捜査開始

第23話 第一発見者は

 その日は、とりあえず家に帰ることになった。


 私自身が疲れていたし、現場を調べようにも警察がいてまともに立ち入ることしかできない。というわけで、本格的な調査は明日以降にお預けとなった。


 自宅に戻って、ベッドにダイブする。無理にでも食事はしたほうが良いと先輩に言われたので、パンを少しだけかじってみた。


 食欲はまったくない。だけれど……明日以降の調査のために食べないといけない。熱中症で私が倒れたら意味がない。そう思って無理やりパンを喉の奥に押し込んだ。


 いつもなら……この辺で親友2人に連絡をすることが多い。特に用事なんてなくても連絡することが日常となっていた。


 だけれど……今はできない。美築みつきはもういないし、恭子きょうこだって余裕がないだろう。


 なんとなく気分を紛らわせるためにテレビをつけると、


『話題のオンライン会議殺人事件ですが……なんと続報が入ってきました』この間も見たワイドショーがちょうど始まっていた。『今度は学生が被害に……301号室で女子大学生が首を吊って亡くなっていたということです』


 ……


 今までニュースやワイドショーの事柄は他人事だった。ちょっと同情したりするくらいだったのだけれど……当事者になるとここまで心が揺さぶられるのか……


『発見時刻は朝の8時頃……まだ講義も始まっていない時間です。その時間に301号室、ですか。その大学ではかなり大きな教室みたいですね。その場所で草薙くさなぎ美築みつきさんが首を吊って亡くなっていた』


 ……


 毎回思うけれど、どうして被害者の名前はこうやってすぐに発表されてしまうのだろう。名前を知られたくない人だっているだろうに……


『そして現場……301号室のど真ん中にはノートパソコンが開かれていた。そしてその大学で扱われていたオンライン会議アプリが起動されていた、という状況です』


 ……そういえばノートパソコンが置いてあったな……あのときはパニックで詳しく見ている余裕はなかったが、オンライン会議アプリが起動していたようだ。


 つまり……


『同じ学校で起こった尸位しい教員の殺害事件……その事件と同じくという噂になっていますね』


 ……オンライン会議殺人事件……その事件は更に続いているということか。


 ということはTさんが完全に疑われているんだろうな。冤罪解決のためにも、早く真犯人を見つけないと。


『オンライン会議に参加していたアカウントを調べたようですが、これは海外のサーバー等を複雑に経由していて、個人の特定は困難ということです。さらにノートパソコンには指紋1つなく、こちらからの特定も難航しているようですね』


 ……ふむ……私はパソコンに詳しくないのでよくわからないが、そのパソコンから犯人を特定することは難しいようだ。


 司会者はさらに画面に301号室の見取り図を表示させる。


 そして画面を指しながら、


『事件現場は密室。301号室の鍵は室内に存在した。その状況で草薙くさなぎさんの遺体が見つかった……』そこで司会者は専門家に話を振る、『どうですか? 通常なら自殺以外ありえない状況ですが……』

『もちろん自殺の可能性が高いと思いますが……ならば、なぜオンライン会議を繋ぐ必要があったのか、という疑問が残ります』

『そうですよねぇ……自殺するならわざわざ、そんなことをする必要はないですよね』


 オンライな会議には特別な力があって殺人が可能……それを証明したかったという理由、でもなさそうだな。美築みつきがそんなことをする意味がわからない。


 番組が終わりに近づいて、司会者もまとめに入る。


『もしかしたら……本当にオンラインでの殺害は可能なんでしょうか……? 警察は捜査を進めていますが、少し現場が荒らされてしまったんですよね』

『第一発見者ですね。もう少し冷静になってほしかったですよね……』


 ごめんなさい。反省している。


『第一発見者は草薙くさなぎさんの遺体を見つけて、ガラスを割って侵入……その後ロープを切って遺体を動かしてますからね……』

『助からないのは見たらわかったと思うんですよね……どうして現場を動かしてしまったのか……』

『そうですね……現場がまともなら、もう少し捜査がしやすかったと思いますが……』

『最近の子はすぐにパニックになっちゃいますからねぇ……』


 ……


 ……結局私は、余計なことしかしてなかったんだな……


 だからねこ先輩は私に現場を見ないように忠告してくれたのだ。私はその忠告を無視した挙げ句、現場を破壊した。

 役に立てないどころか、捜査の邪魔をしてしまった。


 悔しい。自分の浅はかな行動が現場を混乱させてしまった。なんで私は……冷静になれなかったのだろう。


 私がもっと、賢ければ……

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