【倒れた①】

前回の仕事をもらえなかった日の翌月の出来事。


事務所内で倒れたのである。


病的な原因ではなく、精神的な方で。


事の発端は課長補佐に呼ばれたことだった。


課長補佐といえば、入職初日に「ビシバシ鍛えるから!」と宣言して、嫌な予感を感じた。

(第1章【課長が迎えに来ない!②】参照)


その後、課長補佐はビシバシとした言動はなく、無下に扱われることもなかった。


1年のうちに3回ほど出張に行ったり、課長補佐の仕事を手伝ったりしたからかもしれないが、良好に楽しくやれていると思っていた。


ちなみに、課長補佐は初めからDくんのことはあまりよく思ってなかったようで、何度か叱っているところは見た。


ところが、ここに来て急に初日の嫌な予感が的中してしまった。


ある日、課長補佐に呼ばれていつも通りに近くに行った。


「これどういうことよ!!」


と課長補佐の怒号が耳に入ってきた。

怖い目で睨んでいる。


言われた瞬間は何が起きたかわからなかった。


当時、町内の女性中心に構成された町民団体の事務局を担当していた。

この団体は女性限定の講座やイベントを開催することが活動内容で、昨晩の会議で団体のメンバーと年間の活動計画を決めた。


課長補佐が怒鳴っているのは、この活動内容についてである。

決定した活動内容をまとめた決裁文書を回覧に回したところ、課長補佐に回ったようだ。


この活動計画というのは女性団体のメンバーと決めるのだが、事前に素案を私たち事務局が考える。

そして、団体の会長さんと打ち合わせをして同意が取れれば、会議で団体メンバー全員の合意をとる。

以上の流れを経て、活動計画が完成する。


これまで直属の上司の主任Cさんの助言を受けながら仕事をしてきた。

活動計画の素案を考えるのは初めてだったので、Cさんと打ち合わせしながら作業を進めた。


課長補佐からは事前に言われていたことは、「誰かの役に立っていると思われる企画をすること」とだけ言われていた。


だから、女性の役に立ちそうな講演会をやってみてはどうかと考えた。

Cさんも「悪くないと思う」とのことで、Cさんと共に団体の方を集めて会議を進めた。


そうやって、活動計画は決まったのだが、まさかこの講演会で課長補佐がこんなに激怒するとは思ってもいなかった。

さらに、怒りを込めてまくしたててくる。


「講演会はうちの課でもやるだろ!なんでここで入れてるんだよ!!」


私の頭の中は以下の順に思考していた。


①今までは直属の上司のCさんと打ち合わせをしながら、指示を仰ぎながら進めてきたからそれでいいと思っていた。


② 課長補佐にまで相談しなければならないなんて思ってもいなくて驚いた。


③今までは良好にやれていたと思っていた課長補佐が怒鳴って睨むとは、もはや豹変ではないか。かなりびっくりしている。


④え、待てよ。「上司から咎められたから活動計画を変えます。」なんて女性団体の人に説明できるのか?


⑤言えるわけないだろう。じゃあ、なんて説明すればいいんだ⁉︎


①から⑤に進むごとに不安感は増長されて、どうしようどうしようと軽くパニック状態になっていく。


ふと、我にかえると目の前の課長補佐はさらにまくしたてているではないか。


「うちの課でも講演会やるのにそれでも女性団体でやる理由は何があるんだよ!わかるように説明しろ!!」


「女性の役に立つことをしたいと思って」という明確な理由は頭に浮かんでいた。


だから、その旨を説明しなくてはと口を開いた。


その瞬間、目の前が突然真っ暗になった。






























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