サクセン基地にちじょう中
班に割り振られた部屋に戻った俺はリエカと顔をつきあわせて戦線レポートを作っている。
まずコウイチとダイチから今回の作戦中の行動を色々と聞いて、それから何があったかを総合的にまとめる。どういう場所でキノコ怪人とそうぐうしたのか、どういうふうにどんな数を倒したのか、こと細かに書き出していく。ただし余計なりんじょうかんを出したりすると減点される。前はよくおこられた。
第十四作戦班の初の単独にんむは途中まではいい調子だった。だが、散会し一人一人が別行動を取り始めたところ、突如キノコ怪人の一団に四人が同時におそわれた。そこで、おれたちは全員戦線をほうきして合流地点として定めたD地点へと集合することを決めた。が、リエカがてっ退中にシーナを見つけたため作戦をへんこうしてシーナを助け出すために全力をつくす。その後、帰投途中で巨大キノコ怪人とそうぐうし、シーナの助言をうけてこれをげきたい。その後きどう作戦第六部隊の二人の手を借りて帰投。
ざっくりとまとめればこんなところだろう。
「リエカそっちはあとどれくらいで終わる?」
「もうちょっとよ」
「こっちももうちょっとだ」
「あっそ」
もくもくと手を動かす。レポートを書いているときのリエカはいっつもこんな調子だった。声をかけるといつもよりも怒り三割増しな感じだから、ダイチとコウイチも怖がって話しかけてこなくなった。
それから一時間かけて戦線レポートを書ききった。
「あー! やっと終わったー!」
声を上げて後ろへとたおれこむ。天井に光っているLED電球がまぶしかった。
「このくらいで根を上げるなんてなさけないわね、ジーチャン班長さん!」
「それじゃあつかれてない、リエカ班員は俺の代わりに
気の抜けたモードになった俺はリエカのお小言のあげ足を取った。
「ぬ、ヌヌヌ……! あ、あたしだって、少しはつかれてるわよ」
リエカはそう来るかとでも言いたげに、自分も少しは疲れてるから押し付けるのはやめてほしいと提言してきた。しかし俺はもう考えるのもめんどうくさいモードに突入しているのだ。
「そっかー。それならよろしくなー」
「なっ、なぁ!? こ、こいつ人の話聞いちゃいない!」
もうこのままここでおねむしてしまいたい。そんな感じで横を向いたところ二段ベッドの下側、つまり俺用のベッドで眠っている人かげが見えた。
「誰だー、おれのベッドで寝てるやつ―。自分のベッドで寝ろよな」
体を起こすと俺のベッドで丸くなって眠っているのはシーナだった。
「ジーちゃん班長がつかれてるなら報告書はぼくがいっしょに持っていこうか?」
反対側の二段ベッドの上からダイチが算数のノートを振っていた。なるほど、宿題といっしょにレポートも持って行ってくれるつもりなのか。
……。
「算数の宿題やってねぇ!」
おれはきょうがくの事実に気が付いた。そうだ、そういえば
「提出期限、明日までだよ、ヒトヨシくん」
そっと下のベッドから顔を出したコウイチがほそくしてくれた。ありがとう、ちくしょう!
おれは大慌てで勉強用のカバンからノートと教科書を探し出して丸机の上に広げる。
「ダ、ダイチレポートの提出頼む……!」
「アハハ、わかったよ」
ダイチにまとめたレポートを渡して、それからコウイチ声をかける。
「スマン、ちょっと手伝ってくれ……! いや写させてとは言わないから、せめて教えてくれ……!」
「はー、もうヒトヨシくんは毎度さわがしい。うんうん、分かった教えるからちょっと待ってて」
リエカのことを置いてけぼりにしてコウイチから宿題を教えてもらいだす。おれの結構大きな声にもシーナは頑として起きなかった。
おそくまで宿題とにらめっこしていたから若干の眠たさを感じつつ、それでもいつもの通り、早朝に起きる。
俺たちは対キノコ怪人防えい戦線最前線基地の兵士なのだ。一に体力二に体力、三四も体力、五に体力だ。だから日っかのランニングは欠かせない。
部屋を出てじゃ口のある場所で顔を洗いに行くと途中で何人もの大人の隊員の人とすれ違う。きちんとあいさつする。大人たちは一晩ねないで過ごしている人もいるし、おそくまで仕事をしていて、朝俺より早く起きだす人もいる。みんなみんなすごい。
パシャパシャと水で顔を洗って、持参したタオルでふく。それから上を向いてガラガラうがいもする。ペッと吐きだしたら、
「あら、寺島班長じゃない。いつも早いわね、おはよう」
コップ片手に歯磨きをしている
「おはようございます。先生」
朝、顔を洗うときに会うときだけは敬礼しなくていいと先生に言われている。
「えぇと、昨日保護したしぃなちゃん、だっけ。彼女には色々聞きたいことがあるんだけど、昨日からの様子はどう?」
歯磨きをしながらの先生に聞かれた。
「どう、と言われても……、昨日もずっとねてたし……。良くねる子です、今もまだねてると思います」
「そうなのね。分かったわ、あとで呼び出すと思うからその時はよろしく」
「はい」
先生と別れておれは早朝ランニングに出発した。同時にポケットに入れたストップウォッチを走らせる。
このあたりは防えい戦線の最前線だけど、だからと言ってすぐその辺りにキノコ怪人がうようよしているわけではない。というのも、俺たちは道を切り開いて、ここまで南下してきたのだ。根気よくキノコ怪人をしらみつぶしにやっつけて、防えい用のバリケードを徐々に前進させる。そうやって、少しずつ少しずつ日本の中心部へと近づいてきている。
この謎のキノコ怪人たちはどうやら首都だったT都から突如発生し、またたく間にその菌糸を全国へと伸ばしたという話らしい。それが二〇年ほど前の出来事なんだとか。
かいめつ的な打げきを受けた日本国は戦力を散り散りにしつつも各地の自えい隊が中心となって首都を取り戻すためにこれまで日夜戦い続けてきた。俺たちもその一員なのだ。
俺自身は当時生まれてなかったし詳しいことはよく知らない。ただ、今よりももっと大変だったらしいとは聞かされている。日本各地が大混乱して、ろくに抵抗も出来ないままで大人も子供も関係なく多くの人がキノコ怪人に連れ去られたらしい。それで帰ってきた人は一人だっていない。連れ去られてそれからどうなるのかは全く分からない。連れ去れた人たちがどうしているのかさえ全く分かっていない。
考え事をしながら走っていると、もう折り返し地点だった。片道大体二キロちょっと、往復で四キロと半分くらい。今俺はこのきょりを三十五分前後かけて走っている。前線基地がこの場所にいる間の当面の目標は三十分を切ること。
それにしても、辺りはいつみてもキノコだらけだ。アスファルトにも、コンクリートにも、もちろん木材も、何なら道ばたの小石からさえもキノコは生えてきている。まるで石に張り付いて勢力を伸ばしていく苔のようにどこもかしこもキノコばっかりだった。それどころか、元々あった街路樹は大きなキノコに乗っ取られて葉の代わりにかさを伸ばすし、良く植えられているツバキやツツジ何かも、キノコに取り付かれてキノコの傘から花を咲かせている。
ただそのキノコたちはどういう訳かほとんどが毒を持っていないらしい。どういうことなのかと言えば、食べられるキノコなんだそうな。キノコ以外の食べ物は大分制限されているけど、それでもこの食用キノコがあるおかげで空腹で困ることはあんまりない。ただ正直もうキノコは食べあきてきている。子供の俺でそうなのだから大人たちはもっとあきてると思う。
大分息が上がってきた。基地までもう少しだ。
おれは足にぐっと力を入れて最後まで気を抜かないように引きしめる。
ポケットからストップウォッチを取り出してゴールといっしょに時間を止められるように準備する。時間を見るのは後の楽しみだ。
よし、行け。ガンバレ俺! と心の中で応えんして、スタート地点へと一歩足を出した。同時にストップウォッチを止める。上がった息のままゆっくりと歩き続けて、一分くらいグルグル歩き回ってそれから座り込んで両手を地面についた。走ってすぐに足を止めると体に負担がかかるから終わったらクールダウンのために少しうろうろするようにって
さて、お待ちかねのタイムは、三三分四一秒四九だった。中々の好タイムだ。目標まであと四分。
顔を洗いなおして、汗を軽くタオルでふいてからおれはおれたち第十四班の部屋までもどる。そうしたら、へやのドアの外で朝日を眺めながら体育座りしているシーナを見つけた。
「シーナおはよう。なにしてるんだ?」
「おはようジーチャン班長さん。わたしシーナじゃないしぃな」
「おれもジーチャン班長さんじゃない。ヒトヨシ班長だ」
シーナに近づいて、それからなんとなく隣に座った。
「ジーチャン班長さんがいなかったから、探しに行こうと思ったけど、探しに行ったら迷子になるって思ったからここにいた」
「あー、ごめんなおれはいつも朝走ってるんだ」
朝焼けがみょうにきれいな気がした。
「知らなかった」
「まぁ、昨日会ったばっかりだしな」
「そうだった。わたし、なんかジーチャン班長さんとはずっといっしょな気になってた」
「なんだそれ。そうだ、あとでシーナに聞きたいことがあるって
「
「昨日会ったキレイな大人の女の人。作戦司令官で偉い人なんだよ、でも俺たちの先生でもある」
「分かった覚えておく」
それから立ち上がって、座り込んだシーナに手を貸して立たせる。部屋に戻ってみんなを起して朝ごはんを食べに行くのだ。
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