第92話:動く紙芝居

「相変わらず、ナチュラルに仕事をサボるっすね?」

まったく言い返せないけど、それにしても何故にバレた?

「ああ、EndlessDreamのアカウント経由っすね」

解せぬ・・・

そもそもあたしのアカウントには通知が・・・来てたわ・・・

美蘭さんからメッセージも来てたわ・・・

『どうやって分身したの?CG?』

なんて答えればいいんだよ・・・


リーゼロッテは私にとっては双子のようなもの。

実際には構造的には全くの同一の存在だろう。

人数は不明、三つ子でも四つ子でもないし、可能性は無限大だ。

そして、今目の前に居るリーゼロッテについては、仮想世界から現実世界へとやってきた。

スマホの中に居た時であれば、CGと言っても過言ではない。

何と言うか上手く言語で定義出来ない。

イレギュラーかつファンタジーな存在だ。


とりあえず親せきと返事しておくか。嘘ではない。真実でもないが・・・

「マスター、リーゼロッテはいつまでここに居る?」

それは小麦が世界を直すまでね。

「先輩、とりあえず現状の確認をお願いするっす」

まあ、こまめにレビューしたほうがよさそうだからね。

で、まずはここでしょ、そしてここも変ね。これだと成立しないでしょ?

「早速のダメだし・・・しかし、確かに先輩の言う通りっすね。さすがっす!」

小麦だって、落ち着いて確認しながらやれば簡単に出来るはずよ?

設計段階の確認が甘いのよ。

とりあえず動く物を作ってバグを潰していくのもいいけど、その手法はこれには向かないわ。

なんせ、『世界』だからね。

現に不具合があったから『世界』が停止しちゃったんだし。


「ハナコ、ざまぁ以外のおすすめの本は無いんだよ?」

花子の蔵書は偏ってるからね。

読む本が無くなったなら、アニメでも見たら?

「あにめ?」

なんて言えばいいのかしら?動く紙芝居?


-side:山田-

「ハナコ、おすすめのアニメは?」

リーゼロッテがタブレットを渡してくる。

もちろん、タブレットでもアニメは見られる。


リーゼロッテ、アニメはテレビで見る。

「てれび?」

この大きいヤツ。迫力が違う。


まずはリーゼロッテも小説版を読んでいるこれにしよう。

『勇者パーティーをクビになったけど、辺境でのんびり暮らします』

はじめては知ってるお話の方が良いと思う。

「この本はもう読んだんだよ?」

まずはじっくりと黙って静かに見る。


「すごいんだよ!しゃべって絵が動くんだよ!」

そう、これがアニメ。

「これは絵に合わせて役者さんがしゃべってる感じなんだよ?」

そう、声優と呼ばれる役者が絵に合わせて声を出している。

「絵を動かすのはどうやるんだよ?」

うーん、理屈ではわかってるけどうまく説明出来ない。


「こんな感じに何枚も絵を描いてパラパラめくると・・・」

マスターが簡単な絵で説明してくれた。

ボールが山なりに飛ぶだけの絵。

「すごいんだよ!絵が動いたんだよ!」

リーゼロッテは感動している。

「でも、これってもしかしなくてもすっごく大変なんだよ?」

マスターが説明したのはもっとも簡単なアニメの手法。

最近だと3DのCGで作成することも多い。だけど説明がさらに難しい・・・

「そうよ、これを見て」

さっき見てたアニメのスタッフロール。

「ここにたくさんの名前が表示されてるでしょ?これだけの人数の職人が作ってるのよ?」

声優だけでも10人じゃ効かない。

そして、原画や作画や音響なども含めれば膨大な人数になる。

「この名前の前にあるのが職業とか称号なんだよ?」

色々な肩書の人がかかわっている。


「これは向こうの世界で再現するのは難しいんだよ・・・」

そもそもテレビが無い。

「まずはこの大きい石板が必要なんだよ・・・」

この世界なら家電量販店に行けばこのサイズで金貨2枚ほどで購入できる。

「高いけど、思ったよりは安い感じなんだよ!?金貨ジャラジャラかと思ったんだよ・・・」

リーゼロッテの言うジャラジャラが何枚程度かは不明だけど、数十枚と仮定しても数百万円。

さすがにそこまで高くはない。


「ちなみにこの石板はいくらくらいするんだよ?」

確か5万円くらいだったはず。という事は銀貨が50枚?

「いくらなんでも安すぎるんだよ?この機能の魔導具なのに?」

そうか、リーゼロッテにとっては魔導具なのか。

リーゼロッテがどこからともなく金貨を1枚取り出して渡してくる。

残念だけど、この金貨は使えない。

「お土産に欲しかったんだよ・・・」

それに、向こうの世界にはインターネットが無い。

いや、ある。考えてみればむしろネットの中に世界がある。

もしかしてタブレットが使える?


「結論から言うとタブレットは使える」

マスター、本当?

「もちろん向こうの世界にはタブレットは存在しない」

リーゼロッテなら持ち込める?

「無理だと思うけど、断言出来ない・・・」

やはり、リーゼロッテだから。

「外の世界につなぐにはレベル5以上の管理者権限が必要」

なるほど、リーゼロッテのレベルは?

「1なんだよ・・・」

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