第54話:佳乃の決意

リーゼロッテがゲームの中の人工生命体と言うことは理解しました。

では、お嬢様の身体はいったい何なのでしょうか?

「うーん、リーゼちゃんなんすよねぇ・・・」

いったいいつからお嬢様はリーゼロッテの姿に?

と言うか、安藤は気付かなかったのですか?


「おそらくは開発が中止になってサーバーを停止したときっすね」

それはいつ頃の話でしょうか?

「今年のハロウィンの日だから10月31日っすね」

私がお嬢様に雇われたのは文化の日だから11月3日です。

「すると、おそらくは身体がリーゼちゃんになってすぐ雇ったすね?」

でも、リーゼロッテはゲームの世界にまだ存在しているのですよね?

これはいったいどういう事でしょうか?


「多分、違う世界なんすよ。世界が停止したときに新しい世界や予備の世界を作ったらしいっす」

その中のリーゼロッテの一人がお嬢様の身体になったってことでしょうか?

「でも、それを確かめることも出来ないっす」

まあ、でもお嬢様がここに居て手で触れることも出来るわけですし、問題はありませんね。

重要なのはお嬢様がかわいいということです。

「うんうん、先輩はかわいいっすよね。とても年上には見えないっす」

そう、私よりも一回り以上年上なのが信じられない。どう見ても山田よりも年下です。


「これがエステや化粧品の結果なら真似出来るんすけど・・・天然ものっすからね・・・」

安藤がお嬢様のぷっくらとしたほっぺをつついている。

ぷにぷにと柔らかくて弾力がある。まるで大福のような感触。

「黒音はそろそろ寝たい。メイドたちは夜更かしするならリビングでしててほしい」

この家は部屋数はそれほど多くない。リビングと寝室と作業部屋。あとはお嬢様の秘密基地。

いわゆる2LDK+Sという構成。お嬢様の秘密基地は間取り上は納戸という扱い。部屋ではない。

そして、その秘密基地からはいまだにちゃりんちゃりん音がしている。

「なんか一晩で私の年収くらいは軽く超えていそうっすね・・・」

安藤がわかりやすくへこんでいる。

「安藤は同じようなプログラムは組めない?」

山田が残酷な質問をしている。

「これが出来たら私なら会社を辞めてるっすよ?」

私でもそうしますね。お嬢様が会社を辞めない理由が知りたくなってきました。


「まあ、私は先輩と結婚して専業主婦になる予定っすけどね?」

山田がギギギッと私の顔を見た後にギギギっと安藤の顔を見る。

「どこまで本気かわからないけど、そうなるとメイドはクビ?」

それは困ります。路頭に迷ってしまうので、出来れば半永久的に雇っていただきたいのですが・・・

「黒音は法的にはマスターの子供なので捨てられることはないはず」

そう言いながらもベッドにもぐりこんでいく。

「明日は平日。メイドも安藤も学校や会社があるはず。さっさと寝るべき」

それもそうですね。

何も今日無理して起きている意味もありません。

私も寝ることにします。

「じゃあ、私も寝るっすよ」

電気を消して夢の世界へ・・・


もぞもぞ


がさごそ


誰かがトイレにでも行くのでしょうか?目が覚めてしまいました・・・

時間を見ると、4:11まだ夜明け前ですね・・・

そういえばリーゼロッテは夜明け前に起きたとか。

まあ、ゲームの世界では日の出や日没で行動するような世界ですからね。

それこそ、世界が違うってやつです。

私ならあの世界で何が出来る?剣?魔法?それとも・・・

料理の知識はあるけど、おそらく素材や道具で手に入らないものが多いと思う。

マヨネーズを作って異世界で無双とかそういう内容の小説とかもあるし・・・

普段当たり前のように使っている食材や調味料が存在しない。

そんな状況で私はお嬢様に何を作れるのかな?

米も味噌もないとか、無理ゲー過ぎる。

お嬢様が気に入ってくれたハンバーグやオムライスはどれも作れない。

塩は手に入るはず。無くても海水から作れる。海さえあれば・・・

あとは柑橘系の果物があればその果汁で酸味は加えられる。

甘味は・・・芋やカボチャ?小豆があればあんこも・・・

そのものでなくても似たような食材があれば代用品は用意できるかも?

主食は・・・米ではなくて小麦なのかな?

小麦粉からパンを作る?おぼろげにはわかるけど、やったことはない。

うどん?それなら作れる。しかしつゆが無理か・・・醤油、酒、みりんどれもない。

しかし、別にこっちのレシピにこだわる必要はないよね?

現地で手に入る食材で何が作れるか、そういう工夫が求められるのでは?

よく見かける5角形の味の成分表みたいなやつ?

あれをもとに味を再現できるようなそんな技術が欲しい。

その前に、食べたものからあのグラフを作れるようにならないと・・・

ミュージシャンが曲を聴いて楽譜を起こすような・・・耳コピ?

それの料理版的な感じで・・・食べたものからレシピを予想するような・・・舌コピ?

素材のあたりはつけられても調理方法や手順は無理かな?

いや、やる前からあきらめちゃだめだよね?

よし、頑張ろう!


むにゃむにゃ・・・


「佳乃、起きなさい?遅刻するわよ?それにしても佳乃が寝坊なんて・・・」


ゆさゆさ


「マスター、そこはペチンペチンするべき」

ん?山田にしては上出来です。


ぺちんぺちん


これがペチンペチンですね?これが味わえるなら寝坊したくなりますね・・・

「こう、こんな感じ。リーゼロッテはこうやって起こしてた」

って、何で山田がペチンペチンしてるんですか!?

おかげで一瞬で目が覚めましたよ。まったく・・・

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