おにロリギャンブルリンク〜凸凹コンビがギャンブルで地下世界の王になる話〜
城屋
プロローグ:ようこそアンダーアルカディア
第1話 お兄ちゃんとロリ、出会う
駅でよく見かけるホームドア。設置費用およそ百二十万そこそこ。
道を歩けば割と即でどこにでもある防犯カメラ。設置費用八万から二十万まで。
仕事や学業があるときは全員ほぼ毎日触る玄関の鍵の交換。一万千から二万八千円まで。
安全を買うには湯水のように金が必要なのに、危険は気付くと向こうからやってくる。
社会生活においては、という範疇でもっとも危険なものは金のトラブルと異性間のトラブル。男性の視点でザックリ言いなおせば金と女。
特に年下。小学生だったとしたら最悪だ。
「今日はさ。風が強いね。紙なんかすぐ飛んでいっちゃいそう」
東京。杉並区。歩道橋で向き合っているのは二人。
一人は
もう片方、にやにや笑いで安い挑発をするのは
「なんか握力弱くなってきちゃったなぁ。鳥みたいにバタバタと飛んでいっちゃいそう」
命依の小さい手から離れそうになっているのは、すべて一万円札だ。それが百枚。一高校生に過ぎない運春が人生で一度たりとも肉眼で見たことが無い大金だった。
(……見えている地雷だ。いくら吹っ飛ぼうと俺には関係ない。ちょっと振り返って学校に行くだけで全部終わりだ。遅刻はしているけど、俺はいつも通り授業を受けて、うちに帰れば母さんに小言貰って。いつも通りの時間に眠って規則正しく今日を終えることができる。平々凡々大万歳アタックだ)
理性ではわかっている。運春が面倒事を避けたいのであれば、この場から一刻も早く離れる――逃げることが一番だと。
金と女は危険だ。特に女が小学生なら倍以上に。
だが、あまりにも目を離しがたかった。
両足が釘でも打たれたように動かないし、喉も干上がる。顔も逸らせない。
その様子がおかしいのか、命依はくすくすと笑っている。あからさまに手玉に取られていた。
風に揺れて陽光に輝く、金だか銀だか判別の付きにくい髪が眩しい。
今の自分のみすぼらしい風貌とは偉い違いだな、と思考が飛ぶ。
「これだけあればすぐにでも服を買えると思うけど。もうユニクレも開いてる時間でしょ?」
「俺になにをさせたいんだ?」
「買われて? 僕に」
雇われて、とかならこの場で二つ返事で頷いていたかもしれないが、実際の要求はふざけきっていた。
「なんだって?」
喉がかすれきってカスカスの声しか出ない。発汗のせいで身体中が干上がっている気分だった。
やっぱり命依は悪戯っぽい笑みを崩さないのだけど。
「キミの身体が欲しい」
「ひょっとしてお前、俺のことを抹殺したいんじゃないだろうな!? 社会的に!」
「身体的にも死ぬかもね?」
さらっとバカみたいな追記までされた。もう相手にしていられるか、と後ろ髪を全力で引っ張られるような衝動を制して立ち去ろうとした、そのとき。
「あっ」
ひときわ強い風が吹いて、目を逸らした傍から悲鳴じみた命依の声が聞こえた。
脳裏に一瞬だけ、紙幣が空にバラ撒かれる光景を幻視する。その後はもう全部無意識だった。
身体が動き、命依の方へ一直線。これ以上風に飛ばされないように、命依の手を押さえにかかる。
実際は紙幣は一枚たりとも飛んでいなかったのだけど。
『あ?』と思ったのも束の間。罠だということを身をもって知らされた。
ガチャリ、という音と共に。
「ん?」
右手に手錠をされた。これだけでも大分屈辱的だが、もう片方の輪がどこにされているのかが大問題だった。
「あっは。繋がっちゃった」
命依の左手にも同じように手錠がされていた。これでは離れたくても、もう離れられない。
警察が来ても児童相談所が来ても噂好きの主婦が来ても絶対に。
「おぎゃ!?」
「あははははははは! 酷い顔ォ! 大丈夫安心してよ! お金はちゃんと渡すから!」
「いくらお金あっても発見次第未成年淫行で大アウトだろうが!」
「お金でもみ消してもらおう?」
バカな金持ちの子供丸出しの台詞だった。金で解決できるのなら警察ではない。
「じゃ、行こうか。地下ギャンブル場」
「……なんて?」
なにがどうしてこうなったのか。どうしてこんな少女に関わってしまったのか。後悔に後悔を重ねながら、運春は引きずられていく。
安全とは無縁の場所。危険渦巻く裏の世界へ。
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