第8話 万松寺
「愛李より各機へ、ただいまよりコマンド【標準】の演習を行う。全機所定位置へ移動せよ」
「了解」
アルファからイータまで各機が応答する。
「アルファOK」
マザーの正面、敵に一番近いところのに位置した。
「ベータOK」
マザーの真上に位置した。
「ガンマOK」
アルファの後方少し上に位置した。
「デルタOK」
アルファの右に位置した。
「イプシロンOK」
マザーの真正面に位置した。
「イータOK」
俺はマザーの中のハンガーだ。
「敵。システムエネミー、タイプUFO。母船8機。子機162機。コマンド【標準】始動」
愛李の発令とともに、アルファ、デルタ、ガンマが動き出す。ガンマは斜め上方に飛び敵軍の上空を目指す。しばらく敵に向かって直進していたアルファが静止する。
「アルファ。メガ粒子砲発射します」
アルファの肩口に現れたメガ粒子砲は以前と形状が違う。レベルアップに伴い、さらに広範囲の敵を射程に収めるようになった。この敵配置なら十分全域をカバーできる。きれいに拡散された荷電粒子の雨が敵軍に降り注ぎ、シールドを持たない子機は、ビームに貫かれ散っていく。40%程の子機が今の砲撃で消えた。母船はシールドを張りなんとか耐えている。
「ベータ。射撃を開始する」
構えたロングライフルから量子弾が放たれ、一番先頭にいた母船をシールドごと破壊する。敵母船のウィークポイントは経験上知っている。真ん中少し下の方。どうやらここにエネルギー反応炉があるようだ。一発当たれば爆発する。ベータの射撃は寸分の狂いもなくそのポイントを打ち抜く。
「ガンマ、ポジション確保。ジャミング開始します」
敵編隊の上部に位置したガンマから強烈な妨害電波が発せられる。子機の放つミサイルは使い物にはならない。それに子機は母船の誘導を受けているらしいので、子機自体の動きもおかしくなる。
「デルタ。掃討戦に入る」
ビーム砲を発射しながら残った子機をデルタが墜とす。
「イータ。出る」
俺も掃討戦に加わろうとした。が。
「マスター。その行動は予定されておりません。待期してください」
「…はい。わかりました」
即効で却下された。
「マスター。私たちにお任せください。あと20秒もすれば片付きます」
ガンマは優しい。喋れるようになってから、俺にいつも優しい言葉を掛けてくれる。
「ありがとうガンマ。お前だけだ、いつも俺を気遣ってくれるのは。それにくらべて」
「作戦中です。ガンマ、私語は慎みなさい。マスターもよろしくお願いします」
「了解しました。艦長」
「はーい。了解すますた」
「マスター、士気に関わります。普通に話してください」
愛李は最近どんどん恐くなった。
「マザー。主砲準備。目標敵侵入ポータル」
マザーの中央部に主砲が迫り上がる。
「クォンタム砲撃てー」
主砲から発射された量子砲弾は一直線に飛び、エネミー侵入ポータルを捉えた。着弾した瞬間砲弾ははじけ、量子は全てエネルギーに転換される。眩い光がポータルを飲み込み、光が消えるともに、その場所には何も存在しなくなった
「侵入ポータルの消滅を確認。敵、残存兵力ゼロ。コマンド【標準】停止。全機帰投せよ」
俺とイプシロンの出番はなかった。
「つまんねーな、イプシロン。いくら演習とはいえ、その場その時のフレキシブルな対応ってのも必要だよな」
「艦長の指揮に不満ですか、マスター」
「いやいや、不満なんてとんでもない」
「ならば、あんまりお話にならない方がいいかと」
「そうなの」
「私たちはかまいませんが、マスターは直接艦長と接せられるので」
「イプシロン。それってどういう意味?私がマスターに直接物理的危害を加えるとでも言うの」
「過去のデータによれば、あながち否定はできません」
たしかに。戦闘終了後、緊張から解き放たれ、無性にスカートめくりがしたくなったことがあった。試行したら左中段回し蹴りがレバーにヒットした。俺は中坊か。
「それは危害ではありません。指導です。マスターとしてあるまじき行為を諫めたのです」
「了解しました。艦長」
おいおい、イプシロン。なにを了解したんだ。なんて思ってたら、緩んだ空気を一変させる警告音が鳴り響いた。
「マザー前方に進入ポータル出現」
オペレーターが報告する。このフィールドはクローズド設定にしてある。他プレイヤーの侵入はできない。となると。
「敵確認。タイプUMA。ユニット名”モスマン”数20、さらに増えます」
システムエネミーの乱入だ。
「全機に次ぐ、コマンド【標準】発動。イータ、出る。愛李、指揮しろ」
「了解しました。マスター」
帰投しかけていたユニット達は、先程と同じフォーメーションを組む。ポータルからは依然としてモスマンの侵入が続いている。閉じそうもない。
「また、乱入か。ちょっと多すぎないか」
俺はアルファの左に移動しながら敵を見ていた。なんか最近システムエネミーの様子がおかしい。戦闘中やたらと新たな侵入ポータルが開き、どんどん乱入してくる。
「アルファ。メガ粒子砲発射します」
「ベータ。射撃を開始する」
「ガンマ、ポジション確保。ジャミング開始します」
「デルタ。掃討戦に入る」
「マザー。主砲準備。目標敵侵入ポータル」
コマンドの流れが淀みなく進行していく。
「異なるタイプの敵出現。”アルゲンタヴィス”」
ポータルから翼を広げたとてつもなく大きな怪鳥が現れた。翼開長はモスマンの6,7倍はあろうか。
「愛李、鳥は任せろ。ポータルを撃て」
フルスロットルでアルゲンタヴィスに向かって突っ込んでいく。右手が背中に伸びる。鈴木との遭遇以来、俺はサイコブレードをいつでも抜くことができるようになった。目前に迫ったイータに対して、アルゲンタヴィスは大きく羽ばたきをした。猛烈な突風が巻き起こり、風の塊がイータに衝突する。目に見えない壁に激突したイータは、その場で静止した。アルゲンタヴィスが猛然と襲いかかり、鉤爪がイータを握りしめる。巨体に似ず俊敏だ。
「コマンドインタラプト。マスター救出」
愛李が割り込みをかける。全機が遂行していたタスクを一旦中止し、イータの救出に向かおうとする。
「インタラプト撤回。剣よ伸びろ」
これぐらいのことでインタラプトをかけていたんじゃ、コマンドを実行する意味が無い。愛李、指揮が甘いぞ。サイコブレードの切っ先をアルゲンタヴィスに向け、俺は命じた。サイコブレードは加速しながら伸びていき、怪鳥に突き刺さった。悲鳴のような声をアルゲンタヴィスは上げた。しかしまだイータを握りしめたまま、さらに力を加えてくる。
「のおりゃー」
俺は両手でブレードを掴み、重力の力も借りながら下に向かって切り抜いた。けいれんを起こした鉤爪を返す刀でなぎ払う。鉤爪もろともイータは切り離され、機体をふるわせ鉤爪をふりほどく。自由になったイータは怪鳥の頭部に向かって進み、伸びたサイコブレードを大きく振るった。
「あぎゃー」
胴体から切り離された首が断末魔の悲鳴を上げる。続いてマザーが発射した量子砲弾が進入ポータルをかき消した。
「敵残存兵力11、7,3,ゼロ。敵兵力全滅を確認」
「よし、コマンド停止。全機警戒態勢に入れ。マーカーに移動する。デルタ、速やかにマーカーに乗れ。終わらせるぞ」
「デルタ、了解」
乱入軍団は返り討ちにした。
「愛李、あれぐらいでインタラプトをかけるな。俺を信用してないのか」
「申し訳ございません。しかし、私にとって何よりも優先すべき事項は、マスターのご帰還であります」
「わかってるよ。でも俺ってそんなに弱っちいか。頼りにならないぐらい」
「いえ、決してそんなことはありません。我が部隊で一番戦闘力が高いのがマスターでございます。撃墜数はアルファに及びませんが」
「ま、撃墜数はな。あいつはうちのエースだからかなわんけど。でも、タイマンやらしたら俺が一番強いんだろ、お前の見立てでは。だったらもっと、どっしり構えて作戦指揮を執ってくれよ」
「は、はい。わかりました。今後このようなことがないように、努力します」
「努力って。ないようにしてもらわないと困るんだけど」
「すみません。マスター…」
愛李の声が途絶えた。
「マスター。早くマザーに戻って、艦長に元気な姿を見せてあげてください。早く!」
守秘回線でガンマがささやく。俺はイータをすっ飛ばしてマザーに戻った。艦長席に着くやいなや椅子から跳び上がり、愛李の下へ向かう。
「お、おう。愛李。ちょっと言い過ぎた。ごめん」
席にしょぼんと座っていた愛李が、俯いていた顔を俺に向かってあげた。
「マスター…」
俺は膝の上に乗っていた愛李の両手を取り、彼女を立ち上がらせた。
「ありがとう。いつも感謝してるよ」
ぎゅっと手を握りしめる。
「あ、マスター」
愛李の顔がほんのり赤く染まり、伏し目がちの目が潤む。ともに戦火をくぐり抜けてきたかけがえのない仲間であり、俺をこの世界に導いてくれた道標。愛李がいなければ今の俺はなかった。
「マスターのことを思うと、つい厳しい口調になってしまいます」
「ま、それもしょうがないかも。いまのままでいいや。さっきの言葉は撤回する」
「はい、わかりました。でも、もっとご自愛ください」
ひたすら目の前のモニターに集中し、沈黙を守っていたオペレーターが、申し訳なさそうに口を開いた。
「マスター。システムコールです。GMよりメッセージが届きました」
「お、なんだ?モニターに映してくれ」
俺は手を離し、席に向かった。愛李は名残惜しそうに手を見つめ、さすりながら席に座った。顔を上げるといつもの凜とした愛李に戻っていた。
【全プレイヤーに緊急要請。昨今、UMAの侵攻が激しさを増しており、あらゆる戦場においてUMAの出現頻度が非常に高くなっている。調査の結果、異常とも言えるUMA出現ポイントを発見。このポイントを破壊、封鎖しなくてはUMAはひたすら増え続け、全ての戦場にUMAが満ちあふれる事になることが予想される。よって全プレイヤー間の戦いを一時停止し、UMA掃討作戦に参加されたし。武功高き者にはそれ相応の報酬を与える。作戦開始時間は日本時間2014年5月17日土曜日、一○○○(ひとまるまるまる)。UMA発生ポイントに向かう特設フィールドをオープンする。今回の作戦において敵の数が尋常ではないことを鑑み、個別対応では掃討は難しいと判断した。よって初めて、師団を三つ編成し、各師団ごとに師団長を置き、師団長3名による合議制に基づいて、作戦行動を展開することとする。師団長についてはGMからの推薦をうけたのち、全プレイヤーの信任投票によって決定する。今回のオペレーションを『スリーアロウ』と命名する。全プレイヤーの参加を切に望む。以上】
ほー、大規模掃討戦か。イベント開催ってわけだな。乗るしかないだろう。たしか夜勤明けだったはずだが問題ない。箱の中で丸一日はとれるだろう。妻も用事があって出かけるし、子供達も部活で出て行く。師団長か。誰が選ばれるんだろう。GMが選ぶってか。ふーん。
「愛李、今のあっちの時間は?」
「現在日本時間2014年5月16日金曜日。○八二三。六曜は先負です」
六曜はいらないんじゃ…
「そ、そうか。あっちの世界で明日か。準備時間は十分あるな」
「はい、コマンドの精度も上げることができます。新しいコマンドも作成可能です」
「レベルアップもしないとな」
現在イータ以外のユニットレベルは12。イータは11だ。
「よし、次の戦場に移るぞ。あっちに戻るまでユニットレベルを14に上げる」
「了解しました。マスター」
俺はポータルの占領を終えて、次のフィールドに向かった。
5月17日土曜日午前7時36分。勤務先より自宅に戻った。子供達といつものようにエレベータ前ですれ違い、短い挨拶を交わす。玄関から廊下を通り、クローゼットの前まで進み、背広を脱ぎネクタイを外す。今日夜勤で明日が休みだったよなと、自分の勤務予定を思いだしてみる。最近時間と日付の感覚がおかしくなっているので、勤務予定を忘れがちだ。念のため手帳をのぞく。間違いない。明日と明後日、連休だ。しかし、家に妻と子供がいる。ちくしょう、ついてない。ま、オペレーション【スリーアロウ】に参加できるだけでも良しとしよう。だからついてないじゃなくて、俺はついているのだ、と自分に言い聞かす。
「どうしたの、会社で何かあったの?」
妻が聞いてくる。
「いや、特に何も無いよ」
「そう?なんか思い詰めた顔してるよ」
女という生き物は日常の出来事の変化にとても敏感だ。
「いや、このところ休みが少ないし、休みもただ寝るだけで、休みが休みじゃないし」
「そうね、でもあたしも休みがないのよ。今日もPTAのベルマーク収集だし、明日は子供の試合だし、休みが全部家族の予定で埋まってるのよ。貴方もちゃんと協力してもらわないと…」
はいはい、わかってます。貴方は働いています、私以上に。そのことはしっかり心の留め置いております。だからストレスを俺にぶつけないでくれ。
朝食を食べてる時間のほとんどを妻の不満解消に当てた。直接俺に対する不満ではなかったのが幸いだ。胃は痛くなってない。
「じゃ、いってくるわね」
「行ってらっしゃい」
妻が玄関の先に消える。くるりと振り返ったときから俺の時間が始まる。部屋に戻りリュックを開ける。中から食料と飲み物を取り出す。四食分準備した。現在時刻日本時間午前八時三十三分。一日後に作戦が始まると考えていいだろう。洗面台に向かい歯を磨き、ひげを剃る。ローションを塗りながら顔をのぞき込む。よし、我ながらいい顔だ。気合いが乗っている。
「いこうか、朝永」
鏡に向かって声をかけた。
箱に入って【スリーアロウ】の準備状況を確認した。注目の師団長は第一師団楽毅:レベル32、第二師団オルレアンの乙女:レベル31、第三師団ダレイオス:レベル31の三名に決定した。後の二人の噂は聞いたことがある。異論もあったが、俺的には妥当な線だと思う。ま、何処に行っても、自分が中心でないと気が済まない奴らはいるものだ。
第一師団160名、第二師団174名、第三師団166名で構成されている。作戦開始時間まではもちょっと増えるだろう。でも、こんなにプレイヤーがいるのか。一体みんなあっちの世界でなにしてるんだ。どの師団に属するかは各プレイヤーの自由意志で決まる。ちょうどいい感じにばらけてる。俺は迷わず第一師団。李苑とブラックインパルスもやってきた。
「三者同盟ふっかーつ!」
李苑が明るい声で呼びかける。
「了解」
相変わらずブラックさん落ち着いてる。
「お二人さん、よろしくお願いします」
俺も答える。現状のレベルは、俺14、李苑15,ブラック15。皆さんやるなー。ちょっと恥ずかしい。
「作戦時間まで時間があるので、演習しませんか?」
「賛成です」
「んーと、それじゃー、ここいきましょう」
李苑が指定したフィールドに一斉に進入する。システムエネミーを狩りながら近況報告及び情報交換。李苑やブラックが戦ってきたフィールドでもUMAの乱入は頻繁に起こり、時間がたつにつれ回数も強さも増していたとのこと。
「あのねー、ホーキングさん、ブラックさん。戦いの中でちょっと気になるメッセージを見たんだけど。『LOST』ってメッセージ見たことあります?」
「見てません」
「俺も見たことないな」
「あたしも見たのは一回だけなんだけど。なんだろうっておもって。一緒に戦ってたプレイヤーさんが、ネッシーに囲まれボロボロにされてたのね。助けに行ったけど間に合わなくて、下の方に墜ちていったの。戦闘終了時にそのプレイヤーさんの名前の横に『LOST』って表示されてた。うちの従者に聞いてみたんだけど、ロストはロストですって」
ロスト。失うって事。
「うーん。何とも言えないな。愛李、『LOST』ってなに?」
「ロストはロストです」
「ありゃ、こっちも同じ返事だ」
「とにかく、そのような現象があると言うことは憶えておきましょう」
ブラックがまとめたので、ま、ここまでということで。
「よーし、マーカー誰が乗りますかって、やっぱ決まってるよね」
「御意」
「えーやっぱり。もー、どうしてうら若き乙女が、まいどまいど突撃しなくちゃいけないの!!」
「だって李苑さん固いから」
「なんか、その固いって、びみょー」
「李苑さん、よろしくお願いします。指一本、ミサイル一発触れさせません」
「はーい、ブラックさんわかりました。ホーキングさんもよろしく!アーサー突っ込め」
日本時間201○年5月17日土曜日、○九五九(まるきゅうごうきゅう)。あとπ時間で約23分後にでオペレーション【スリーアロウ】のゲートが開く。参加するプレイヤー達はロビーで待期している。オープン回線を通して、色んな声が聞こえる。やってやるぜー!俺って最強!祭りだー、うちの嫁最高!とにかくわけわからん叫びが響いている。ものすごい興奮状態だ。
GMから一斉メッセージが届く。各プレイヤーのモニターにカウントダウンタイマーが現れた。15分前だ。師団長三名から最後のブリーフィング。とにかく指揮に従うこと。単独行動は慎むこと。そして無理をしないこと。この三つが強調された。
あと一分、59秒、58秒、57秒…5,4,3,2,1,ゼロ。モニターにフィールド名が表示された。『万松寺』
「全機突入!」
楽毅、オルレアンの乙女、ダレイオスの号令に従い、俺たちはバトルフィールドに進入した。
名古屋が誇る三英傑が筆頭、第六天魔王の御尊父、織田信秀様が眠られる墓所が万松寺だ。(実は、お墓は別の場所に移築してある)葬儀の際、魔王殿は抹香を手づかみにして信秀公の位牌に投げつけられたそうだが、死して500年近く後、自分の墓所が戦場になるとは、尾張の虎殿にとって迷惑千万な話であろう。
各師団は万松寺の境内の東端に進入した。水場のちょうど真上だ。土曜の午前十時と言うことで、すでに境内には参拝客が訪れている。受処におじいさんとおばあさん、お守りでも買っているのだろうか。左手の売店内には店員一名と若い女の子三名。万松寺グッズを物色中のよう。右手のスペースに四、五人の若い男の子。とまあこんな感じ。もちろん次元が違うので俺たちから見れば、彼らは静止しているようにみえる。(ものすごいスローモーションで動いてはいるが)
問題は彼らでは無い。UMAとUFOだ。ほぼ全プレイヤーが、進入と同時に一斉に索敵を開始したが、奴らは一匹、一隻も見つからない。えっ、GMさん話が違うよ。ここはUMAが異常発生しているポイントじゃなかったのかい。バトルフィールドは静寂に包まれている。ビープ音一つ鳴りやしない。オープンチャンネルに立ちこめる異様な沈黙を破ったのは楽毅だった。
「不動堂の東まで前進しよう」
「そうだね…。ここにじっとしてても埒があかないしね。いこうよ」
「虎穴に入らずんば虎児を得ずだな」
三人の師団長の意見は一致し、三つの師団はゆっくりと西に向かって進軍を開始した。不動堂の東端に移動が終わったと同時に、師団長達のモニターに敵進入ポータルが表示された。場所は本堂一階及び奥の院だ。
「二カ所か。軍を分けざるを得ないな」
「本堂は第三師団が行こう」
「第二師団は後方待機でお願いしたいが」
「はーん。一番槍は男どもが独り占めかい?ま、いいや。ちんたらしてると、ケツ蹴っ飛ばすよ」
「では、奥の院は第一師団で。皆さんよろしく!」
「第三師団いくぞー」
「第二のみんなー。まずは徹底的に情報収集。始めー」
軍は三つに分かれ行動を始めた。第一師団が目指す奥の院は地下道を通った先にある。天井に「織田家」と書かれた提灯が飾られている地下道を抜け、正面に信秀公墓碑がある奥の院に到達。敵出現ポイントは北西にある社だ。ボウッと光を放つ社の中から堰を切ったようにUMAが飛び出してくる。先頭はコンガマトー。続いておなじみモスマン、アルゲンタヴィスもいる。とりあえず空飛ぶUMAがどんどこ吹き出てくる。UMAは大きな螺旋を描きながら、第一師団の密集隊形(ファランクス)の外周を何重にも取り巻いてきた。まるで一匹の空飛ぶ蛇だ。動きが速い。
「全員、散開。できるかぎり拡がってUMAの外に」
楽毅の指示が飛ぶ。大きなオムライスがはじける。蛇はそれを許さじと、たちまち形を風船に変えた。
「囲まれたぞ!」
「なんかまずいぞ」
足が遅い戦艦系や大きめのユニットをはじめ多くのユニットが風船の中に取り残された。外に出れたのは少数。俺も取り残され組。ブラックと李苑は外。
「落ち着け!中に残った者、西に攻撃を集中。そこから囲みを抜ける。その後エネミー進入ポータルを破壊する。」
UMAから中に向けて一斉に攻撃が始まった。プレイヤー達に動揺と混乱が拡がる。所詮、烏合の衆なのか。楽毅の指示は実行されない。このままじゃ全滅もあり得る。
楽毅の駆逐艦、フリゲート艦、イージス艦に搭載されていたミサイルが一斉に発射された。ミサイルはユニットの間を縫うように飛び、前方のUMA達に命中する。誘導性能が抜群だ。
「ここに火力を集中するんだ」
各プレイヤーに楽毅からアプリが送信された。モニターに着弾地点が表示される。目標を得たプレイヤー達にやっと行動の一体性が生まれようとしている。社からは第二弾のUMAが飛び出してくる。
「楽毅さん、応答願います」
「こちら楽毅。ホーキングさん、どうぞ」
「敵の動き変じゃないですか」
「たとえば」
「こんなに統制のとれたUMAの動きは見たことがないです」
「僕もそう思ってた」
「これって、まずいんじゃ…」
「うん。まずいね。なんか、嵌められてるような気がする」
ダレイオスから入電。
「こちらUFO軍団と交戦中。新型がいるぞ。データ送っとく。戦況は五分五分ってとこかな」
「了解。こちらは苦戦中。なんとか挽回のきっかけを掴もうとしてる」
「乙女に援軍を要請してはどうだ」
「それもある。もう少し考えさせてくれ」
「いつでも呼んで。指名料は安くしとくよ」
「ありがとう。もうしばらく待期でお願いする」
俺はベータを発進させ火力を増強し、ガンマをデータ収集に送った。
「ガンマ、奥の院全域をくまなくカバーしろ。どんな変化も見逃すな」
プレイヤー達の火力は集中してきた。進行方向のUMAの層が薄くなっていく。モニターに楽毅の指示が映る。このまま前進して敵進入ポータルを破壊するとある。たしかに、そうしないといつまでもUMAが湧いてくる。しかし、この作戦の勝利条件はいつものように占領マーカーの三分間保持だ。その肝心の占領マーカーは見つかってない。
「ガンマ。マーカーはまだ見つからないのか」
「はい。奥の院においては、未だ見つかりません。偽装されているか、奥の院には存在しないか、どちらかだと思われます」
ここに無いとすると、本堂か。本堂は地下一階、地上四階の建物だ。屋上には鐘楼堂がある。よくある迷宮ダンジョンよろしく、最奥部までたどり着かないとラスボスに会えないってか?
「第一師団の全員に告ぐ。未だに占領マーカーの所在は不明だ。よって、攻撃目標は引き続きエネミー進入ポータルとする。高火力ユニットによる一点集中砲撃でポータルを破壊する。後45秒後だ。カウントダウン開始」
着弾地点とカウントダウンタイマーが表示される。開いた社の扉からUMAが飛び出てくる。ここが攻撃ポイント。各プレイヤー自慢の一撃が次々と狙いを定める。そして群がるUMAを迎撃担当のユニット達が食い止める。俺もイータ以外の全機を出撃させた。
カウントダウンが進む…3,2,1,発射!マザーのクォンタム砲とベータの収束荷電粒子砲が火を放つ。同じく各プレイヤーのビームや荷電粒子砲、超大型ミサイル、高運動エネルギー弾などが一斉に発射された。一体となった力が社に鉄槌を下そうとしたとき、光を増した社から二回りぐらい太い“蛇”が飛び出し、鉄槌の前でとぐろを巻く。鉄槌の一撃は決して弱くはなく、とぐろを巻いたそばから蛇を消し去っていくが、淀みなく這い出してくる蛇によって、とぐろは絶え間なく再生していく。渾身の一撃は社に届かなかった。
「なんだありゃー、UMAがポータルを守った?!」
「こんなのありかよー」
「やってらんねー」
プレイヤー達の怒号が響く。
「こちらダレイオス。UFOを制圧しつつある。今から敵進入ポータルの破壊と、本堂二階の探索に向かう」
「ちっくしょー。第三にいいとこ持ってかれるぜ」
「第一は貧乏くじかよ」
「ここはやめて、向こうに合流しようぜ」
プレイヤー達の協力体制が崩れ、集団はまた烏合の衆と化そうとしていた。
「マスター、新たなる敵進入ポータル出現。奥の院南西角、織田信秀公墓碑です」
信秀公の墓碑の先から放電現象が起こっている。真ん中ほどにぽっかりと黒い穴が開き、そこからネッシーが飛び出してきた。イクチオザウルスっぽいのもいる。ナウエリートか。尾びれを左右に振りながら高スピードで、我軍の背後に回り込んでくる。
「乙女に援軍要請。挟み撃ちされそうだが、逆にこっちが挟撃したい」
「オッケイ。今すぐ向かうよ」
発進準備を整えていた第二師団は素早く動き出し、地下道を進む。
「こちらダレイオス。敵進入ポータル破壊を確認。すでに二階に到達した先遣隊に合流する」
「了解。第一師団は引き続き社に攻撃を集中する。ここが正念場だ。すぐに第二師団が合流する。協力して危機を乗り切るんだ」
楽毅の檄が飛ぶ。しかし、一度走った動揺はなかなか収まらない。ナウエリートの攻撃を受けた師団後部のユニット達は浮き足立ち、陣形から離れていく。数匹のナウエリートが突っ込んでくる。非常にマズイ。
先頭を切って疾駆してきたナウエリートの前に巨大な盾があらわれ、そいつは勢いよく頭から追突した。ナウエリートは痙攣し、無様な格好をさらしながら仰向けに宙に浮いた。続いてきたナウエリート達は何事かと怯み、進行速度を落とす。その群れに向かってAAMが一斉に飛んできた。中でも少し色の違う、赤みがかかった一発のミサイルが気絶しているナウエリートに命中、業火とともにUMAは焼け落ちた。
「みなさーん。がんばりましょうー。脇見しちゃ負けちゃいますよー」
「ただ数が多いだけです。指揮に従い対処すれば問題ありません。後部の体勢を立て直しましょう」
オープンチャンネルに声が響く。李苑とブラックインパルスだ。挟撃の第一波を防いだ結果、プレイヤー達は勇気を取り戻し、陣形後部の崩壊は阻止され、迎撃戦が始まった。すごいよ。お二人さん。
しかし、このバトルフィールドの本性がむき出しになったのはこの後だ。地下道を進軍している第二師団の上空には多くの提灯がつり下げられていた。その提灯から下に向けて突然ビーム砲が一斉に発射されたのだ。まるでプールに入る前に通らなくてはいけない消毒水のシャワーだ。この一撃で第二師団は戦力の44%を失い大混乱に陥った。
「次撃たれる前にここを抜けるよっ。飛ばしな!」
残ったユニットは、エンジンに悲鳴を上げさせるだけ上げさせて、地下道の端を目指す。提灯にまた光が灯っていく。次を喰らったら間違いなく全滅だ。すんでの所で逃げおおせた者、推力に乏しく墜ちていった者。結果的に残存兵力は18%。無傷のユニットは、ほぼいない。第二師団は無力化された。
第一師団はついに社の破壊に成功したが、墓碑から出現するUMAの勢いは増すばかり。数に押され始めた。援軍どころかボロボロになった第二師団を助けに行く余裕はない。
「おっ!占領マーカーを見つけた…はあー。何じゃこりゃ」
ダレイオスから映像が送信されてきた。本堂に安置された十一面観音菩薩がぶれた。そして十一面観音菩薩からまったく同じ菩薩が分離した。菩薩がゆっくりと動き出し、第三師団に向かってくる。十一の口が一斉に開いた。暴力的な突風が吹き荒れ、第三師団のユニット達は吹き飛ばされる。壁や柱に叩きつけられたユニットもいる。
これは、リアルを模倣したエネミーか。
「あの分離してきた観音像からマーカーの反応がある。しかし、猛烈な風で近づくことができない」
ダレイオスの苦々しい声が伝わる。他のプレイヤーから恐ろしい知らせが入る。
「う、うしろ、仁王が来てる」
本堂の入り口に、身代わり仁王が、文字通り仁王立ちしていた。こいつも分離体か。憤怒の形相で開いた口からUMAが吐き出される。流れは途切れない。その様子を眺めている第三師団のプレイヤー達にとって、その時間は永遠に続くかと思われた。仁王の口が閉じたとき、本堂入り口はUMAの壁で封鎖された。真ん中には身代わり仁王。まるで壁画だ。仁王が歩き始める。シンクロしてUMAの壁も動いてくる。全てを押しつぶす迷宮のトラップ。
「ど、どうする」
「二階だ。二階から屋上に抜けよう」
恐ろしさのあまり、ほとんどのプレイヤーは一斉に、二階に向かう階段に殺到しようとした。十一面観音菩薩の口がまた開く。今度は風の壁だ。動くことさえままならない。
「にげらんねー」
「に、仁王がくるー」
「いやだー」
第三師団を恐怖が包みパニックが巻き起こる
「落ち着け、バラバラになるな。集中攻撃でUMAの壁を突破するんだ」
ダレイオスが指示するが、誰の耳にも入らない。仁王が手に持つ金剛杵から稲妻が放たれたのを最後に、ダレイオスからの通信が途絶えた。
「こっちもくるぞ」
楽毅が注意を促す。社の下の方に立っていた菩薩像から分離体が現れゆっくりと浮き始めた。菩薩の前に置かれていた小さな弁財天も浮き上がり、菩薩の周りを回り出す。
「マスター、動き出した敵ユニットより占領マーカー反応。頭部にマーカーを確認しました」
ガンマの報告が入った。俺はイータのモニターに映し出される、索敵結果を眺めていた。
『ユニット名:アヴァローキテーシュヴァラ、レベル:不明』
『ユニット名:サラスヴァティー、レベル:不明』
こいつらはUMAじゃない。この戦場は異例づくしだ。
「楽毅さん。俺、行きますよ」
「…わかった。僕は指揮に集中する。他にいける者も送る。頼んだぞ」
「了解です。愛李、イータ出る」
「マスターご武運を」
マザーから射出され、緩い右カーブを描きながら、俺は戦場を眺めていた。第2師団は壊滅し、第三師団もどうなったか分からない。この戦場に入ったときから抱き続けていた違和感は大きく膨れあがり、俺の行動を規制していた。この戦場の目的はなんだ?GMの意図は何なんだ。不思議と恐怖はない。感じてないだけなのか。疑問だけがわき起こる。
「愛李、ガンマ、敵のデータがもっと必要だ。あらゆるアナライズを実行しろ。行くぞみんな。コマンド【標準】実行」
アルファからイプシロンまで同時に了解の声を上げ、コマンドは実行される。シュヴァラの正面に向き合い放たれた攻撃は、サラスヴァティーによって受け止められた。くるくるアヴァローキテーシュヴァラの周りを回りながら、八本の手をいっぱいに伸ばし攻撃を受け止める。サラスヴァティーが握った武器から力場が生まれ、らせん状に八つの力場が拡がり、攻撃を受け止めるシールドを作り出している。何度も攻撃を行ったが全て跳ね返された。こいつは防御担当か。攻撃はどうするんだ。アヴァローキテーシュヴァラの右手が持ち上がり掌がこちらを向いた。口が開き何かしゃべっている。観音経を唱えているのか。開いた口が閉じない。こいつもUMAを吐き出すのか。が、この戦場はまたも俺の斜め上を行く。目に飛び込んできたのはユニット一体のみ。
「マスター。アヴァローキテーシュヴァラの口より新たなる敵ユニット出現。ユニット名:斉天大聖、レベル不明」
ガンマの報告が終わるやいなや、俺は最短距離でイータを走らせ斉天大聖に斬りかかった。斉天大聖孫悟空だと!しゃれじゃなかったら手に負えないぞ。でもこの状況はしゃれどころか、マジもマジ、超ーー本気モードだ。
「楽毅さん、援軍を頼む。俺一人じゃ多分無理ー!」
「了解。まず頼れる二人が向かったよ」
そっか。来てくれたか。そうこなくっちゃ。俺はモニターを見て、一旦斉天大聖から距離を取る。入れ替わりにAAMが全天球より斉天大聖に襲いかかる。真下からはあの赤いミサイル。よっし、お猿の丸焼き一丁上がり。
爆炎の中に立つ陰。微動だにしない。炎と煙が晴れると、傷一つ無い斉天大聖。如意棒をポンポン掌に打ち付けている。左端の口が少し上に上がった。
「マスター来ます」
ガンマの報告終了と同時に、非等加速度直線運動を行った斉天大聖が、俺の目の前に出現した。反応できなかった俺の代わりに、イータがプラズマソードで如意棒の斬撃を受け止める。一撃、二撃、三撃、受けるたびソードにヒビが入る。下から上にかち上げた如意棒はプラズマソードを砕いた。画面いっぱいに拡がる『DANGER』の赤いアラート。
脳天めがけて振り下ろされた如意棒を無我夢中で受け止めた。握っていたのはサイコブレード。斉天大聖が笑った。今度は口を開けて。
上下左右斜め、とにかく色んなとこから如意棒が打ち込まれてくる。イータと連動してるが全く余裕が無い。多分、愛李もバックアップしてくれているのだろうけど、それがあってもこの状態。神経が、精神が、心が追い込まれていく。正面から如意棒が打ち込まれる。右から左に受けようとブレードが動いてる途中で、如意棒が伸びた。そうだ。こいつは伸び縮みするんだった。思いだした刹那、如意棒はイータの胸を強打しその衝撃はコクピットまで伝わってきた。突然の痛みに体がくの字に曲がる。イータは後ろに吹き飛ばされ、斉天大聖は如意棒を縮めながら引いた。追撃がくる。繰り出される突き。如意棒は伸びる。動けない俺。視野に機体が映りこむ。ガシーンと衝撃音。プリトウェンが如意棒を受け止めた。
「ホーキングさん。しっかり。二人でいきましょー」
「かっ、ありがとう、気をつけて。その棒…伸びる、ぐ」
「しゃべんなくていいからー。あたし受けるから攻撃してー」
「りょ、了解」
斉天大聖は乱入者にムっとしたのか、プリトウェンを叩きまくっている。壊さんばかりの勢いだ。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよー。いくらお猿さんでもやっていいことと、悪いことがあることぐらいはわかるでしょー」
斉天大聖が跳び蹴りをかまし、アーサーは盾ごと後方に押しやられる。そのタイミングを見計らい、アーサーの陰からイータは飛び出す。猿の頭に振り下ろされたサイコブレードは、如意棒で受け止められる。が、ここで攻撃の手を緩めてはダメだ、連続攻撃!さっきと攻守は逆転し、イータは斉天大聖に負けず劣らずの剣技を見せる。猿の打ち込みパターンを学習してるのだ。ブレードを突く。猿が右から左に如意棒を動かす。ここだ!サイコブレードは伸びる。斉天大聖にやっと一撃打ち込めた。
斉天大聖は静止した。イータも止まってる。向こうから赤色のミサイル二発。俺はイータを後ろに引く。再び爆炎に包まれる斉天大聖。
「ふーっ、ガンマ猿の状態は」
「今の攻撃でダメージは与えたようです。詳しいことは、未だわかりません」
斉天大聖はしばらく俯いていた。ゆっくりと上げた顔に笑みはなかった。そして右手を口に当て指笛を鳴らした。何を呼ぶって、きっとあれだ。予想通り、現れたのは觔斗雲。オプション装着で攻撃力3πr3倍ってか。
オープンチャンネルに聞き慣れない声が響く。声の主はアヴァローキテーシュヴァラだ。
「我は観る。試練の前のお前達を。抗うのか、飲まれるのか。尽きるのか、生じるのか。希望、諦念、絶望、達成。続くのか、終わるのか。歩くのか、座るのか。選ぶのは自らである。その全てを我は観、記憶しよう。願わくば多くの者が、我に深い記憶のひだを刻まんことを」
は、記憶しようだって?それだけ?それだけのために、こんなだまし討ちみたいな戦場を用意したのか。
「記憶、記憶ってその後に何があるんだ。答えろ菩薩!」
答えは返ってこない。
斉天大聖が頭の毛を抜いた。フーッと息を吹きかけ、その先からわらわらと、斉天大聖達が現れる。分身だ。
「ホーキングさん。とにかく、倒さないと。こいつが向こうに行ったら最後、マーカー占領は、ほぼ無理でしょう。斉天大聖に集中しましょう」
ブラックの一言を聞いた俺は、大きく頭を2,3回振った。
「そうですね。考えても始まらない。目の前の出来事に集中するしかないか」
「よーっし。三者同盟いきましょー!」
「よろしく。ホーキングさん。李苑さん」
「んじゃ。分身はブラックさん。俺と李苑さんで本体行きます」
「了解」
「いくよー、みんな。ランスロット弓打ちまくって-」
ランスロットと6機の航空機が放つ弓とミサイルが、猿を次々と撃破していく。しかし、いかんせん数が多い。俺は本体行きますと言ったものの、肝心の本体を見失っていた。まんまと分身の術に嵌まってる。
「ガンマ、本体はどいつだ、分かるか」
「分身が多数出現し見失いました。現在再スキャンを行っています」
「さっきあそこにいたはずなのにー。こら!逃げないで正々堂々と戦いなさい!」
襲いかかる猿どもを千切っては投げ、千切っては投げ。相変わらずアレキサンダーとユリシーズはパワフルだ。アーサーは言わずもがな。どんどん一直線に突っ込んでいく。さっきまで斉天大聖がいた場所に向かっている。(そこだっけ?ちょっと違うような…)
「うおりゃー。あー、やっぱり偽物だ。出てこーいお猿さん。アレキサンダー、ユリシーズ、捜して!なんか手がかり憶えてない?…あ、傷だ。お猿さん胸に傷があるはずよ。ホーキングさんがつけた」
「そうか、ブレードで一撃入れることができたその時の傷か。ガンマ、胸に傷を持つ個体だ」
「了解しました。その条件で再走査します」
楽毅が送ってくれた新たなユニットが加勢にきた。
プレイヤー名:マホメッド・シャルーク、ユニットタイプ海賊船。レベル20。ユニット数1
「ちょっとこれ以上は送れそうもない。よろしく頼むよ」
「ありがとうございます。マホメッド・シャルークさん、よろしくお願いします」
「おうよ!海賊様が来てやったぜ。大船に乗ったつもりでいろよ」
海賊船は帆を一杯に広げ、大砲を撃ちまくりながら、猿の群れに突っ込んでいった。援軍はこれで終わり、この戦力で斉天大聖を討ち取らなければならない。
「愛李、マホメッドさんを含めた四人で斉天大聖を倒す戦略を立てろ。とりあえず、突っ込む」
「了解しました。しばらくお待ちください」
俺も海賊船の後を追い、猿の群れに突入していった。
「オルレアン。無事だったか」
「はっ、ザマー無いね。第2師団は壊滅。あたしも弓兵2騎失っちまったよ」
「でもまだいけるだろ」
「そりゃそうさ。やられたらやり返すのがあたしの流儀さ。そのぶんじゃ、なんか閃いたようだね」
「弁天が描く円の中に入らなければ、菩薩に攻撃が届かない。かといって闇雲に攻撃しても弁天を突破できない…強力な集中攻撃によって弁天の動きを止め、その隙に菩薩の頭を破壊、占領マーカーを露出させる」
「なるほど、至ってシンプルな策だね。でもその攻撃力で弁天は破壊できないのかい?」
「シミュレーションによれば無理だ。あの八つの力場は重なることによって、我々の攻撃力を遙かに凌駕する。力場が発生している限り、弁天は墜ちない。しかし止めることはできるはずだ」
「それじゃ、残った全軍で攻撃かい」
「そうだ。タイミングはお猿に対する攻撃と同期させる」
今やなんとか軍団としてのまとまりを保っているのは第一師団のみ。しかし墓碑から吹き出てくるUMAは勢いが衰えない。軍団のしんがりに今度は斉天大聖の分身どもが襲いかかり、またもや挟撃されている。
「ホーキング君、そちらの作戦とこちらの作戦をリンクしたい。策は立ったか」
「ちょっと待って…今、来ました。送ります」
「了解。受け取った。して…斉天大聖撃破率2.7%か」
「愛李、これ以上パーセントは上がらないのか」
「マスター。現有戦力ではこれが精一杯の数字です」
2.7%という数字が、高いのか低いのかよく解らなかった。簡単に考えると100回中の3回弱、33回中の1回ってことだよな。なんか高い気がする。
「いきましょう、楽毅さん。いけますよ!」
俺はなんだかいけそうな気がした。声に自信がこもっている。
「こちらでも精査してみたが、これ以上のパーセントはでないようだ。やるしかないな。少なくとも、分身の数は大きく減らすことができる。その分、弁天に攻撃を集中出来る」
「ぐずぐずしてる暇はないよ」
「じゃ、皆に作戦を伝えます。ガンマ特定できたか?」
「出来ました。左胸にさし傷を持つ個体を確認」
「僕が立てた作戦も一緒に伝えよう。今ここにいる全員にだ」
「分かりました。愛李。全プレイヤーに作戦伝達」
「真那、全員に作戦伝達だ」
俺と楽毅から全プレイヤーに作戦が送られ、楽毅が呼びかけた。
「作戦計画に従って部隊を動かすんだ。カウントダウン開始」
作戦開始まで後15秒、14秒、13秒…今日何度目のカウントダウンだろう。画面に『GO』の文字が浮かび、残存ユニット達は計画に従って動き出す。オルレアンの乙女を中心とした第2師団の生き残りと第1師団の堅めのユニットが、墓碑からやって来るUMAを受け止める。マホメッド・シャルークの海賊船を先頭にブラックインパルス全機が、斉天大聖本体周辺の分身を集中的に排除。李苑の四つのユニットと、俺のユニット5機が(マザーとイータ以外)斉天大聖に群がり、動きを止めにかかる。そしてその陰からイータが飛び出る。斉天大聖の頭上に。下に向けて伸びたサイコブレードが斉天大聖の頭部を強打する。猿は金剛琢に撃たれたようにフラフラになる!!!
はずだったが、そうはいかなかった。撃破率2.7%は伊達じゃなかった。戦場でそんなに低い確率の作戦が成功するわけがないのだ。古今東西、色んな戦闘があり、その中に信じられないほどの奇跡的な勝利が存在するが、よくよく検証してみれば、やはり勝つべくして勝っているのだ。勝つべき条件が揃っているのだ。偶然が関与したとしても、運も実力のうちと言うではないか。やれることはしっかりとやっていた結果が運をたぐり寄せるのだ。俺にとって2.7%、33回に1回あるかないかの事象は、やはり起きなかった。
周りの分身どもの排除は結構上手くいった。本体の動きを止めるのも上手くいった、と思った。俺が猿の頭上に位置した時まで作戦は完璧だった。が、そこから先は猿の力が勝っていた。体が黄金色に輝き、群がった李苑と俺のユニットを吹き飛ばし、右腕に握った如意棒を真っ直ぐ上に突き上げた。いつものように如意棒は伸び、イータの頭部は直撃を喰らって半壊した。俺の頭蓋は軋んだ。そして頭が割れんばかりの痛みに襲われた。ヘルメットの中で血しぶきが飛ぶ。こんな事があるのか。直接頭を打ち付けられたわけじゃないのに。たまらずヘルメットを外し、放り投げた。イータはかろうじてブレードを握っていたが、動きが止まり。頭を下に向けたまま落ちていった。
「マスター!マスター!」
愛李が絶叫しながらマザーを走らせる。最大戦速だ。落ちていくイータを受け止める気だ。
黄金色の猿は二回りほど大きくなった。大きく吼えると海賊船に向かっていった。大砲を連射するが猿の勢いは止まらない。マストにヒビが入る。折れるのも時間の問題だ。ブラックさんや李苑さんが挑むが、全く意に介さない。イータはマザーのカタパルト上に落ちた。
「愛李、あの撃破率じゃだめだ。もっと…もっと高い確率は出ないのか」
「あれで精一杯です。あれ以上の確率は計算できません」
「なぜだ。俺は今まで結構、愛李の予想以上の戦果を上げてきたはずだ」
「確かにそうです。しかし…今度も必ず予想を覆す事象が起きるとは限りません。マスターは素晴らしい成長を遂げています。レベル以上の力を発揮しているのではと、思えるときさえあります。でも今日は相手が悪すぎます。レベル凌駕を加えても、これ以上の確率は出ません。今からでも遅くありません。撤退すべきです」
海賊船は今にも難破船になろうとしている。しかし、猿の後ろから必死に攻撃を続ける李苑とブラックインパルス。彼らはまだあきらめていない。
楽毅の作戦は成功していた。オルレアンの乙女たち防壁役以外のユニットの集中攻撃は弁天の動きを一時止めるのに成功していた。その時間わずか2秒。その間隙に一発のミサイルが菩薩の頭にヒットした。額から上が吹き飛び、ついに占領マーカーが露出した。これはいける!かと思いきや、弁天が猛スピードで戻ってきて、菩薩の頭の上で回り出した。あと少しでマーカーに乗れる。だが弁天を排除しなければそれは叶わない。
「愛李、誰もまだあきらめてないよ。俺だけ逃げるわけには行かない。それに、俺は最後の一人になっても逃げない。ここが、7BOXが作るこの世界こそ、俺がいるべき場所なんだ。あっちの世界じゃない。ここなんだ。…もう一度作戦を立てる。ただ闇雲に突っかかっても勝てる相手じゃないのはよーく分かった。根拠が必要だ。勝てる根拠が!はじき出せ」
「マスター。それがもう出来ません。先程の結果以上の数字は出ません」
「なせだ!」
「リソースが足りません。これ以上演算を行えません」
「…簡単に言うとメモリーが足りないってことか」
「そのように考えてもらって結構です」
「じゃ、増やせよ」
「どうやって」
「全ユニットのAIをリソースに回せ。その間ひたすらシールドを張って待避するんだ。それだけじゃ足りないだろう。だから俺を使え」
「えっ!?マスターを??」
「俺を生体ユニットとしてマザーのコンピューターに組み込め」
「そ、そんなことは出来ません!」
「俺の頭はそれなりの生体ユニットとして機能するはずだ。それに7BOXは意志の力が一番重要なファクターだろう。だったら俺の意志の力が演算能力を押し上げるはずだ」
「マスター、いけません。そんな、そんな」
「これは命令だ」
「命令…命令ですか」
「愛李、お前は俺に取ってとても大切な道標だ。それと同時に最も忠実な部下だろう。『マスター』の命にお前は逆らうのか」
「…私にとってマスターは使えるべき唯一無二の主人であります。…分かりました。マスターのご命令に従います」
「早くやってくれ。血が止まらない。フラフラしてきた」
「全ユニットマザーに直結。シールドを展開し待避行動をとれ。マスターとマザーを一体化する。ユニオンシークエンス開始」
イータはマザーに戻りハンガーに固定された。俺もコクピットに固定された。初めて7BOXの中に入ったときのように、目の前に光の粒が舞い始めた。両手のひらが熱い。光をうっすらと放っている。その光が掌から腕を通り体中に拡がっていく。舞う光の粒は数を増し、俺の目の中に入り出した。体がなにやらおかしくなっているような気がする。なんかムズかゆいような、感覚が全身に広がる。目から入ってくる光が視界を被い、ある時を堺にスコーンと視界が飛び抜ける。何処を見ているんだ。なにが見えるんだ。広い広い限りの無い空間。見えてきた。大きな岩山と深い谷。山肌は光っている。谷の底を流れるのは荒々しい川か。景色はズンズンと広がり、雄大な渓谷が目の前に現れた。こんな景色は見たことない。感動のあまり手を差し出すと、なんと渓谷を両手の中に感じることが出来る。何処にどんな巨岩があり、どれだけ深い谷があり、流れる川の水もしっかりと把握できる。これは、そうか、データだ。俺の前に数百、数万、数億エクサのデータが展開されている。飲み込まれそうだ。しっかりしろ。このデータの大渓谷から答えを導き出すんだ。
愛李はブリッジで巨大モニターをじっと眺めていた。命令とは言えマスターを生体部品としてマザーに組み込んだのだ。愛しのマスターを。下手をすればマスターは二度と戻らない。マザーと同化するかあるいは、マスターの自我が崩壊するか。そのどれをとっても愛李にとっては耐え難い事態だ。そんなことが起こっては自分は生きていけないだろう。えっ?生きていけない?私はAI。生きてるって言えるの?そんなことを思いながら悶々としていると、モニターに展開されたデータが拡がっていく。
「なんて速さなの。マザーの演算処理能力が飛躍的に上がってる。まだまだ上がるわ。これならもっと高い確率をはじき出せるかもしれない」
喜びに溢れた愛李の瞳はしかし、すぐに影を帯びた。
「高い確率を出したからといって、マスターが戻らなかったら何の意味も無い。けど、この事態を選んだのはマスター、私はマスターの隷(しもべ)。私の気持ちは…マスターと一緒にいたい」
ここまで考えて愛李の思考は停止した。無限ループに陥ったようだ。モニターには先程まで映し出されていた大渓谷がみるみる小さくなり、大渓谷が属する大陸が浮かび上がっていた。湖があり、造山運動による褶曲山脈が背骨のように大陸を貫き、大河が西から東に向かって流れている。北には広い平原地帯が拡がり南に高原地帯、さらに大陸の南端には砂漠地帯が拡がっている。超大陸だ。大陸は回転し大洋が現れる。陸も広いが海はもっと広い。青い大海に波が踊る。しばらくすると海を渡る雲が見えてきた。台風の目もはっきり見える。青い惑星(ほし)が画面に拡がっていた。そこから画面の転換が加速しだした。太陽系のような恒星系を映し出したかと思うと画面が暗くなり、恒星系は小さな点となった。小さな点は増えていき、天の河を作る。そして渦巻き銀河を画面に登場させる。銀河は集まり超銀河団を形成しそれらは泡のように拡がってく。泡の中はボイドだ。宇宙の泡構造をモニターが映し出したところで画面の動きが止まった。
俺はゆっくりなのか超速なのか分からない時間を過ごしていた。目の前に宇宙がある。それは分かったが、ボーッとしてそれ以上のことは分からなかった。見ようと思えば、また大渓谷が見れる。いや、いままで見てきたんだ。最初に戻って見直すことも出来る。過去にさかのぼり、星の誕生から生命の誕生、消滅まで全てを見ることも出来るだろう。体に入ってきた、通り過ぎていったデータを前にして、宇宙の深淵を感じる。自分がその巨大さの前で霞んでいく。心地よい。このまま拡がっていくのも悪くないなと思った。そして、そして、もっと感じてみたいと思った。この宇宙を。霞かけた両手をゆっくりと伸ばし、体を、上半身を前に投げ出していく。ただ拡がるだけじゃもったいない。もっと抱きしめたい。
ブリッジのモニターに変化が現れた。宇宙の泡構造は消えて画面は真っ黒だ。愛李の斜め上、ちょうどマスター席からモニターを結ぶ直線上の空間に光が灯った。光を原点に三つの座標軸が直交する。立体モニターが三次元座標を映し出したのだ。座標に波が拡がっていく。波は常に形を変える一定ではない。同時に暗かったモニターに小さな模様が浮かび上がる。マトリックスだ。2×2のマトリックスが画面に所狭しと描き出される。マトリックスは絶え間なく変化している。計算しているようだ。波とマトリックスはお互いに呼応し、動きに連動性が表れる。絶え間なく揺れる波と、目まぐるしく書き換えられるマトリックスが目に映り、愛李は無限ループから脱出した。
「三次元波動関数とマルチヴァリエイトマトリックスがともに捜している。この境界条件における特殊解を。しかも協調し、連動し,絡み合ってる。これはWMES(Wave Matrix Equation Of Spiral)だわ。方程式を立てるだけで、一生が終わってしまうのに解を導くなんて…人のなせる技じゃない」
波の動きが定まってきた。マトリックスも一定の値で止まり、しばらくして動き出す。こちらも値が決まりつつある。方程式は絶え間ない演算の後、特殊解にたどり着いたのか。
固定具がパージされ、ハンガーから無言でイータが立ち上がり、カタパルトに乗る。グリーンシグナルが点灯し、イータは射出された。
「マスターいつの間に!マスター応答してください。マスター!全ユニット、マスターに続け」
イータは斉天大聖に向かって早くない速度で進んでいく。斉天大聖は海賊船を沈め、空母打撃群に狙いを定めていた。
「ちょっとまちな。先にあたしが相手だよ!」
斉天大聖の前に馬に乗ったジャンヌが立ちはだかった。
「オルレアン!」
「大丈夫、心配しなくていいよ。この隙に少しでも回復して、次の手を打って。いくよボス猿!」
オルレアンは単騎で楽毅のエネルギーが回復する時間を稼ぐようだ。剣を抜き斉天大聖に斬りかかる。ジャンヌは光り輝いている。
「光るのはあんただけじゃないんだよ」
聖なる騎士と化したジャンヌと、觔斗雲に乗った金色の大猿は、空を駈けながら一点で交差し、激烈な打ち合いを行う。一瞬におのが全てをかけて、渾身の檄をふるう。打ち合う間隔が短くなる。まるでクライマックスに向かうように、双方のボルテージは上がる。何度目かの激突のとき、斉天大聖の如意棒がオルレアン剣をいなすように動き、騎馬の目に向かって伸びた。直撃はかわしたが目をすられ、騎馬は片目になってしまった。次の接触時、騎馬は斉天大聖との距離を上手くとれず、ばたついてしまう。その隙を猿が見逃すはずがなかった。強烈な一撃を左前足に放ち、馬の足を折る。つんのめる騎馬の背中から、オルレアンは投げ出された。その場で180度回頭しながら、斉天大聖は如意棒を伸ばしオルレアンの胴をねらう。
グイヤーンと音を立て如意棒は受け止められる。頭が半分無いイータに。斉天大聖は怪訝な顔。いつ現れたんだ、こいつってか。
「…選択された。解は一つじゃない。選ぶのは…おれ」
俺の声はイータとかぶっていた。斉天大聖は怒りの咆哮を上げ如意棒を振り下ろす。その時、三次元波動関数とマルチヴァリエイトマトリックスの動きが止まった。方程式は解かれ特殊解が導かれる。
「解けた」
つぶやいた後、斉天大聖は腰の辺りを水平に切られ、離れていく上半身はさらにアンバランスな比率で左右に別れていった。イータは右に払った両腕を重たそうに下ろした。サイコブレードがとても重い。だが顔を上げ弁天と菩薩を見た。
「李苑さん。俺が弁天に切り込みます。その時弁天の腕をねじ曲げて下さい。力場をそらせば指数的に強度が落ちる。そこをブラックさん狙って下さい」
「力仕事はまかせてねー」
「了解。とっておき撃ちます」
「最後の締めは、楽毅さんとオルレアンさんで」
「よし、わかった」
「まかしときな」
「んじゃ、いきます」
すーっと早くもなく、遅くもなく進み、高速非同心円運動を行うサラスヴァティーに俺は近づいた。何気にブレードを突き出す。八つの力場がシールドを作り出しブレードは受け止められる。そこでサラスヴァティーの後ろにアーサー、アレキサンダー、ユリシーズ、ランスロットが貼り付き、二本の手を思いっ切り引っ張った。
「ちょっと曲げなさーい」
かけ声かけてぶら下がり、サラスヴァティーの上に向いている二本の手が少し曲がる。力場の向きが変わり、シールドが波打つ。青い3本のミサイルと20発のAAMがシールドに命中する。軋むシールド。青い光球がサラスヴァティーに肉迫し、ついに一つが命中した。サラスヴァティーの動きが止まる。感電したんだ。
「はーっ。こんのやろー」
気合いとともにオルレアンの乙女の剣が走り、弁天の顔を砕く。同時にアヴァローキテーシュヴァラの首下にエグゾゼが命中し、菩薩の首は地面に落下した。占領マーカーにF-35Cが降り立った。墓碑の放電が止まりUMAの噴出が途切れた。
楽毅を中心とする残存部隊はUMAを退け、ついに3分間マーカーを保持した。オペレーション『スリーアロウ』は終了した。
ブリッジに展開していた波動関数とマトリックスはゆっくりと消えてゆく。
「WMESを人が導くなんて…」
つぶやいた愛李の目は深いエメラルドグリーン。その色もしばらくして消えた。
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