革命の魔王は祈らない(仮)

アケイロダイ

第1話

 記憶にある限りの最初の記憶は、歓声。民衆が拳を突き上げ、広場を埋め尽くす姿。人の垣が続き、俺はそれを中心から見ている。

 傍には父が、俺の肩を寄せるようにして掴んでいる。半ば、父の体に押し付けられるようにして俺は立っていた。だから、その時の父の顔は知らずとも、妙に力の入ったその手が、かすかに震えていたことだけを俺は知っている。

「革命は成された!」

 勇ましい声が響く。父の声だった。人々はワッと盛り上がる。笑っている。熱狂している。

「悪しき王族から、我々は、我々を解放したのだ! 神は、我々こそが正しきものであるとお示しになられた!」

 これほどまでに騒がしいのに、父の声は広場じゅうによく響き渡っているようだった。父は、俺の肩を抱いたまま、広場の中央へ歩いていく。そこには首を木の台に乗せられ、手を縄に括られた痩せた男がこちらを見つめている。父は、その男を指し、声を張り上げた。

「今、かつては王などと呼ばれたこの男が、この場、この断頭台に首を捧げていることこそが、その証明である! さあ、首を刎ねろ!」

 民衆が静まり返る。こちらを食い入るように見つめている。

 控えていた斧を持った男がそれを振り上げ、首へと落とす。それを数度。その度に男の体は跳ねたが、彼は呻き声ひとつさえあげない。ただ、こちらを見ている。こちらを……俺を見ていた気がする。

 やがて、ころりと、血を吹き出しながら、首が転がった。俺にも血がかかって、生温い感覚が着込んでいるはずの服越しに伝わった。

 父が、首を拾い上げる。そして、掲げた。まだ、ぼたぼたと血が垂れている。

「見よ! 悪魔は滅ぼされた! これから我々の、民衆の時代が始まるのだ!」

 歓声が、一瞬にして広場を埋め尽くした。

 俺はその光景をただ見ていた。その光景の意味を何一つとして理解していなかった。

 でも今は知っている。父が長年の悲願を達した瞬間であり、民の苦しみが除かれた瞬間だったのだ。

 それは、俺が十二のころ。今からたった五年前のこと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る