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 釈放である。いや、そんな大仰なものではないのだけれど、気分としてはそういう感じだった。


 実家のあるファレ・ファエナまで向かうバスに揺られながら、今日の分を書く。


 久しぶりに見る青空の下の街並みは眩しかった。背伸びをするとゴキゴキと物騒な音が鳴る。キャリーケースの取っ手を握る左腕が妙に気怠くて、そうか、別室では椅子に座っているばかりで、ほとんど運動してしなかったものなあと苦笑した。


 今朝届いた両親からのメールには安堵の言葉が書き連ねられていた。座席で手持ち無沙汰になる度に、再び開いて文章を眺めるのだ。ああ、随分と僕は弱っていたらしい。アイタラのおかげで紛れてはいたが、怖かったのだ。この牧歌的なサファイキで軟禁されるなど、本来あるはずがないことなのだから。まるで異界に迷い込んだような気分だった。


 家に着いたら、お礼も兼ねてアイタラにメールで報告しておこう。僕のためにわざわざ役所の窓からこっそり手を振って見送ってくれたのだ。心配してくれているはずだ。今のうちに「Alosaやあ,」から続く気の利いたメッセージを考えておきたい。


 バスから見える風景にタコノキが増えてきたのを見ながら、もうすぐファレ・ファエナに着くらしい、と思えば頬が緩む。ファレ・ファエナは東の海岸沿いにあるのだ。なんでも、日照が多く乾いた風土と相性がいいということで、街の周辺には無数のタコノキが植樹されている。こずえのところで鋭い葉が隙間もないほどびっしりと重なっているのが、大学のよく整備されていた芝生を連想させた。


 がくん、と揺れを伴って停車。アナウンスが「ファレ・ファエナ」と繰り返し告げる。今日の日記はここらで終わりにしよう。じゃあ、また明日の更新で。

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