第65話:山田の日常その4

「それにしても、黒音ちゃんのお母さんって白ウサギみたいね」

母親だけど血は繋がっていない。

「そ、そうなの?ごめんね・・・」

そして、むしろ白ウサが母に似ている。

母が白ウサのモデル。順序が逆。


正確には親ではなく、黒音の所有者だけど、空気を読んでそういうことは言わない。

だから、マスターではなく母と呼ぶように気を付ける。大丈夫、黒音は出来る子。

まあ、書類上は黒音の母親という事になっている。問題ない。

そして、白ウサは実は異世界の物語だった。英語の教科書に載ってるのはなぜ?

この世界ではだれが作者になってるんだろう?すごく疑問。


「それよりも注文しようよ!」

メニューを見て思った。この喫茶店はおかしい。

何故このメニューが存在する?

「あたしはグラニテちゃんのグラニテ(超チョコ味)」

グラニテちゃんはリーゼロッテのメイド。シャーリーの別名。

つまり仮想世界で開発されたメニューのはず。

物自体はここにあってもおかしくないけど、名前がダメだ。

「クレープちゃんのクレープ(超イチゴ味)にしようっと!」

みんなが好き勝手に注文をしていく。


そして注文用のタブレットが黒音の手元に回ってきた。

どうしよう?とりあえず、リーゼロッテのどら焼きにしようかな?

それと『ほうじ茶』を選択する。

和菓子も洋菓子もメニューに存在している。


「ここのメニューって名前が変わってるよね?」

そう、なんて言うか異世界メニューになってる。

「大体グラニテちゃんってどこの誰?」

英語の教科書にも載っている『白ウサの大冒険』に出てくる魔導王の名前。

「え?あのキャラクター名前があったの?」

ちなみに剣聖はマカロンちゃん。

「クレープちゃんは?」

槍聖って言ったかな?槍のすごい人。


「それ本当?」

一応本当だけど、証拠が見たいといわれても見せることは出来ない。

だから、信じられないのなら信じなくてもいい。

別に、これからの人生において大した違いはない。

母ならうまく説明出来るかも知れないけど、黒音にはまだ無理。

「黒音ちゃんのお母さんっていくつ?私たちよりも年下に見えるけど・・・」

乙女の秘密、たぶんバラスと怒られる。


-え?32歳!-


「なんか乙女の秘密がばらされてるね・・・」

まさか自分から公表するとは・・・

「見た目うちの妹くらいにしか見えないのに・・・若く見えるとかいうレベルじゃないね」

黒音も最初、母は吸血鬼とかじゃないかと思った。

「32歳だと学生じゃないよね?お仕事してるの?」

プログラマー?SE?とにかくそんな仕事。

それ以外にも色々やってるらしい。黒音にはすべては理解出来ない。

基本家で仕事してる。たまに会社に行く。


「ずっと家に居るんだ。いいなぁ。あたしんちは共働きだから、家に帰っても一人なんだよね・・・」

でも、その分収入が増えるのでは?

黒音たちが通ってる学校は私立だから学費が高い。収入が少ないと通えない。

「そんなこと考えたこともなかった・・・」

お仕事だけじゃない。家事もやってくれている。

だから学校に通える。ちゃんと感謝すべき。

今こうして喫茶店でだべっていられるのも親のおかげ。


「黒音ちゃんのお母さんは大変だね、一人でお仕事も家事もしてるんでしょ?」

家事はメイドがやってる。

「メイドさんが居るの!?」

母は頭はいいけど、家事は苦手。身体が小さいから。

「ああ、そうだよね。小学生の妹がママのお手伝いしてる感じになっちゃうよね・・・」

メイドは家事は優秀。特に料理は天才的。その代わりおつむが残念。

「黒音ちゃん成績いいよね?お母さんに教えてもらってるの?」

黒音は自分で勉強している。教科書の内容の予習と復習だけでも学校のテストはどうにかなる。

でも、それだけじゃダメ。母のような知識は身につかない。

世界情勢とか為替相場とかは学校で習わない。というか日々変化するものだから授業では追い付かない。

「そりゃあ、毎日ニュースでやるような内容だしね・・・」

そう、でもそれじゃ遅い。ニュースでやったという事はみんなが知ってる情報になったという事。

だからその前に情報を手に入れる。それが大変らしい。母でも苦労している。

ネットの情報にはウソの情報もたくさん紛れている。そこから正解を選ぶための知識を身に着けたい。

それが黒音の目標。


「花子、そろそろ帰るわよ?」

今日はこれでお開きらしい。


「お会計お願いします」

鈴木さんのお母さんが伝票をレジに持って行った。

「お代は結構です」

あれ?タダになった?

「え?私はまだ払ってないんだけど、誰かもう払ったの?」

他のお母さん居も聞いているけどみんなが首を左右に振る。

「オーナーのお連れ様にお代はいただけませんよ」

もしかして・・・

「誰よオーナーって!」

再びみんなが首を左右に振る。

「あそこの白き小さなご主人様がオーナーなのである」

全員がマスターを見つめる。

「あら?知っててこの店にしたんじゃなかったの?」

黒音は知らなかった。

メニューの名前が怪しいとは思ったけど・・・

「私はただ、最近話題の喫茶店だから・・・」

鈴木さんのお母さんもしどろもどろになってる。

「やっぱり黒音ちゃんのお母さんってすごい!」

鈴木さんはキラキラした目でマスターのことを見つめている・・・

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