夏の日の悩み

羊丸

夏の日の悩み事

 長い電車に乗り終えた太田悠馬は頬から流れた汗を拭って祖母の家に向かった。なぜこのようにしているのかというと、夏休み中に両親の仕事の都合でしばらくの間は祖母の家に泊まるということだった。


 最初の頃は寂しかったが今は全然そう感じない。むしろそれが日常だとさえ感じるだけだった。


 部活もやっておらず、友も祖母の家に泊まる期間は用事があるため何よりも宿題や勉強をする以外は暇だった。


「ふぅ。結構な道のりだけど、たまには田舎の方に行くのもいいな」


 祖母の家は新潟市に住んでいるから自身が住んでいる石川の方からだとかなりの距離だ。だが、祖母の田舎はとても新鮮的で風景がとても綺麗なためそれが楽しみだった。


 家に着くと、インターホンを鳴らした。すぐさま中から祖母が出てきた。


「おぉ。久しぶり悠馬。暑い中お疲れ様ね」

「うん。久しぶり婆ちゃん」


 互いに久々の再会に挨拶を交わしながら悠馬は家の中に上がった。


「しばらくの間失礼するね。また」

「いいわよ。いつものことだし、それに色々と話すことができる。お前さんだって久々にここを探索したいだろ」

「うん。もちろん後でそうするよ。でも先に荷物置かさせて」


 悠馬はそう言っていつも自身が使っている部屋に向かった。2階の右奥の方には自身が泊まるための部屋があるためいつもそこを使っていた。窓から海が眺められるためいつも潮の匂いがしていたのを思い出した。


 荷物を置いて、窓を開けると海の潮がいつものように鼻をくすぐった。いい匂いだなと思いながら荷物を置くと、小さめのカバンの中にスマホと財布を入れた。


「なぁ婆ちゃん。何か帰り買ってきて欲しいのある?」

「大丈夫よ。楽しんでらっしゃい」


 祖母の言葉を聞いた悠馬は靴を整えて家を再びでた。暑苦しい熱を感じながら海に向かった。


 海はなぜだか自身の心を落ち着かせてくれる力があるのか必ず祖母の家に行った際は海に行っていた。


 海に行くといつものように綺麗な海が波を打ち続けていた。


(ここはいつみても綺麗だな)


 悠馬は砂浜を少しだけ歩くと、足に海が少しだけ届きそうな所に座り込んで音を楽しんでいた。すると後ろから「ねぇ」と声をかけられた。


「ん?」


 後ろを振り向くと、そこには白いワンピースを着た綺麗な長い黒髪をている同じぐらいの女性が立っていた。


「君、ここの街では見ない子だね。誰?」


 女の子の言葉に「あぁ」と変な声が出てしまった。


「俺は今日からしばらくの間祖母の家でお世話になるもんすけど、えっと」


 悠馬が戸惑っていることを知った女の子は笑顔でごめんと繰り返しながら自分の挨拶をし出した。


「ごめんね。突然変に声をかけられたらそりゃ驚くし、おまけに戸惑うよね。私は凛海りみっていうの。高校2年生。あなたは」

「悠馬です。君と同じく」

「へー! そうなんだ。君はどこから来たの?」

「石川県の方」


 そういうと、凛海は驚きの表情を見せた。


「うっそー! 結構遠いところから来たんだね。私前々からここに住んでいるんだけど、君は初めて見たなぁ」

「ふぅん。そうなんだ。ここら辺の学校に通ってんの?」

「うん! そうだよ。それにしても本当に暑いね。君はよく水分補給とかしてるの?」

「してるよ流石に。ばあちゃんにも怒られるからね」

「それならいいね」


 そこから凛海という子と悠馬は砂浜に座りながら話していた。


「へぇ。両親の都合でしばらくここに」

「うん。君の方は」

「あぁ。今はいないよ今は」


 凛海の話を聞いて自分と同じなんだなと感じた。


「へぇ。あっ、なぁここ暑いしさ、何か飲まない? ここら辺に確か自動販売機があったはずだし」

「いいね。でも、私お金持っていないから飲めないや」

「ふぅん。奢ろうか。一杯分ならいいよ」


 悠馬の言葉に凛海は「えっ!」と顔を輝かせた。


「いいの? 初対面だよ!」

「確かにそうだけど、熱中症になったらヤベェだろ。それに俺だけだと悪いし、そうそう高くはないから遠慮しないでいいよ」


 悠馬は立ち上がるとお尻についている砂を叩いて自動販売機に向かった。


「何がいい?」

「オレンジの炭酸ジュース」


 凛海は自動販売機でそう答えると、悠馬はお金を入れて言われた物を買い、日陰になれる場所に座り込んで冷たいジュースをそれぞれ飲んだ。


「うーん! おいし」

「そうだな。ちなみになんだけど、なんで俺に声かけてきたの?」

「えっ。いや、ただ単に見ない顔だなぁと思って」

「ふぅん。この街の人の顔、色々と知ってるんだな」


 悠馬はペットボトルに口をつけて言った。


「うん。まぁまぁの人の顔は把握しているよ」

「は? じゃあ俺の婆ちゃんのことも知ってんの?」

「えっ。特徴とか言ってくれればすぐに答えるよ」


 凛海の言葉に自身の婆ちゃんの特徴を教えるとすぐさま名前を言い当てた。


「すごっ、どんだけこの街の人を把握しきれているんだよ」

「へへへ。まぁ覚えるのは得意ですからねぇ。悠馬くんは何が得意?」

「俺? せいぜい、得意な科目ぐらいを覚えることぐらいだぜ」

「すごいじゃん。私勉強は不得意なんだよねぇ」


 凛海は「あはは」と言いながら人差し指で頬を掻いた。


「ちなみに家はどこら辺なの?」

「私の家?」

「うん。ちょっと気になってね。あっ、俺は海の近くにあるんだ。窓から眺められるぐらいの」


 悠馬が先に答えると「同じ」と返事をした。


「えっ。同じ? オレんちに近いのかな?」

「そこはわからないよ。でも、海の近くに済んでいることはおんなじ。あっ、私そろそろ帰らなくちゃ。飲み物ありがと」


 凛海はそういうと、駆け足でその場を去った。悠馬はあんなに自身の家と同じあたりに住んでいる同い年がいるとは気づきもしなかった。


(俺が知らないだけで、あの子は自分のどこかの家に住んでいるのでいるのかな?)


 悠馬は疑問に感じたが気にせず残りの飲み物を飲みながら近くの街を探検したのだった。


 その後、1週間毎日海に行くと必ず凛海と出会うようになった。彼女は出会った時と同じように白いワンピース姿でいた。それだけ気に入っているのかとさえ思った。


「なぁ、お前いつもそのワンピースだけど、なんで?」


 悠馬は気になって思わず声をかけた。凛海は「大好きだから」と笑顔で口にした。


 その言葉に悠馬はなぜだか納得をし、いつも通り楽しくおしゃべりをしながら街の中を歩いていた。


 彼女の話は友だちの話、家族の話、この街のことに関する話を楽しそうに話していた。


「すごい笑顔で家族の話するな」


 悠馬は思わずそう言った。


「どうして」

「……俺ところさ、両親がほとんど仕事で家にいないんだ。夏休みの時も同じ。半分は仕事でほとんど婆ちゃんの家に泊まってる。もちろん行事の時だって同じ。同級生の親だけ食事をした回数が多いんだ。だから、あんま思い出ないんだよね」


 悠馬は青空を見上げて親のことを話した。


「そうか。なんかごめんね。楽しくお話をしてて」

「いやいいさ。というかもぉ慣れた。だから、寂しいとか何も感じないよ」


 そばにあった石ころを蹴ると、再び歩き出した。


「この歳になって改めて思ったよ。あぁ、人って慣れるんだなってさ。それにもぉ俺は無関心だし、友達と婆ちゃんが居ればそれでいいって」


 だんだんと話していくたびになぜが胸が苦しく感じてきた。なぜ今更感じるんだろうと思った。


 そう話していると。


「それって本当の気持ちなの?」


 凛海はの言葉に悠馬は「えっ」と振り返った。


「人って孤独に慣れるとその人のことを無関心になるかもしれないね。でも、心のどこかでは寂しさを感じる。それを他ので埋めて対処をする。例えるなら水ね。水がコップ一杯の中に入っているような感じの。だけど、それで満たされるはずとも自分の中では考えるけど、でも、いっぱいになるはずがまだほんのちょっとだけ満たされていない」


 凛海は悠馬の隣に来ると淡々と言った。


「そんな気持ちじゃない?」


 凛海の話を聞いて納得してしまう自信がいた。確かに今までの行動で満たされるはずだったのが話を聞いた途端自分の中では満たされていないのがあった。それは両親との関わりだ。他の人はもっと関わっているのに自分はあまりない。そのおかげで全然満たされていない。


 そう考えていると、凛海は「そろそろ帰る時間帯だ。それじゃあね」と笑顔で手を振りながらその場をさった。


 その後、家に帰った悠馬は夕飯を祖母と食いながら疑問に感じて思わず質問をした。


「なぁ婆ちゃん」

「ん? なんだい」

「質問なんだけど、凛海って子知ってる? このまちに住んでいる俺と同い年の子」


 そう質問をすると、祖母は見たことがないほどの表情を見せた。


「なっ、あんたそれどこで聞いたんだい。その名前」

「えっ。どこって、その名前の本人」


 悠馬がなぜそんなに驚いているのかと思っていると、次の言葉で箸が止まった。


「そんな訳あるまい。何せその子はもぉ、2年前に亡くなっているんだぞ」


「……は?」



次の日、悠馬はあの海に向かった。行くとそこには凛海がいつもの白いワンピース姿でいた。


「おっ。今日も来たか」


 凛海は笑顔で話しかけたが、悠馬の表情が暗いことに気がついた。


「ん? どうした?」

「……お前、幽霊だったんだな」


 悠馬は絞り出すかのように言った。その言葉に凛海は「えっ」と疑問の言葉を出した。


 そこで悠馬はスマホをかざして見せた。それは2年前の記事の内容だった。そこには凛海の顔写真が乗っていた。隣には「海で自殺」と書かれていた。


「昨日の夕飯の時にばあちゃんに聞いたんだ。2年前にここにある崖の方で自殺をしたって。そして、今まで話したことの半分は嘘だったんだな」


 悠馬がそこまでいうと凛海は「あーあ」と残念そうな声を漏らした。


「なーんだ。バレちゃったか。うん。そうだよ、幽霊」

「……あっさりと認めてくれるんだ」

「うん。黙ったって意味ないし、証拠もあるしそれから半分の嘘は、主に両親のことだよね」


 凛海が優しく質問をすると、悠馬は頷いた。

 

 昨日祖母は深刻そうな表情を浮かべて凛海について話をしてくれた。驚いたことは凛海の親はほとんど家にはいなかったということだった。


「えっ。そんなはずは、だって聞いた時両親はよく遊んでくれたって」

「それはお前さんに変な心配をさせたくないがための嘘だよ。小学5年の頃に奥さんは仕事ばかりの父親に嫌気が差したのか他の男ん所に行くわ、父親はそれや娘のことは無視するわでもぉ散々だったのよ。それに苦しんだろうね。夏の時に限界が来た娘さんは、お気に入りの白いワンピースを着て海に身を投げたんだそうだ。おまけにその後聞いたんだけど、両親は娘が死んだのを駆けつけて泣き叫んでいたんだそうよ。全く、死んでから大切さに気づくなんて、馬鹿な親だよ」


 祖母は大きく息を吐いた。


「結構、酷かったんだな。お前の親」


 悠馬はそういうと、凛海は「うん」と笑顔で返事をしながら黒髪を耳に掛けた。


「マージであの時辛くてさぁ。何か報告をしようとしても母親は誰かと連絡、父親は仕事仕事って。それで色々と辛くなって崖の方に行ったんだっけど、思わず足がもつれてそのまま死んでさ。死ぬ時あぁ、楽になれるってそう思いながら海に」


 凛海は髪を耳に掛けると、その場に座り込んで海を眺めた。


「死んで親が後悔している姿を見てさぁ、遅って思ったね。なーんで死んでから後悔しのって。ちょっと苛立ったからしばらくの間親の夢に化けたんだ」


 笑顔で笑いながら幽霊のポーズを取るとふぅと息を吐いた。


「それで、何度も出ても、あいつらは怖がる所が泣きながらこう言ったんだ。ごめんなさい、しっかりと向き合わずにお前を追い詰めて苦しい思いをしてしまってごめんなさいって。そんなことを聞いたって私、死んでるんだけどって思ったけど、なんだか呆れてそのまま出なくなったわ」


 凛海は海を見つめながら半笑いで語っていたが、どこだか寂しそうにも感じた。


「俺のことを声かけた本当の理由は」


 悠馬は凛海のことを見つめて質問をした。


「できたら私みたいな人は増やして欲しくなくて声を掛けて、悩みを打ち明けさせようとしたんだ」


 凛海は悲しそうな表情を浮かべて空を見上げた。


「でも、話を聞いていたらなんだか半分だけ大丈夫そうでよかった。あっ、でも友達は大事にしなね。自分の中では心の中が落ちついてくれる人は大事にしなきゃね」

「……それはありがとさんだ」


 悠馬は顔を見ないままその場に座り込んだ。そして来る前に買っておいたオレンジの炭酸ジュースを差し出した。


「ん?」

「これ、あげる」

「マジで」

「うん。これ飲んだからもぉ成仏しなよ。そしたら、生まれ変わるしさ」

「まぁ、確かにね。じゃあいただくね」


 凛海は受け取ると、蓋を開けて飲み始めた。その間も悠馬はただ目の前で波を打ち続ける波を見続けていた。


「そういえば、なーんで顔見ないの?」

「別に。ちょっと、現実味が感じられなくてな」

「そうかぁ。ちなみに幽霊嫌い?」

「嫌いじゃない。むしろ、なんか分かり合える人がまさか幽霊だなんて思いもしなかったし、悲しかった」


 悠馬の言葉に凛海は「私も」と言った。


「えっ」

「私も、早くに君と出会えていれば死んでいなかったかもしれないよ。それに、こんなにも気持ちを素直に言えたのは君のおかげでもあるから」


 凛海はそういうと貰った飲み物を飲んだ。そこで悠馬は顔を見た。青空の太陽で照らされた彼女は吹っ切れたかのような顔をしていた。


「何も思い残すことないか」

「ううん。全然。でも言いそびれたけど、両親の話の半分は本当だよ。うちの両親、ちょっとは愚か者だけど、小さい頃はとっても優しくて、時々いろんな所に連れていってくれたから、それもあるから完全には恨んでいないんだ」


 凛海は笑顔でそう語りかけた。


「そうか」


 悠馬は自分用の飲み物を開けると喉に流し込んだ。冷たく、胃の中が涼しく感じた。


 そして、横を見ると凛海はおらず、ただそこには先ほど挙げた飲み物の缶だけが残っていた。


「…片付けろよ。たくっ」


 悠馬はしばらくの間、波を打ち続ける海を眺めながら飲み物を口の中に入れたのだった。



 その次の日の朝、花を買った悠馬は祖母からあの子が死んだ崖に向かった。歩いて結構な道のりを歩き、暑さで滲む汗を拭いて上につくと「ふぅ」と息を整えた。


 崖の上には少し萎れてしまった花束が置かれていた。自分以外に誰かがおいたのだろうと思いながら自身も花を添えて手を合わせた。


 手を合わしているその時、後ろからあのと声をかけられ、振り返るとそこには花束を抱えた男性が立っていた。


「娘の知り合いかい?」


 娘という言葉に悠馬はもしやと思った。


「もしかして、凛海のお父さんですか」


 悠馬が言うとその男性は「はい」と返事をした。


 その返事にこの人が凛海の親と言うことがわかった。凛海の父親に言葉を掛けようとしたが、父親は「お花ありがとうね」と言いながら自身が持っていた花を添えたが、オレンジの炭酸ジュースを見ると驚きの顔を見せた。


「君よくわかったね。娘の好きなジュースがオレンジの炭酸って」


 父親は懐かしいなと口にしながら缶を眺めていた。


「そっ、それのことなんですけど。それは、彼女自身から好物ということを知りました」


 悠馬の言葉にどうゆうことと凛海の父親が疑問を感じさせた。


 悠馬は信じられないかもしれないがと思いながらもこれまでの経緯を話した。罵倒されるかもしれないと思ったがそんなことは今更どうでもいいという気持ちが高かった。


 だが、父親は罵倒するどころか「そうか、娘にあったのかと」と口にした。


「えっ?」

「……実はね、ここに友人が住んでいるだ。娘が死んだ数ヶ月後に電話をくれてね。ワンピース姿の君の娘が時々目撃されているって。それで月命日に必ず行くようにしているけど、娘には会えなかったんだ」


 父親は崖の方を見つつ、話を続けた。


「あの日のことは、いつでも思い出している。会社の方で娘が崖から飛び降りて自殺をしたっていうことを」


 父親は表情は一切変えないでいたが、拳を握りしめていた。


「現場に、妻と一緒に着いて最初に感じたのは、海の潮の匂いと共にパトカーの音。目の前には娘がずぶ濡れのままの姿で眠っているように死んでいる姿。そして、いつの間にか響いていたのは妻の悲痛の叫びがいつまでもフラッシュバックをしていた。お互いの両親にひどく責められたが、何も言えずにいたんだ」

「そうなんですね。ちなみになんですけど、なんで急に仕事ばかりになったんですか」


 悠馬の質問に父親は「昇進したんだ」と口にした。


「長年の成果が認められて昇進し、そこから忙しくなった。家のこともそこからだった。まだまだ甘えたいばかりの娘を放っていくようになり、妻には家のことばかりを押し付けたんだ」


 父親は自身の行いに後悔をしているのか、表情から苦悶の表情が浮かんでいる。


「あの、奥さんはなぜここにいないのでしょうか」


 悠馬は普通なら一緒にここに来るはずの奥さんの姿が見えないことに疑問を感じて質問をした。


「妻は今は入院をしているんだ」

「えっ。病気ですか」

「いや、違う。実はこれは君に言っても辛い話なんだけど、妻は浮気などをしていたから尚更両親に責められた挙句に絶縁をされてしまったんだ。その後に自身の行動の愚かさに気が触れてしまったんだ。もちろん、そうなる前にこの街とおさらばしたんだけどね」


 その言葉に悠馬は「そうですか」と小さい声で返事をするしかなかった。


「最初なんだが、娘がなん度も夢の中でお前らのせいでこうなった。お前らのせいでこうなったんだ。責任とれ。責任取れってなん度も頭から血を流したまま繰り返し言いながら現れた。だけど、苦しみなんて一切感じなかったさ。何せ、それは罰。今まで私たちがしてきたことでの罰なんだ。僕たちは夢の中で何度も謝った。お前のことを大切にしてやれなくてすまないと、その後娘は夢に現れなくなった」


 父親はそう言うと、「なぁ」と声をかけた。


「はい」

「娘は、凛海は君とはどんな話をしていたんだい? できれば、聞かせてほしい」

「えっ、と。彼女はお友達のことなど。あと、あなたが他のことなんですが、最後にこう言っていました。とても優しく、小さい頃にさまざまな所に連れてくれていったなどの思い出があるから完全に恨んではいないと」


 悠馬がそう言葉をかけると、父親は涙を浮かべた。


「何を言ってるんだか、私らは娘を追い詰めて殺したのも同然というのに、それなのにあの子は」


 父親の目から一筋の涙が流れた。太陽の光できらりとひかると、そのまま地面に落ちた。


「……それだけ彼女はあなた方のことを恨みながらも、家族として愛していたからです」


 悠馬の言葉が聞いたのか、父親はその場で泣き崩れた。


 泣き崩れている父親に頭を軽く下げ、母親にもこのことを話してくださいと口にして降りていった。


 そして降りている最中、生暖かい南風が吹いては落ちている枯葉が宙を舞った。


▲△

最後まで読んでくださいってありがとうございました。

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