探索と野営に向けて

 雑貨屋の主人から「帝都跡」探索について助言を受け、ナタンたちは野営に必要な物品を購入する為、「表通り」の店を巡っていた。

 「帝都跡」は広大であり、とても一日で見て回れる規模ではない。探索する場所によっては、数日を現地で過ごすことも珍しくないという。

「探索って、色々と準備が要るんだなぁ」

 天幕や寝袋など、増えていく荷物を担ぎながら、ナタンは呟いた。

「俺、本当に何も考えずに出てきたって感じで、ちょっと恥ずかしいや」

「なに、若いうちは、そんなものだろう」

 フェリクスが言って、小さく笑った。

 ――フェリクスだって、せいぜいニ十歳過ぎくらいだと思うけど、何だか、自分は若くないみたいな言い草だなぁ……

 ふとナタンは思ったものの、何とはなしに、口に出すのはめておいた。

「『無法の街ここ』って、物価は高めだけど、どの国にも属していないということは、税金も取られないってことじゃないか? だとすると、ここで商売するのって、結構いいかもしれないね」

「たしかに、あらゆるものを外部から持ち込むことになるし、その分、物価は上がるだろうな」

 ナタンの言葉に、フェリクスは頷いた。

「しかし、税金は取られないかもしれないが、別の部分で費用がかかると思うぞ」

「別の部分?」

「どの国にも属しておらず、誰にも管理されていないから、いざこざが起きても警察などを頼ることはできない……大抵の店に用心棒がいたが、気付いていたか?」

 フェリクスに言われて、これまでに訪れた店を思い返してみたナタンは、どの店にもいかつい見た目の男や、武装した者がいたことに気付いた。

「用心棒を雇う人件費がかかるってことか」

 ナタンは、「おど子熊こぐま亭」を思い出した。

 ――「子熊亭」の主人は、妻が腕の立つ元剣士である為に、用心棒代が浮くと言っていたな……

「そういうことだ。それに、法のない街は犯罪組織など裏社会の者が棲むにはうってつけだし、そういう連中に、安くない見ヶ〆料みかじめりょうを払っている店もあるだろうな」

「そうそう『うまい話』は無いってことか……」

 苦笑いしながら、ナタンは呟いた。

「……そういえば、リリエは野営なんてしたことあるの? 俺は、学校の行事で近場の山とか湖畔の野営場に行ったことはあるけど」

 ナタンが問いかけると、リリエは少し不安げな表情を見せた。

「い、一応、野外で生活する際のことが書かれた文献は読んできましたが……実践経験は、ありません」

「こうして、しっかり準備をしていくなら、心配ありませんよ」

 セレスティアが、不安げなリリエを力づけるかのように言った。

「セレスティアは、野営の経験があるのか?」

 ナタンは目を丸くした。見るからに、どこかのお姫様という風情のセレスティアが、野営をしているところなど、彼は想像がつかなかった。

「ええ……野営というか、野宿ですけどね。でも、フェリクスと一緒でしたから、私は何も心配していませんでしたよ」

 そう言うと、セレスティアはフェリクスと顔を見合わせて微笑んだ。

 二人の間に何があったのか……もしかして、駆け落ちでもしてきたのだろうか――ナタンは、彼らの過去が少し気になったが、やはり、何とはなしに口に出さないほうがいいような気がして、黙っていた。

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