第57話:吉野川の日常その1

お嬢様と暮らすようになってから真面目に学校に通うようになりました。

以前は養育費を出来る限り引き延ばすために連続で留年してみたりもしましたが・・・

まさか母親がアパートを引き払って男と出ていくとは・・・

今では生活のすべてがお嬢様のお金で賄われているわけですから無駄には出来ません。

毎日学校にも通いますし、退屈な授業もきちんと受けてはいます。理解は出来ませんが・・・

そろそろどうにかしないと出席日数は足りても成績で単位を落としそうです。

同じ内容の授業も3回目だろ?っと思うかもしれませんが、理解度が0では3倍しても0のままです。

お嬢様に勉強を教えてもらうべきでしょうか?

素晴らしい優秀なプログラマーですから、頭が良いのは確定です。

でも、プログラマーって理系のイメージですよね?


それに、そもそも今は11月なんですよ。

つまり、1学期の中間も期末も2学期の中間もすでに終わっているという事です!

残るは2学期の期末と3学期の期末のみ。それでどうにか進級しないといけません。

割と絶望的です・・・

お嬢様は卒業できなければクビとおっしゃいました。

ところで、高校って何年通うことが出来るのでしょうか?

ちょっと先生と相談とかしないダメな気がしますね。

本当は今の時期にはないのですが、3者面談とかをしてもらうというのも検討しましょう。

なんせうちの親はシカトして出席しなかったので、面談ってやってないんですよね・・・


それはそれとして、来週末は文化祭ですよね?

うちのクラスはベタですが喫茶店をやるようです。そしていつの間にか調理担当に決まっていました。

あまり交流はありませんが、私が調理師免許を持っているのは知られていますからね。

毎日自分の弁当も作っているのは見ればわかることですし。

文化祭で活躍すれば進級に加点してもらえないですかね?内申点とかそんな感じので。


で、今はLHRで店で出すメニュー決めてるみたい。

みんな好き勝手言ってるけどそれ作れるの?

「ちなみに吉野川さんはどれが作れます?」

黒板に書かれたメニューはどれでも出来るよ。

オムライスとかシフォンケーキとか簡単なのばかりじゃない。

まあ、文化祭だしね。ところで火は使えるの?IHでも作れないことはないけど・・・


お嬢様と言うかリーゼロッテが望むメニューに比べれば楽勝過ぎ。

堅パンとか塩スープとか・・・挙句に串焼きとか揚げ芋?

普通のものを想像してたよ・・・オーク肉なんてこっちの世界じゃ手に入らないよ・・・

色々なブランド豚を組み合わせたりして味や食感を再現するのにどれだけ苦労したか・・・

揚げ芋もジャガイモなんだけど男爵でもメークイーンでもないみたいなんだよね?

もしかするとジャガイモですらないのかもしれないけど、ただ『芋』としか言ってないし。

ただ、焼き芋用の芋とは違うって言ってた。紫で中が黄色で甘い芋が焼き芋用だと。

まあ、サツマイモなんだけど、『サツマ』って地名だしね。『ジャガ』も元は地名だっけ?

異世界にはどっちも存在しないからね・・・


そう、実はお嬢様はたまにリーゼロッテになってる時がある。

普段はお嬢様の人格がメインなんだけど、時々リーゼロッテが表面に現れる。

それが先ほどのメニューを希望するとき。

本人は気付いていないのかもしれないけど・・・もうほとんど融合してるみたいな感じだし。

見た目は完全にリーゼロッテだよね?中身はお嬢様成分が多い気がするけど?

もしかすると、トーストや卵かけご飯の時もそうなのかな?好きだって言ってたし。

おもちも好きって言ってたね。お正月が楽しみだ。


ところで、オムライスはどのタイプ?デミグラスソースのは時間がかかるんだけど?

「え?そうなの?」

デミグラスソースを作るのに数日煮込まないといけないんだけど?

「そこから作るの!?」

え?違うの!?

「大体うちらがやるのはメイド喫茶だよ?」

ってことはふわとろじゃない方のオムライスにケチャップで文字を書く系?

「そうそう。♡とかネコとかね」

もちろん、それも作れるよ。メイド服も持ってるし。

「メイド服を持ってるの!?」

そりゃあ、メイドだし。あたりまえじゃない?

「画像ってある?」

あったかな?コスプレじゃなくて作業着だからね。着てるのはないかも?

「吉野川さんっていったい何者?」

お嬢様のメイドだよ?

お掃除したり、お料理作ったり、車の運転したり・・・

「え?免許もあるの?」

そりゃあ持ってるよ。メイドとしての嗜みじゃない?

「それはよくわからないけど・・・」

ありゃ?理解されない?

「じゃあ、車で買い出しとかも頼めるの?」

それは無理。免許はあっても車は持ってないもん。お嬢様の車を借りるわけにもいかないし・・・

「頼んでも無理かしら?」

だって、そこら辺の建売住宅並みのお値段だし、私がぶつけることはないけど、ぶつけられたら大変だよ?

それにそもそも荷物があんまり乗らないし。段ボールとか詰めないよ?

「もしかして、赤いスーパーカー?前に学校に来てた!」

何かの手続きの時かな?一度だけ車で来たことがあったような?

「真っ白で小さな女の子よね?」

あんたらの倍くらいの年齢だけどね。

「そうなの!?」

車の運転している段階で気が付こうよ。本物のお子様なら運転出来ないでしょ?

「それもそうよね・・・」


そんなことを話しているうちに、メニューが決まっていた。

そしてほとんどは私にしか作れないものらしい・・・解せぬ。

みんなでやるから文化祭じゃないのかと問いたい!


せっかくだから文化祭当日までにメニューの練習をしようかな?

でも、それだと本番にお嬢様に食べてもらえないかな?

そうだ、安藤の弁当にしよう。そう言えば、安藤用の弁当箱も買わないと・・・

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