婚約破棄からはじまる追放された令嬢たちが新しい世界を作り、人類を救う物語3 〜歴史の決着篇〜
藍条森也
第一話 宣戦
一章 アーデルハイドの帰還
レオンハルト王国王都ユキュノクレスト。
都市を取り囲む見上げるばかりに高い防壁の前にいま、
「仮にも国王陛下たるお方が前線に出るなど危険すぎます。
そう言ってとめるものたちも、もちろんいた。しかし、アンドレアは意に介さなかった。
「わたしが死んでも我がアートがいれば国は揺るがん。わたしは王として、母として、民と子を守るために戦う。それだけのことだ」
そう言って最前線に身を置いている。
その思いはアンドレアの後ろに並ぶ
その
その対比はなんともおかしいもので、見ていると笑いが込みあげてくる。本人たちは気付いていないが、ふたりのそんな様子は兵たちの緊張をほぐす役に立っているのだった。
やがて、
「来ました!
よし! と、アンドレアは破顔した。
不敵というには華やかすぎるその笑顔。女王騎士、いや、騎士女王アンドレアならではの笑顔だった。
「さすが、ジェイだな。まんまと
アンドレアのその声に――。
その一事だけでこの母たちの軍団の練度の高さがわかる動きだった。
「ジャイボス!」
「おう!」
アンドレアの叫びにまだ年若い巨漢は陽気に叫んだ。体の割に幼さを残した
「一騎当千、準備よし! いつでも行けるぜ」
「よし!
「当然!」
叩けば響く。立場的には国王と一指揮官と天地ほどの差がありながら、妙に気の合う『相棒感覚』のふたりだった。
役目を果たした伝令兵がそのまま
伝令兵とは比べものにならない量の砂煙を巻きあげて
武器ももたない。防具も着けない。衣服の類はなにひとつまとっていない。
完全な全裸。
表情だ。その表情はかつてのように人間たちを狩り、食らう、捕食者のそれではなかった。狼の消えた山でデカい面をしていた山犬の群れが、帰還した狼によって最強者への礼儀を徹底的に叩き込まれる、そんなときの恐怖の表情だった。
そして、もちろん、恨み重なる
アンドレアの右腕が高々とあがった。互いの距離を正確に計り、勢いよく右腕を振りおろした。同時に叫んだ。
「撃てっ!」
「撃てえっ!」
王の命令を指揮官たるジャイボスが改めて伝える。その指示のもと、一騎当千が肩に担いだ弱虫ボッツをぶちかました。
金属製の筒に
雷鳴のような音を立てて鉄の球が次々と撃ち出される。その音量たるや耳を押さえていないと
鉄の球が凶猛な凶器と化して撃ち出される。
撃ち出された鉄球は面白いように
「
ジャイボスの声が響く。
その声を受けてアンドレアがニヤリと唇を吊りあげる。
「
言われるまでもない。王都のなかにはかの
「
ジャイボスの声が再び響く。
「よし、全軍
アンドレアが叫ぶ。
突進するときは誰よりも早く、
それが騎士女王たるアンドレアの誇り。
「撃てえっ!」
再び――。
雷鳴のような轟きをあげて無数の鉄球が撃ち出される。
その繰り返し。
もとより、
そこへ、新たな
ジェイ率いる
ジェイと
一騎当千。
そして、
人類が誇る精強な軍に挟み撃ちにされ、
「おお、さすがだな、ジェイ! 時間も、場所も、計画通りに追い立ててくるとは」
わっはっはっはっ! と、なんとも愉快そうに笑いながらアンドレアは人類軍総将ジェイを迎えた。
「畏れ入ります」
ジェイは短く、礼儀正しく頭をさげた。
その横にはいつも通り、補佐官のアステスが男女どちらとも言えるような中性的な
地下道を使っての奇襲によりエンカウンの町を取り戻して以来、人類と
――いい気味だ。
多くの人間たちはそう言っていた。
――この三年間、人間を狩りの獲物としてきた報いだ。
「アンドレア陛下」
ジェイの隣に並ぶアステスが報告した。
「これで、確認された
「うむうむ。そうなればいよいよ
アンドレアはホクホク顔でうなずいた。
アンドレアたちが話している間にも戦場の後始末がつづいている。怪我人が運ばれ、応急処置が施され、ヒーラーたちが魔法をかけ、必要とあらば手術を行う。巨大な穴を掘り、何千という
自然のもつ浄化力は
「アンドレア陛下」
ジェイが引き締まった表情で言った。
「
「各地の冒険者たちが協力して
「モーゼズ将軍からの連絡は?」
「後衛部隊の編成は順調だそうだ。程なく第一陣を派遣できると言ってきた」
「そうですか」
ジェイは万感胸に迫る表情でうなずいた。
「ならば、いよいよですね」
「そう、いよいよだ。いよいよ、我らが
アンドレア。
ジェイ。
アステス。
三人がそろって力強くうなずいた。
そのとき、ひとりの伝令が転げるような勢いで駆けてきた。
「急報、急報です!」
泡を食った、とはまさにこのことだろう。伝令は口から唾を飛ばしながら叫んだ。
「アーデルハイドさまがご帰還なさいました!」
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