「第一話」 府本冬実
発端
小説を書こう、と最初に言い出したのが誰だったのかは憶えていない。
酒の席でのことだ。
その日、わたしは小学校時代のクラスメイトだった
三人とは放課後によく小説を書く間柄だった。春夏秋冬で揃えたペンネーム、というかあだ名は、その当時考えたものだ。
わたしは私立の中学校へ、彼らは公立へ進んだので、以降は自然と疎遠になっていた。けれど大学でわたしと秋穂が再会したのをきっかけに、また集まるのはどうかと春花や夏樹にも声をかけた。
秋穂が仕切るかたちで一度食事をともにすることとなった。
およそ六年ぶりの再会だったけれど、皆あまり変わっていないように見えた。
小学校時代の思い出話に花が咲いたところで、また皆で小説を書こうという話になったのだと思う。
二泊三日で合宿して連作を書くという大まかな予定を立てた。十二月末の三日間となった。
わたしたち四人のほか、これまた幼馴染である
場所については、春花がわたしの実家を提案した。
六人が泊まれるだけの部屋を備えた別宅である。わたしたちの地元、山間の小さな集落である
集落からかなり離れていて、しかも古いということは伝えたけれど、六人とも、特に春花と帆村さんは目を輝かせて了承してくれた。作家の住んだ家ということで、以前から興味があったのだそうだ。
勢いで決まった話で、何を書くかは決めていなかった。好きな作品や書き方の話をできるだけでもいい、と皆が考えていたのだと思う。帆村さんは、わたしの実家周辺の史跡を見たいとも言っていたが。
わたしは前日入りして館内を掃除し、備品を揃えた。春花が帆村さんを、夏樹が秋穂をそれぞれ車で拾った。木崎君は実家住まいらしく徒歩で来た。
皆が揃ったのは午前十時ちょうどだった。一階のリビングにて、旧交を温めるのもほどほどに切り上げ、何を書くか話し合った。緻密な世界観やまんが・アニメ的なキャラクターを使うか使わないか、などの設定についていやに議論が白熱した。
筆を執る四人ともミステリーが好きだったので、少なくともミステリーを書こうということにはなった。
ミステリーとは、探偵小説や推理小説とも呼ばれ、作家の
被害者が発見され、探偵が犯人を追う、そのために現場に残された謎を解く、といった構造の物語は、日本では長い伝統があり多くの読者もお馴染みだろう。被害者は多くが、鍵のかかった部屋などの「密室」で死んでいたり、首のない死体として発見されたりする。そうした謎を解明するため、探偵と読者は作品内で見つかる証拠を論理的に組み合わせる。結末では、犯人と犯行の方法および動機が明らかになる。
書くジャンルが決まった時点で正午を少し回っていて、どういう順番で書くかはじゃんけんで決めた。
結果、わたし、春花、夏樹、秋穂の順となった。
とりとめなく肥大していく世界観やキャラクターの話に、わたしはかなり飽き飽きしていたので、あとは自分で全部決めると言って自室へ戻ってしまった。かといってすぐに書き始めることはできず、短気な態度をとってしまったことに悶々としながら、自宅から持ち込んだ文庫本や小学校のアルバムをぱらぱらとめくっていた。
分担で昼食を作るという話もあったのだが、その時間もなし崩し的に消えてしまっていた。外に食べに行くということになり、春花と帆村さん、夏樹と秋穂と木崎君で別れた。わたしは本宅でカップ麺を食べた。
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