蒼はピアスを付けたい

粟野蒼天

日常

紙袋を抱えマンションの階段を上がりある部屋の前で俺は足を止めた。


コンコンコンッと3回ほど扉をノックをしてしばらく待つ。


ガチャリとドアが開くと中から黒髪ポニーテールの蒼が姿を現した。

服はとてもラフで薄着のカーディガンにショートパンツ。

微かにリンスの匂いが漂って来る。どうやら風呂上がりだったらしい。


「おかえり、ごめん待たせちゃって」


「大丈夫だよ、お前の買い物に付き合ってる時と同じようなものだからな」


「それってフォローになってるの?」


「俺はその時間も好きってことだよ」


「………そう…なんだ……まぁ、立ち話もなんだし入りなよ」


そう言うと顔を隠されてしまった。照てるな。可愛い。


「お邪魔します」


部屋に上がってソファーに座り込む。


隣には、じゃあはい!腕を広げて何かを待つ蒼がいた。俺はすかさずその腕の中に入り込んだ。


10……20……と心の中で時間を数える。

30秒経つと2人は自然と身体を離した。これが日課だ。


蒼がにやりと微笑む。


「ご飯にする?お風呂にする?それとも僕にする?」


ラブコメによくある典型的なセリフだ。


「じゃ、ご飯にしようかな」


「そこは「じゃあお前にするよ」とか言ってくれないの?」


「恋愛ものの読みすぎだな」


「はいはい、僕は頭お花畑のロマンチストですよ」


あ………拗ねた。


「この!!」


俺は蒼の後ろから抱き着き、わき腹をくすぐり始めた。


「ちょ………やめ………ははは」


「ほんと、蒼って弱いよな」


蒼はわき腹を抑え床で悶えてる。


「う~~~~くすぐりは禁止って言ったのに………」


「ごめん、ごめん」


「とりあえず先にお風呂に行ってきて、ご飯の用意しとくからさ」


「分かった」


風呂から上がるとテーブルにはオムライスが置いてあった。ふわふわの卵にデミグラスソースがかかっていて美味そうなオムライス。


「美味そうだな!」


「そうでしょう!頑張って作ってみたんだ」


ソファーから降りてオシャレなカーペットに二人して座り込む。


「「頂きます!!」」


うん……美味い。とろとろの卵が口の中を満たす。お気に入りの映画を見ながらこうして二人で過ごす。幸せだ。これが俺たちの「普通」日常だ。


オムライスをひとしきり食べ終え、キッチンで皿洗いをする。最低限手伝うようにしている。じゃないと、蒼は「いいよいいよ」と涼し気な顔をして全部片付けられてしまう。そうなれば俺はダメ人間まっしぐらだ。


皿洗いを一通り終え、再び俺はカーペットに座った。


そして紙袋に手を伸ばし、中身を取り出した。


「はいこれ、前に欲しそうに見てたピアス」


俺が手にしたのは雫の形をした青琥珀のピアス


「え………これって………なんで!?」


「今日はお前の誕生日だろ」


あ………とつぶやいた。忘れてたな。


蒼は神妙な顔つきでじっとピアスを眺めている。顔を上げこちらをじっと見つめてくる。


「付けてもいい?」


「もちろん」


そいうと蒼は右耳の耳たぶにそのピアスを付けた。


「どう?」


「似合ってるよ」それ以外の言葉が出てこない。

微笑む蒼の顔はまるで一枚の絵画のような美しさだった。


蒼がこちらに顔を近づけてくる。俺も顔を近づける。

唇が重なり合う。柔らかい感触。脳からいろんなフェルモンが出ている気がする。


唇を離しお互いの顔を覗き込む。


蒼は少し頬を赤らめており、目から微かに涙を零した。


「ありがと」


蒼の涙を拭い、俺たちは再び唇を交わす。


どうか、この幸せが永遠に続きますように。











































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蒼はピアスを付けたい 粟野蒼天 @tendarnma

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