「さあ、世界を知る旅に出よう。」

@tomato4040

序章

第1話 「死」

北海道の辺境の地にて、疲れ果てた僕は家への道のりをふらふらとおぼつかない足で歩いていく。

僕の名前は西山日向にしやまひなた

26歳の男でいわゆるブラック企業って言うやつに勤めている。今はもはや数えるのが面倒くさくなってきた今月16回目くらいの残業が終わり死にそうになりながら歩いているところだ。

いつものように会社をやめようかと考えているその時、


「ばさっ..」


森の方から変な音がした。

それと同時に黒いデカブツが現れる。


「っへ」


びっくりして変な声が出てしまった。

熊だ。しかもなんか怒ってるようにも見える。

体が強ばる。


「ぐおぉお...」


運がねえ。熊に襲われた時は体をでかく見せるのがいいとかそういう知識はあるが、あいにく今の僕はそう見せる手段を持ち合わせていない。

こっそりと逃げれるように、熊から目を離さずに後ずさる。


「ぐうぅお」


怒っていたせいか熊はどうやら僕を逃がしてくれる気は無いようだ。追いかけてくる。マジで運がない。

その姿を見て僕は180度体を回し熊に背を向け、疲れた身体にムチを打ち全力疾走。

しかし相手は熊。時速60キロで走れる化け物だ。

やばい。とにかくやばいやばいやばい。

そこから僕と熊による命をかけた追いかけっこが始まる。(まあ熊側は命をかけてないが。)

直線で勝負したところで勝てるわけが無いので森に入りジグザクと進路を変え走っていく。

正直僕ってこんなに速く走れたんだってくらいの速度で走ってはいるが火事場の馬鹿力でどうにかなるわけもなく、熊との距離は離れてくれない。


「はあっ。はあっ、はあっ。」


まずい。まずいまずいまずいまずい。

いくら社畜生活がきついからって決して死にたいわけじゃない。これからまだやりたいことだってある。

こんなところで死ぬのはごめんだ。


「ぐおぉおおおお!」


そんな僕の気持ちなんてお構い無しに熊は後ろから僕を追いかけてくる。


逃げろ。逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ。


「こてっ」


なにかにつまずき体が前に崩れる。


「っあ。」


前を見るとそこは崖だった。

どうやら無我夢中で走っていたら崖へとダイブしてしまったらしい。


あ、死ぬ。


確信した。そうわかった瞬間に頭の中に走馬灯のようなものが流れる。


26年という短い人生だったけれど本当に今まで色々なことがあった。

僕はこの北海道の辺境の地で生まれてからずっと育ってきた。友達も割と多い方だったし、家も恵まれていて、お金に困るなんてこともなく家族では豪遊したりはできなくても不自由なく暮らせていた。

社畜時代も残業が多いブラック企業ではあったけれど休みの日は読書やゲームなどの趣味に費やせていたり別に辛いことだけでもなかった。

育てて貰ってこんなすぐ死ぬのだから親には謝罪の言葉しかでてこない。まあ謝罪をする機会なんて今後一切来ないだろうけど。

割と悪くない人生ではあったと思う。


でもそうだな。やっぱりもっと自由が欲しかったな。残業普通に長くて辛かったし。

あとこの辺境の地からほぼでたことがなかったから、


「もっと世界を見てみたかったな...」


もうすぐに地面に到達するのを肌で感じる。


ゴンっっ!!


その音と共に僕の意識はシャットダウンした。








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