【誰とも繋がりたくない】

翌朝目を覚ますと、涙は流れていない。

だが、未だにベッドから出ることができず、出勤はできる気がしない。


出勤できないなら連絡をしなければならないのに、今日もスマホに手が伸びない。


私は問題をより一層悪化させてしまったのかもしれない。

また涙がこみ上げてくる。


今日になって初めて気づいた。

連絡はおろか、もはや、職場に行くこともできなくなっていた。


どうしても、公民館に足が向かないのである。


この状態から抜け出すには職場に行って、何とかしなければならないのに。

それができない。

そもそも、何をすればいいのかさえもわからない。

いい歳した大人なのに、自分の問題の解決もできない。

本当にダメな人間だな。私は。


そんなことを考えながら泣いていた。


それでも、今日は昨日より泣く回数が少ない。

少しずつ回復しているのかな。

どこがどう回復しているのかもよくわからないが。


昨日と変わらず、事務所からの連絡はない。

しかし、午後を過ぎた頃。

数人から立て続けにメールが来た。


Eさん、Fさん、Dくん。


3人とも「大丈夫?辛かったら話聞くよ。」という旨の内容である。


私は返信のボタンを押せなかった。


ごめんなさい。

本当のことを言うと、皆さんには話を聞いて欲しくないのです。

親切な内容のメールを送ってくれたことは、ありがたいのですが、本当にごめんなさい。


今日になって、もう1つ気づいた。

とにかく誰とも繋がりたくないのである。


対面で話すことはもっとできない。

外に出る気にもなれない。


その後もメールは来る。

iPhoneのメールアプリにくっついている赤丸の数字が増える度に、気持ちが重く暗くなった。


「今は返信できないんです。ごめんなさい。」

そうを伝えるのは、社会人のマナーだと考えていた。

しかし、今はそれさえできないのである。


メールが来る度に、自分の情けなさが露呈される。

だから億劫で仕方なかった。


今度は、同期のOくん。

「大丈夫ですか。みんなで飲みませんか。」と書かれている。


返信のボタンを押す気になれない。


みんなって誰⁉︎

同期かな?

とてもじゃないけれども、飲みに行ける状況ではない。


Oくんから、メールなんて来たことない。

実は、私はOくんに好印象を持っている。

Oくんはイジられやすいポジションだから、

Dくんに「返信がないから、連絡しろ」とでも言われたのかな?


Oくんからメールが来て、嬉しくないと言ったら嘘になる。

でも、Oくんの言うは、Oくんが誘ったら私が飲み会に来ると思っているのだろうか?


性格悪いな。私。

物の考え方も、かなり卑屈になっている。


さらに、メールの着信があった。

今度は、青年団体のお姉さんからだ。


ひぇぇぇ、町民にまで私が無断欠勤していることを知られている。

ホントどうしよう。


このお姉さんからは、メールが来るのは初めてだった。


「私もメンタルクリニックに通った時期があったから、話を聞けるかもしれません。良ければでいいので、辛いことがあれば力になります。」


と書かれていた。


お姉さんの文章にジーンとした。

お姉さんはどう思ってメールを送ったのかわからないけれども、なんとなく共感しようとしてくれている感じがした。

もう少し元気だったら、お姉さんと話せたかもしれない。

しかし、どうしても返信のボタンを押せなかった。


町民にもこの状況について、話が広がってしまったんだ。

私は町中で評判が悪くなるかもしれない。

事務所どころか、この町にいられないのではないか。


皆さん、私の存在は無いものだと思ってください。

一層のこと、私自身が「私の存在は消えてしまったほうがいい。」と考えているのですから。










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