人魔大戦

朽木ロキ

第1話 魔族と神々、そして人間

かつて、この世界には魔族だけが存在した。


様々な異形の姿をした魔族は、薄暗い世界でただ己が生き残ることのみを考え、他者と争い、傷つけ、そしてその命を喰らいあった。


そうして幾星霜の月日が流れ、常に魔族同士の争いに晒されたこの大地は荒れ果てていった。


ある時、天上より8神が舞い降りた。


8神は、大地が荒れ果ててもなお己の生存を懸けて争い合う魔族を見兼ねて、争い以外で生き残るための知恵と種を授けた。


知恵を得た魔族は次第に争いから身を引き、神から与えられた種を撒き農耕に従事していった。


しかし、幾星霜の争いで荒れ果てた大地では作物を育てることは困難であった。


そこで8神が1人、豊穣を司る土の神ソルムは荒れ果てた大地に祈りを捧げ、元の豊かな大地を取り戻した。


豊かな大地を取り戻したが、土だけでは作物を育てることはできない。


8神が1人、水を司る水の神アクアは世界に海と川を作り出し、さらには雨を降らせた。


雨が降るようになったことで、魔族は作物を容易に育てることが可能となった。


炎を司る炎の神フランマは世界に火を作り出すことで魔族の暮らしを助けようとした。


光を司る光の神ルクスは、常に薄暗かった世界に昼を作り出し、世界を照らした。


対して闇を司る闇の神オプスは、光を嫌ったため昼を消し去り夜を作り出した。


昼と夜をめぐってルクスとオプスは対立し、両者の激しい闘いが繰り広げられた。


後に【光闇闘争】と呼ばれるその闘いで大地は再び傷ついた。


そこで神々は昼の時間と夜の時間の両方を作り出すことで、光と闇の闘いは幕を閉じた。


残る3神、氷の神グラキエ、雷の神トニト、風の神ヴェントゥスはただ世界に恵みを与えるだけではそこに生きる生命は堕落しいずれ滅びに向かうと危惧し、それぞれ雪、雷、台風を作り出し、世界に悪天候をもたらすことで魔族に試練を与えた。


こうして世界は8神によって色付けされていき、世界から争いはなくなった。


最後に神々は魔族に言語を与え、その役目を終えようとした。


しかし、神々の1人が言った。

この広い世界に魔族だけでは寂しいと…。


そこで神々は世界にあらゆる動植物、そして人間を作り出した。


そうして世界では様々な生命が入り乱れ、特に魔族と人間の2つの種族が共同生活を送るようになった。


満足した神々は、その世界に【フォルトナ】という名を授け、天上へと帰っていった。


だが、神々は人間の作り方を誤った。


人間は魔族に比べ、知能の発達が早かった。

魔族と人間が共同生活を送る中で、魔族と人間の暮らしに徐々に差が出てきてしまった。


次第に両者の生活に大きなギャップが生まれ、やがて魔族と人間は住む場所を分け、以降、関わることはなかったという。


そこから長い年月が経ち、運命の時が訪れた。


人間は年月を経て、さらに知恵を蓄え、武器を作り出し、そして野心を持ち、ある時魔族に対し戦争を仕掛けた。


長い年月の中で強欲となった人間たちは、魔族を追い出しその住処や食物を我がものにしようとしていた。


魔族も負けじと持ち前の強靭な我が身を武器に人間たちと闘った。


世に言う【人魔大戦】である。


両者の激しい攻防は数十年もの間続き、大地は再び荒れ果てていった。


人間は知恵を使い、様々な武器を生み出し魔族を苦しめた。


魔族はその強靭な肉体で数多の人間たちの体を引き裂き続けたが、人間が生み出した多種多様な武器には適わず、最後には世界の僻地に追いやられた。


【人魔大戦】は人間の圧倒的勝利に終わった。


大戦の後、8神は再び荒れた【フォルトナ】の大地を見遣ると、愚かな人間と魔族では再び戦争が起こりかねないと危惧し、人間と魔族の特徴を併せ持った新たな8つの種族を作り出した。


8つの種族は人間の住まう地域と魔族の住まう地域の中間にそれぞれの国を興し、人間と魔族の衝突を避ける使命を賜った。


それからまた長い年月が経ち、人間たちは9つの国を作り出し、栄華を極めていた。


対して魔族は、フォルトナの辺境の地にて、変わらぬ生活を送っていた…。



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