配信4 ニュース:「羽持った?」アイテム忘れに注意!

*:俺はとある冒険者だ。名前は「緑の剣士」ってことで。最近、新参の冒険者が増えてるのはいいんだが、初心者ほど危なっかしいものはない。先日も初心者パーティが全滅寸前で発見されて、他のパーティと一緒に帰ってきた。帰還用アイテムを忘れていったらしい。忘れてるならまだいいが、自信満々で「無くてもいい」なんていう輩までいやがる。体で覚えるにも限度があるだろ。

 もしもこの配信が人間側に配信されてるっていうのなら、帰還用アイテムを忘れるなって注意喚起してほしい。せめて「羽持った?」を合い言葉にしてくれ。


――――――――――――――――――――


「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」

「……バルバ・ベルゴォルだ……」


「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」


「前回、お便り募集してからちょいちょいちゃんとした文面が増えてきてるぞ!」

「相変わらず頭の悪い文面は多いがな」

「そういえば今日のニュースと関連のあるお便りがあったから、今日は特集にしてみようかなと」

「は?」

「えー、それで今日の特集なんだけど」

「……」


《帰還できない冒険者が続出!? アイテム忘れにご用心!》


「……です!」

「バカなのか?」

「こら! そんなにはっきり言わない!」

「いまのはお前の方が酷くないか!?」

「ダンジョン潜る時ってねぇー」

「吾輩だけに罪をなすりつけて進むな!」

「帰還用アイテムがあるんですよ」

「せめて誤魔化すなりしろ!!」


「この帰還用アイテム、通称『導きの羽』。ダンジョンの途中で使うと、入り口に戻してくれる魔道具で、冒険者にとってはかなり重要なおなじみのアイテムだってのは理解されてると思うけど」

「そんなものが発明されていたのか……」

「前に言った『帝国の牙』も、アイテム管理する人がいなくなっちゃった、からの、羽忘れの可能性もちょっとあるんだ」

「ああ……、そいつらか。もしそうならますます話にならんな。他の勇者もたかが知れているかもな」

「まあまあ、勇者ってこの人たちだけじゃないから」


「それにしても、いつの間にそんなものを作っていたんだ? 吾輩が前回いたときは無かったはずだが」

「二百年前……というか前回バルを倒した勇者が広めたんじゃなかったかな?」

「あいつか……」

「うっわすごい苦々しい顔してる」


「バルのテンションが下がってもアレなんで先に進めると」

「吾輩のせいにするな」


「ここのところの冒険者の増加で、いろいろ経済が潤ってるって話は前にしたけど。その分冒険者もピンキリが激しくなってきてね。中でも、新米冒険者に多いのがアイテム忘れ! 特に『導きの羽』はダンジョンから脱出するのに重要なアイテムなんだが、ついうっかり買い忘れてダンジョンに潜る冒険者の多いこと、多いこと! 実際、魔王城に寄せられた報告でも、パーティ崩壊の原因の多くが帰還用アイテムの買い忘れって事が結構あるみたいだな」

「その報告、吾輩貰ってないが?」

「精査してる段階だったんじゃない?」


「とにかくざっと報告が上がっているだけでも、『赤き小剣』『赤熱の長弓』『赤の冒険団』『気高きバウドの赤眼』『赤羽のヒポグリフ団』……これだけのパーティが全滅あるいは全滅寸前になり、その原因のほとんどが探索ギリギリで羽忘れに気付くという……」

「それよりパーティ名に赤つける奴多過ぎないか?」

「本当だ。そのうち特集を組もう」

「……ま、まあいい。だいたい、その……、ヒポグリフ団か。そいつらなどパーティ名にまで羽が入ってるのに羽のアイテムを忘れたのか?」

「そういうものだろ。いまこれ聞いてる冒険者の中でもギクッとしてる人は多いんじゃない?」


「いまバルも言った『赤羽のヒポグリフ団』。この人たちなんか凄いぞ。あるダンジョン攻略中の出来事だったんだが」

「ほう」

「もう少し行けばこの階層のマップが完成しそうだ、ってところまで無理して進んで、既に倒れそうな仲間二人を引きずるようにして完成させたんだ。ようやくマップが完成した、これでこのダンジョンの攻略が格段に楽になる……そう思ったそのとき……! 背後から魔物の気配が! 戦闘をするには体力が心許ない。しかしこんなときこそ羽を使って入り口に戻るべきだ。そう思って荷物を漁り、羽を手に取ろうとした。だが……」

「……」

「羽が……無い……!」

「……」

「……キャ~~~!」

「怪談風にするな! いや、これオチがわかってる話だろう!?」

「でもこれ実話だからな。実話怪談ってやつだ」

「怪談ではなくないか!?」


「我が軍にとっては恰好の餌みたいな話だったぞ……」

「じゃあうちも羽忘れしたって体験談募集しまーす」

「せんでいい!?」


「この現状を憂うようなお便りも来てるぞ。お名前『緑の剣士』さんから」

「流れるように偽名を使い始めたな、お前ら……」


「この『羽持った?』って合い言葉はいいな。今度からそうやって声がけするのもいいんじゃないか。とにかく帰還用アイテムを忘れるな、は冒険者のひとつの指針にしてほしい」

「……吾輩が言うのもなんだが、そんなものが指針でいいのか?」

「実は魔王軍らしきお名前「いっかいの骸骨騎士」さんからも同じようなお便りが来ている」

「どこの魔物だ!」


*:まおうさま。あーしゃさん。こんばんは。「いっかいのがいこつきし」です。このあいだ、ダンジョンにいたぼうけんしゃが、つかれきっていて、たおすのがかんたんでした。なんでだろうとおもっていました。たぶん、はねをわすれたことに、ぎりぎりできづいたのだとおもいます。たおれたなかまをひきずって、あわててにげていきました。そのあと、どうなったのかは、しりません。


「……」

「……」

「なあ、バル。骸骨騎士って知能あったんだな」

「そこからか!?」


「というわけで、合い言葉は『羽持った?』だ! 冒険者各員、全員一度は言うように!」

「なぜ吾輩の城から吾輩の魔力を使って配信しているものでそんな注意喚起をせねばならんのだ……?」


「まあ良い。魔王軍に告ぐ! 窃盗系のスキルを持っている者は、冒険者の持つ『導きの羽』を重点的に狙え!」

「かつてない羽戦争が起きそう。ではそんなところで少々ブレイク。みんな今日も時間まで楽しんでいってくれよ!」

「いいところで切ったな……」

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