魔王城ラジオ『深夜同盟』

冬野ゆな

配信1 ほぼ速報:『帝王の牙』壊滅

 夜十時。

 夜の帳が落ち、闇の魔物たちが動き出す頃。町の路地裏では盗賊たちが動きだし、わずかな灯りを頼りに人々が寝静まりはじめるころ――。人々は連絡用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。

 やがて、ジジッと音がして、パネルからひとつの映像が浮き上がると、そこから心地の良い音楽が流れはじめた。そして聞こえてきたのは、明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。


――――――――――――――――――――


「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」

「……バルバ・ベルゴォルだ……」


「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」


「それは毎回言うのか……?」

「えっ、バル、いまさらすぎない?」

「……。まあいい。今日は何をするつもりだ」

「まずは速報からだ! 『帝国の牙』が壊滅状態にあるという報告があがってるよ!」

「待て。その報告、吾輩聞いてないんだが?」

「ということでまずはこのコーナー、『勇者パーティ観察日記』いくぞ!」

「聞け!」


「このコーナーでは、復活した魔王『幽冥なる忌み仔バルバ・ベルゴォル』を倒すべく、各地で任命されたり名乗りをあげた勇者パーティたちの勇姿をピックアップするものです」

「……」

「勇者を名乗らずとも、注目の冒険者も取り上げちゃうよ! ……というわけなんだけど、本日帝国メルギスより出発した勇者パーティ『帝王の牙』が大変な事になっているというニュースがあがっております」

「……もう一度言聞くが、その報告、吾輩聞いてないんだが?」

「じゃあいま聞けるから良かったね」

「は?」


「しかし『帝王の牙』が壊滅寸前だと? 朗報ではないか」

「そりゃバルにとってはそうでしょ。人間にとってはかなり一大事だよ。特にメルギスの国民」

「ますますなぜ吾輩の耳に入っていないのか疑問なんだが」

「私のところには来たからいいじゃないか」

「良くないが!?」


「まあそんなことはともかく」

「なぜお前が仕切るのかはさておいてやる。早く報告をしろ」

「きのう午後、諜報員からの報告によると――勇者パーティ『帝王の牙』が壊滅寸前の状態でナタルシャ村に運び込まれました。勇者をはじめメンバー達はかなりの重傷を負っていて、懸命の助命活動が行われている模様です。一行はダンジョン『ガムテ・リッチの饗宴』にて負傷したものとみられます。このダンジョンはガムテ・リッチという名のアンデッドが支配する不死系ダンジョンで、ギルドは★3に設定しています」


「待て。その前に★3とはなんだ」

「冒険者ギルドが独自に設けてる基準だよ。ダンジョンの難易度をあらわす単位ですね。1が初心者向けで、3だと慣れてきたくらいかな」

「ほほう。しかし『帝王の牙』なら吾輩も聞いたことがあるぞ」

「あるんだ。どんな印象?」

「全体の戦力に反して、比較的強力なダンジョンに潜れている……こういう言い方は癪だが、お前たちにとっては優秀なパーティだったのではないか。吾輩とて、その慎重さを評価はしていた。そのダンジョンに何かあったか?」


「いやー、それがね。どうも少し前の追放騒動がネックになったみたいで」

「そういえば人員の入れ替わりがあったとも聞いたな。しかし、追放だと?」

「うん。勇者の任命ってのは国によってやり方が違って、一人が指名されてたり、パーティごと指名されたりと色々あるんだ。ここのパーティは勇者は一人で、仲間を選別するタイプだね。だから、勇者の采配ひとつで仲間が入れ替わったりする」


「……で、そのなかで職業盗賊の人を、勇者のパーティには必要無いって追放したんだよね。普通のやり方じゃなくて追放したからちょっと話題になってたんだ。でもこっちの報告によると、この盗賊っていう人が、斥候から武器道具の管理から経済状況まですべて請け負ってる人で」

「なぜそんな重要な役どころを……? よっぽど腹に据えかねる性格でもしていたのか」

「うーん。細かい性格まではちょっと報告が入ってないけど……」


「追放理由は『パーティ内での窃盗および下賤な職業はダメ』みたいな理由だったね。まあ本当に窃盗してた可能性もあるけどね。ただ盗賊の名誉のために言っておくと、街道とかで徒党組んでる盗賊と、冒険者としての盗賊とは違うからね。それに、ちょっとコレ信憑性が薄い理由としては、替わりの人員も後方支援タイプじゃなくて戦闘系の剣士の女の子を入れてるんだよね」

「ふむ……? 確かにここは後方支援でもっていたようなものだから、斥候のできるテイマーあたりも良さそうだしな」

「だけどそうじゃないからねえ。あとは個人的な感想を述べさせてもらうと、地味だからじゃない?」

「は?」

「『帝国の牙』ってたびたび、派手な活躍をしたがってたというか。そもそもこの勇者さんが派手好きだったみたいで、歓楽街とかにも結構出没してたって報告もあるね」

「ふん。派手の意味をはき違えたうえ、大事なところを見落としたか。盗賊の真偽がどうあれ、勇者としては三流以下だな」

「うわ。魔王にいちばん言われたくない台詞じゃないかな、それ」


「とにかくそれで、以前は上位ランクのダンジョンにもよく出没してたんだけど、この追放騒動があってから入れるダンジョンが下がり続けて、とうとう今回★3で壊滅しかけたっていう」

「……本当になぜ後方支援タイプを入れなかったんだ?」

「さあ……」

「ふむ。ともあれ、勇者本人の実際のランクはせいぜい初心者に毛が生えた程度だった……ということか。つまらん」

「どちらにせよ、追放された盗賊さんは技術面ではかなり優秀な人っぽいから、本当に後方支援の大切さが浮き彫りになるね」


「ふむ……。では、魔王軍においても、今後は後方支援タイプを重視してみるか」

「これを聞いてる人間側の冒険者も、後方支援って事をいちど考えてみてね」

「お前たちはせいぜい力尽くで足掻け」

「いやこれちゃんと魔王軍だけじゃなくて人間側にも流れてるからね。今の聞いて後方支援について一回考えない人いるかなあ!?」

「居るだろう」


「……」

「……」


「よし、次の話題に行こうか」

「そうだな」

「夜はまだまだこれから! ちょっとブレイクしてお楽しみください」

「……は~……、いつまでやるんだ、これは……」

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