第37話 たまたま事件前に
「さてムダな時間を食ったが……」ごめんなさい。私のせいだ。「ともあれ、5月23日のプログラミング演習の講義動画が手に入ることになったな」
「そうですね」
「キミのおかげだ。ありがとう」
不意なお礼と笑顔にドキッとしてしまった。
この人……爽やかに笑っていたら本当にイケメンだよな。通常時が悪役の笑顔なのが悔やまれる。悪の科学者みたいに笑うんだもんな。
「……いえ……」ともあれ、お礼を言うのはこちらだ。「こちらこそ、今まで付き合っていただいてありがとうございます……」
せっかくなので、勢いで気になっていたことを聞いてみる。
「そういえば気になってたんですけど……どうして先輩、捜査に協力してくれたんですか?」
「警察官にムカついたからだ」シンプルな理由だった。「僕を育ててくれた母親は警察官でね。今は海外にいるんだが……ともあれ、僕にとっての理想の警察官は母親だ」
母親……
そういえば
じゃあ母親というのは育ての親のことだろう。
「キミを問い詰めた警察官は、僕の理想と離れていたからね。ムカついた。イライラした。だから見返すために捜査をしている」
……先輩も他人の言動を気にすることがあるんだな。さっきの生き方の否定やらの事柄は、ただ先輩にとって本当にどうでも良い話題だっただけなのだろう。
って、そうじゃなくて……
「最初の理由が聞きたいんです」
「最初?」
「はい……私が最初に捜査の依頼をしたときです」
「だから暇つぶしだと言っただろう?」
朝食のときの暇つぶし相手がほしいから、私の事件の話を聞いてくれた。
最初はそれで納得していた。だけれど、今は違う。
「先輩……昼食のときに会話したいタイプじゃないでしょう?」彼は会話が苦手なのだから。「なのに、先輩は私の話を聞いてくれた。それは……なんでですか?」
暇つぶしというのは建前の理由だ。言うなら照れ隠しなのだ。
「ふむ……」いつも流れるように喋る
「……ゴリ押し……?」
「ああ。キミは僕に依頼をして、一度断られているだろう?」僕は探偵じゃないからと言って、断られた。「その時のキミは、引き下がる気などなかったはずだ。だが……最後は言葉をつまらせるだけでなにも言わなくなった」
声をかけて引き留めようとしたけれど、結局言葉が出なかっただけだ。
「僕は天邪鬼だからね」先輩は肩をすくめて、「最後に何も言われなかったから、協力しようと思ったんだ。本当に、ただの気まぐれだよ」
ただの気まぐれ……
そんなものかもしれない。人と人との出会いなんて、ただの偶然に過ぎないのかもしれない。
軽い気持ちで発した言葉が相手の触れられたくないところだったとか、自分では重い話題のつもりだったのに、相手からすればどうでも良かったりとか……
人間関係なんてそんなものだと思う。今現在できあがっている人間関係なんて、所詮は偶然の産物なのだろう。
私は偶然にも
「話がそれたな。本題に戻すぞ」オンライン会議殺人事件の解決。「これからやることは
「……それがわかると、捜査が進展するんですか?」
「ああ。その2つの事件が起こった両日に学校にいた人間……それらが容疑者になる。そしてその数は……そこまで多くない」
「……そうなんですか?」
「
……
……
たまたま事件前にネット回線の調子が悪くなった……?
……
「どうした?」
「あ、いえ……なんでもないです」
「そうか? 気づいたことがあるなら、何でも言ってくれて良いんだぞ?」
「だ、大丈夫ですよ……」そう……大丈夫だ。偶然のはず……「と、とにかく……同一犯かどうか、どうやって調べるんですか?」
「ふむ。それはプログラミング演習の動画を見ながら考えよう。
事件がつながる……
そうなれば、おそらく解決は近い。
……
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