る