第61話:吉野川の日常その5

色々と苦労したけど、いよいよ文化祭当日。

「じゃあ、あとでみんなで行くから」

お嬢様の前で無様な姿は見せられません。

「メイドは今日こそ輝く時。少し期待している」

山田ですら今日は私にやさしほほえみを向けてくれます。

「私も先輩たちと一緒に行くっすよ」

安藤にも私こそが最高のメイドという事を見せつけてやりましょう!


とは意気込んだものの・・・裏方なんですよね・・・

結局ひたすらケーキを作成しています。

せめて、お嬢様たちがいらっしゃるころには裏方ではなくホールに移動したいです。

「吉野川さんのメイド服すごいね・・・」

これは本物ですから、コスプレ用ではなく仕事用のオーダーメイドです。

生地からしてまるで違います。

そんなペナペナでテカテカな生地とは違うのです。

「それになんかメイド服着てるときは普段と口調も違うような?」

もちろんです。今はお仕事モードなのです。


佐藤さんとともにスポンジケーキを焼きまくり、高橋さんとそれを飾り付けていく。

完成したケーキを鈴木さんが8等分していく。

開店前に、イチゴショート40個、ガトーショコラ24個、チーズケーキ24個が完成。

ここからは売れ行きを見ながら追加していく。

そして暇な時間を見計らってビスケットも焼いていく。これは昨日も作っておいた。

常にオーブンが稼働している感じだ。


「それにしても売ってるみたいな感じのケーキがどんどん出来上がっていく・・・」

そりゃあ、売ってるケーキだって誰かが作ってる。種を蒔いて生えてくるようなものじゃない。

だったら、同じような手順を踏んで同じように作れば同じようなものが出来上がる。

ごく当たり前の話。しかもケーキなんてレシピがいくらでも公開されています。

とくにスポンジケーキなんて難しい包丁さばきなども必要ありません。


「いや、スポンジはいいとしてもそこから先の作業だよ!」

チーズケーキやガトーショコラは基本的に焼くだけですからね。もっと簡単ですよ?

「ショートケーキのデコレーションだよ!」

これもそれほど凝った作りの物ではありませんよ。

使うのもクリームとイチゴだけですし・・・


ところで、すでに開店した時間ですよね?

ちょっと教室の様子を見てきます。


あれ?廊下に行列が出来てますね?

「吉野川さん、どんどん追加お願い、チョコとイチゴが売れ行きがいいから多めに!」

え?

私の接客シーンは?

「それは後、今はケーキの追加をお願い!」

なんと、裏方に逆戻りです。まあ、そろそろさっき仕込んだケーキが焼ける時間ですし・・・

ですが、お嬢様たちが来店したら接客を優先します。

「白くてかわいい娘よね?来たら教えるわ!」

仕方がありません。それまではケーキを焼き続けます・・・


「ガトーショコラが焼けたよ!」

じゃあ、次はスポンジですね。チーズケーキは一時中止です。

複数のオーブンを駆使してスポンジケーキをどんどん焼いていきます。

その合間にも指示してガトーショコラの仕込みを頼んでおきます。

「ちらっと見てきたけど、廊下の行列が3クラス先まで繋がってたよ?」

50人くらいですか?

今オーブンに入っているのが焼きあがっても48個分ですね・・・

とても足りません。


「材料がそろそろなくなるんだけど?」

まだ初日の午前中なのに・・・

これでは明日は休業ですね。むしろ今日の午後をどう乗り切るか・・・

「ラーメン屋だってスープが無くなったら閉店だし、それでいいんじゃない?」

まだ、お嬢様が来ていないのですよ?閉店はあり得ません!

「で、どうするの?」

先生に相談します。売り上げを材料費に回してもよいか確認します。


「ダメよ?」

先生はそれしか言えないんですか?

「あなたが無理な案件しか持ってこないだけです」

でも、もう品切れなんですよ?

200個近く作ったケーキが全部!

「嘘!?私まだ食べてないのに!」

明日何すればいいんですか?


「吉野川さん、ここに居たの?お嬢様が来たわよ!」

じゃあ、戻ります。


教室に戻るとお嬢様が席に座っている。山田と安藤も一緒に。

お帰りなさいませ、お嬢様。

「おお!メイド喫茶っぽい」

ちょっと複雑な気分です・・・


ご注文はお決まりでしょうか?

「そうね、イチゴのショートケーキとカフェラテ」

ケーキって残ってるのかな?

「黒音はガトーショコラ、それとレモンティー」

安藤は他のメイド服と私を見比べている。

「私はチョコのケーキとコーヒーをブラックでお願いっす!」

ちなみに写真撮影は禁止ですよ?


お待たせしました。

イチゴショートとカフェラテでございます。

こちらはガトーショコラとレモンティー、

それにガトーショコラとブラックでございます。

注文の品を配膳していく。

ちなみにケーキはこれで完売。

「うーん、やっぱりおいしいわ、このカフェラテは佳乃が淹れたの?」

飲み物も私が用意した。


「え?ケーキはおいしいけど、コーヒーはいまいちだと思ってた・・・」

他のクラスの生徒かな?

そっちは私が淹れたんじゃないからね。

「すみません、追加でメイド長さんが淹れたコーヒーを!ミルクと砂糖入りで!」

コーヒーの淹れ方はちゃんと説明したのに・・・

それにメイド長とは?


お待たせしました。コーヒーでございます。

「全然違う!?なんで?」

一口飲んだ瞬間に叫びだした。


「すみません!こっちもメイド長のカフェオレを追加で!」

何やら教室が騒がしくなってきた・・・

それにメイド長のカフェオレなんてメニューはない。

名指し?指名依頼?

まあ、悪い気はしないね。


結局ケーキが売り切れた後も延々コーヒーを淹れ続けたよ・・・

ちなみに日曜日は完全にコーヒー専門店だった。

まあ、表彰されたからいいかな?お嬢様にも褒めてもらえたし。

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