九章 総力戦
細い陸峡を通じて人世の大陸とつながるその大地に、無数とも言っていい
もちろん、エンカウンの町に集結し、その
「おい、なに泣きそうになってんだ。しっかりしろ!」
バン! と、ジャイボスに威勢良く背中を叩かれ、スタムは前のめりに倒れそうになりながら『う、うん……』と
「……しかし、すごい数ですね」
総将ジェイの補佐官であるアステスが緊張を含んだ声で言った。
「かんなぎ部族とやらの全戦力。加えて、従属関係にあるすべての部族からも最大限の兵力が提供されている。そう聞いた時点でよほどの大軍勢と覚悟はしていましたが……これは予想以上です」
「たしかに」
ジェイもうなずいた。引き締まった表情にはこの戦いに懸ける断固とした覚悟がみなぎっている。
「数ならこちらより確実に上だな。身体能力ではるかに勝る相手が多数。普通なら厳しいなんてものじゃない。だが、幸い、
ジェイは隣にたたずむ
「アルノス将軍」
北の雄国オグルの烈将アルノスは重々しくうなずいた。
「任せろ。我らオグル兵が壁となってやつらを押さえる。我らの前は何人たりとも通さん」
「我らもいるしな」
アンドレアが弾むような口調で言った。
仮とは言え、一国の王たる身でありながら、当たり前のように最前線に出る気でいるアンドレアだった。
「我が
「
国王に対する礼儀を示してから今度は遊牧民の衣服に身を包んだ女性に視線を向けた。
「バブラク将軍」
「わかっている。飛び出してきた
次いで、この場にいるのはあまりにも似つかわしくない快活そうな少女に声をかけた。
「サアヤ殿下」
「任せて! すばしっこさがボクの取り柄だからね。遊撃隊の任務は見事、果たしてみせるよ」
「サアヤさま……」
隣にたたずむ少女が不安そうな声をあげた。サアヤはかの
「だいじょうぶだよ、カナエ。ボクは絶対、カナエのもとに帰ってくるからね」
「モーゼズ将軍。エイハブどの」
「うむ。海上からの攻撃は我らに任せておけ」
「ゲンナディ内海育ちの操船術、とくと見せてやらあ」
その言葉に――。
ジェイは深くうなずいた。左腕を突き出し、号令をかけた。
「陣容は計画通り。総員、配置につけ!」
総将の命令に全員が一斉に動きはじめる。最後までジェイの側に残っていたアステスが悔しそうに声に出した。
「……結局、わたしは最後まであなたと肩を並べて戦うことは出来ませんでしたね。情けない限りです」
アステスは組織運営や武器改良の才には優れているが戦闘力は低い。
かの
「なにを言っている。お前が医療班を率いてくれるからおれたちは安心して戦える。お前になら生命を預けられる。支援は任せたぞ」
「はい」
アステスは短く、しかし、断固として答えた後、少々意味ありげな口調になってつづけた。
「あなたは、なにがなんでも死ねませんからね。なにしろ、愛するハリエット陛下がおいでなんですから」
そう言われてジェイはたちまち真っ赤になった。
「な、なんだ、いきなり! こんなときに言うことじゃないだろう。なんのつもりだ」
「べーつーに」
と、ぷいっと横を向くアステスであった。
「死ねない理由があるのは、ないよりもいいに決まっている。それだけのことですよ」
「……ああ、その通りだ。行くぞ。おれたちは死なない。滅びない。必ず、人類の歴史を勝利させる」
「はい!」
大地を揺らし、砂煙をあげて、
それは、軍隊の突撃などではなく、野生の獣の
その
野性の
オグル人の壁の隙間をついて
陸峡の左右にはモーゼズとエイハブに率いられた船団が浮かんでいる。その船の上にはジャイボス率いる一騎当千が並んでいた。
「撃て、撃て、撃てえっー! いまこそ弱虫ボッツの威力、思い知らせるんだ!」
『永遠のガキ大将』ジャイボスは楽しそうに指示を下す。一騎当千の肩に担がれた弱虫ボッツが轟音を立てて鉄の球を撃ちだし、陸峡を渡る
さらに、別の船団が
「さあ、ボクたちの大切な人を守るために……突撃だ!」
サアヤ率いる遊撃隊が機動力にものを言わせて突撃と離脱を繰り返し、
状況を見れば
それほどの不利さえ覆すのが鬼の強さ。そして、戦意。やられても、やられても、
「撃てっ!」
鋭い声があがり、豪雨のような音を立てて矢が放たれ、
「よし、我々の出番だ!」
アンドレアが威勢良く叫んだ。配下の
「アルノス将軍、交代だ。いまは我々に任せて治療と回復に努めよ」
「承知」
アルノスは短く答えた。
もちろん、この程度の戦いで疲れるようなアルノスではない。まだまだいくらでも戦える。
軍の後方ではアステス率いる医療班が必死の働きで負傷者を運び出し、治療を施している。
はじまったばかりだった。
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