Ep.5 兄さまには言えません。

SE:チャイムの音

「今日もようやく講義が終わりましたね。大学の講義は時間が長く感じます。・・・この後・・・何もご予定がなければ、少しだけお時間いいですか?」


「相談したいことがありまして・・・。」

//恥ずかしそうに


「ありがとうござます。」

//嬉しそうに


「ではカフェエリアに行きましょう。」


SE:椅子をひく音

「ここのカフェ、いつも学生が多いですね。お値段もお手頃ですし、ここでレポートを書く学生が多いのも納得です。」


「そうですね。せっかくいただいたお時間を無駄にしてしまうところでした。」


「相談したいことなのですが・・・。私・・・、ふぅ・・・。」


「実は・・・バイトをしたいと思いまして・・・。」


「そうです、バイトです。」


「今までですか?」


「バイト・・・したことありません。」


「お小遣いはいただいています。ですが・・・私ももう大学生です!!これからのことを考えると、自分でお金を稼げるようにならないといけないと思いまして・・・。それに、いつまでも子ども扱いをされるのはイヤなのです。社会勉強も兼ねて、家の外の世界を見てみたいのです。」


「笑わないでください・・・。」

//少し怒り気味


「大学生活にも慣れてきましたし、課題提出も期日内にできています。単位も問題ありませんし、時間的余裕は十分あります。」


「ですので、バイトをするならこの時期かと思いまして・・・。麻衣子さん、良ければ私に合うバイトを提案してください。」


「それは・・・。今までにもバイトをして来られた友人が麻衣子さんしかおられませんし、大学入学当初、気さくに話しかけて下さった私の大切な・・・友人ですので、このような相談は麻衣子さんにしかできないです。」


「身近な人と言いますと?」


「兄さまですか!!??」

//驚く


「兄さまには相談できませんよ。」


「どうして・・・って言われましても。・・・バイトをしたいなんて話せば絶対に反対されますよ。」


「麻衣子さんは兄さまがどれだけ過保護かわかっていませんよ。」


「例えばですか?」


「例えば、小学校時代、初めて研修旅行で山の家に行ったのですが、大きなリュックで行こうとしたら後ろ向けにコケる可能性が高いから、という理由でキャリーケースを持たされたり、中学校の修学旅行では、担任の先生に移動する度に兄さまの携帯電話に連絡を入れるようにお願いしたり・・・本当、恥ずかしい思いばかりしてきました。」


「友人と出掛けるときも、一緒に行く友人のことを根掘り葉掘り聞かれたりしました。」


「高校2年生くらいまでは続いてました・・・。」


「いつの間にかそこまで言われなくなりましたね。」


「きっかけですか?」


「うーん。」


「大学進学のことを相談してから・・・かもしれません。」


「この大学、家族全員卒業生なんです。」


「今までは女子校だったのですが、進路のことで兄さまに相談したことがありまして、そのときにここの大学を目指す上で、口を出さないで欲しい・・・と言ったことがあります。」


「何度か考え直すように言われたのですが、私の将来は私で決めたい、と強く言い聞かせたのと、父や母にも兄さまを説得するようにお願いしました。その後くらいから今までのような過保護っぷりはなくなりました。」


「心配も度が過ぎれば迷惑なだけですけどね。」

//笑い声


「それはそうと、おすすめのバイトはありますでしょうか・・・。」


「興味があるのは、カフェの店員さんや、本屋さん、アイスクリーム屋・・・あっ、クレープも良いかもしれませんね。」


「確かに、接客系が多いですね。」


「麻衣子さんがされている居酒屋さんなんてどうでしょうか?」


「・・・私には向いてませんか?」


「そう言われてみると、お酒に酔ったお客様の対応・・・私にはハードルが高いかもしれません。お料理の名前やお酒の種類を把握するだけでも大変そうです。」


「人には向き不向きがある・・・か。」


「そうですよね。」


「でしたらやはり、カフェの店員さんに挑戦してみようと思います。」


「このバイト求人サイトから探してみると・・・。」


「ここなんてどうでしょうか。」


「大学からも近いですし、未経験者歓迎、って書いてありますし。」


「ここなら大通りに面している分、夜でも街灯で明るいでしょうし、兄さまもOKしてくださると思います。」


「募集は・・・ホール・・・?ホールって何ですか?」


「あぁ。よくメニューとか飲み物を持ってきてくださる方々のことを指しているのですね。」


「これなら私でもいけそうです。」


「高校の文化祭でメイド喫茶をしましたので。」


「おかえりなさいませ、ご主人様。」

//高めの声


「そうですよね。カフェでは言いませんよね。ついつい思い出してしまいました。」


「まずは面接をクリアしないといけませんね。」


「何のためにバイトをするかですか?」


「・・・実は兄さまが今度・・・結婚・・・するみたいでして・・・。そのお祝いを買いたいなぁ・・・って。」


「欲しいものを聞いたのですか、何もいらないの一点張りでして・・・。」


「今までお世話になった分、何かお返しができないかと思ったのですが、何かを買うにしてもお小遣いではなく、私自身で稼いだお金で買いたい、そう思って・・・・バイトをしようと思いました。」


「まだ何を買うかは決めていませんが、生活で役に立つものを、と考えています。」


「そのためにもしっかりと働かないといけませんね。」


「麻衣子さん、色々とありがとうございました。こうして相談に乗っていただけるだけでも嬉しいです。今度は兄さまに送る品で相談に乗ってくださいね。」


「バイトが決まりましたらお知らせしますので、ぜひお客様として来てください。私も、麻衣子さんのおられる居酒屋さんに顔を出しますので。」


「遠慮はいりませんよ。」


「せっかくですので、ケーキも頼みませんか?こうしてお話をしていると小腹が空いてきました・・・。イチゴショートケーキも魅力的ですが、フルーツタルトも美味しそうですね・・・。」


「半分ずつ!!それはさらに魅力的です。」


「すみませーん、追加で注文をお願いします。こちらのイチゴショートケーキとフルーツタルトを・・・・・・。」

//だんだんと声が小さくなる、フェードアウト

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る