配信2 ニュース:薬草ギルド倒産!?

 夜十時。

 夜の帳はすっかり落ち、闇の合間を魔物や盗賊たちが動き出すころ、人々は連絡用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。

 やがて、ジジッと音がして、パネルからひとつの映像が浮き上がる。そこから心地の良い音楽が流れはじめ、聞こえてくるのは明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。


――――――――――――――――――――


「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」

「……バルバ・ベルゴォルだ……」


「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」


「……」

「やー、ところで復活してしばらく経つけど、どう、調子は?」

「聞き方が軽い!」

「ラジオなんだからそりゃ軽く聞くでしょ」

「どうと言われても、こんなことになるとは思わなかった」

「あははは」

「笑うな!」


「そういえば、魔王復活の影響で各地のダンジョンが活発化してるって聞いたけど、本当?」

「む? 本当かどうかと言われれば、本当だろうな。吾輩の存在は、魔物の強化や狂化を促すからな」

「へー。やっぱりそうなんだ」

「……」

「そのおかげって言っちゃなんだけど、各地で冒険者も増えてるみたいだね」

「そのようだな」

「それに伴っていろいろと経済も回り始めてるみたいだ。鍛冶屋や道具屋……、ただ、その中でも結構衝撃的なニュースが入ってるんだよね。というわけで、本日の話題をピックアップ!」


『薬草ギルド・ヘンリット合同ギルドが倒産!?』


「……です!」

「……は?」

「あっ、もしかしてどうでもいい話題だと思った!?」

「割合でいうと八割くらいは思った」

「いや、でもこれ、結構驚いてる人も多いんじゃないかな。ここ結構話題になってたし。それに合同ギルドって、出資者が複数いるってことだし」

「……まあ、説明くらいは聞こうか」


「本日午後、トラキツェル国にて「薬草ギルド・ヘンリット合同ギルド」が倒産。国のギルド管理部が介入し、財務整理に入ったとのニュースが飛び込んできました」

「そもそも、なんだその薬草ギルドとかいうのは」


「薬草ギルド・ヘンリット合同ギルドは、ポーションの材料となる薬草を組織的に大規模に栽培・育成し、自然からの採取に頼らない恒常的な供給、またはポーションの効果均一化を目指して作られた合同出資型ギルドです。ギルド名にもなっているのは自らも薬剤師として名を馳せるヘンリット・アンズラ卿。彼を中心に二年前に設立したここは、魔王復活をも視野に入れ、今後のポーション需要拡大を見越して作られた期待の薬系ギルドでした。それゆえ出資者も多く、商人だけでなく高クラス冒険者の中にも出資者がいた模様です。ギルド管理部の介入直前、店の前では、『経営が傾いていると知らされず、一月前に投資したばかり。お金を返してほしい』と憤っている冒険者の出資者も。今後の対応がどうなるのか、注目されています」


「将来的には栽培する薬草を増やし、エリクサーの栽培にも着手する予定だったようで、期待はされていたところだったんだけどな」

「エリクサーの栽培だと? ふん。理想だけは高いな」

「だから、それだけ期待も高かったんだってば。最初の時点でもかなりの出資が集まっていたようだからね」

「しかし、人間どもにとってポーションはどこでも需要があるのではないか?」

「冒険者が行くところなら、どんな田舎でもポーションって基本は売ってるからな」

「それなのに倒産したのか」


「どうもな~。薬草を作ったはいいけど、卸すところが極端に少なかったらしくて」

「……は?」

「ポーションを生成してるのって、魔女とか錬金術師とか、あとは専門の薬師とかが多いんだけどさ。そういう人達って、薬草はそもそも自家栽培してたりするからね。店に置いてある薬草も、基本的には専門の薬草師がいて、そういう人達から仕入れてる」


「あと、薬草採取って実は初心者冒険者向けのクエストでかなり重宝されてるからね。それで薬草の種類を覚えたり、ダンジョンでの簡易的な治療のやり方を学ぶ人が多いし。都市の冒険者ほどクエストを受けてるイメージだね」

「なるほどな。需要は確かにあるが、既存のやり方をしている奴らをぶち壊せなかったのか。おまけに相手が魔女や魔術師の類ではな」

「一筋縄ではいかないかもねえ。……もしかすると、そういう人達のことを考慮してなかったんじゃないかな。店によってはこの魔女さんのポーション、って決まってるだろうし、その魔女さんたちだって自分の使う薬草をどこから調達するかってのは決まってるだろうからね」


「魔王の復活でいまかなりポーションが需要ば爆上がりしてるんだけど、そこまで持ちこたえられなかったみたいだね~」

「いくらでもやりようはあっただろうに」

「いずれにせよ残念な結果ではあるね」


「これだから人間というのは……」

「人間だからっていうよりこれはもう個人の問題じゃないかなぁ。個人で薬草師として栽培してる人もちゃんといるからね」

「まあ、個人で魔王城に乗り込んできた奴もいるからな……」

「めっちゃ見てくるじゃん」

「お前以外に誰がいる!?」

「言っとくけど私、別に乗り込んでないよ。私が居たところに魔王城が突然出現したんだよ」


「……」

「……」


「次の話題に行け」

「あっ、なんか誤魔化した!?」

「誤魔化してはない。このまま不毛な言い争いを続けても疲れるだけだと思った」

「普通に失礼だなぁ!?」


「それじゃ、ちょっとブレイク! このあとも引き続きお楽しみください!」

「……。……は~……」

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