海の家でバイトをしたらギャルに好かれた

坂本宙

高校二年の夏

七月の末、世間的には夏休みだ。中高生は、みんな学校が休みだからといってこぞって海にくる。俺は、その姿を見ながら父親が経営している海の家でバイトをしていた。高校二年の夏休みをこんなふうに過ごすとは思わなかった。

高校では、あまり友達がいないから夏休みは暇だが父親は勝手にシフトを入れてしまうから少し困る。もしかしたら、友達と遊ぶかもしれないだろって。まあ、100%ないけれど。そんなことを思っていると


「和樹、ちょっと来てくれ」

と父親に呼ばれた。何かと思って店の表に出ると、大量の荷物が置いてあった。


「これを全部店の中に入れてくれ」


と言われた。父親は、腰が悪い関係で重たい荷物は全て俺が運ばないといけない。俺は、渋々荷物を入れることにした。しかし、なぜこんなに大量のビールケースがあるのだろう。俺は、最後のビールケースを入れようとしていた時、


「やめてください」


という声が聞こえた。その声の方を向くと三人組の男にナンパされている金髪ギャルがいた。店前でこんなことをされると困るから俺は、注意しに行った。


「あのー」


「何?文句?」


「店前でナンパはやめてもらえます?」


「お前には、関係ないだろ」


「あんまりひどいと警察呼びますよ」

と言って携帯を取り出そうとすると


「ちっ」

と言って遠くの方へ走って逃げていった。


俺は、とりあえず厄介者は、いなくなったと思い最後のビール瓶を店の中に入れようとした。その時、


「あの、ありがとうございます」

と金髪ギャルに言われた。俺は、軽く会釈して店の中に入った。


俺は、海の家の中に戻り厨房でドリンクを作り始めた。今日は、なぜかいつも以上に人が多くとても忙しかった。昼休憩を取ることもできずに夕方までずっと働き詰めだった。夕方になり少し落ち着いて、休憩を取ろうと思い、店の表にいた父親に声をかけようとしたら、知らないおじさんと父親が楽しそうに話していた。そのおじさんの隣には、さっきのギャルがいた。父親は、俺に気がついて


「和樹、どうした」

と聞いてきた。俺が答えようとすると、おじさんが


「この子が山本さんの息子?」


「ああ、そうだよ。和樹、誰かわかるか?」

俺は、全くわからなかった。


「わかんないよねー。君のお父さんの大学の同級生の飯塚です」


わかるはずがない。そもそも、父親が大卒ということを知らなかった。父親は、こんなイケおじみたいな人と友達だったんだ。そう思っていると、おじさんは続けて


「こっちは、うちの娘の梨奈」

やっぱり、おじさんの子供だったんだ。俺は、軽く会釈をした。その姿を見て父親は、


「ごめんな。誰に似たんだかシャイだから」

というとおじさんが


「お前だってシャイだったじゃないか。顔は良かったのに」


この時、俺のシャイな性格は父親譲りということが発覚した。あと、今の父親は、かなり前髪がない悲しいおじさんという感じだが昔は、イけてたということが衝撃的だった。


「久しぶりにあったんだから、ちょっと飲まないか」

と父親がいいおじさんと海の家の中に入ってしまった。


「和樹、酒ぐらい速く出せないのか?」

と急かされながら俺は、ビールの準備をしていた。すると、


「ねえ、この後二人きりにならない?」

と飯塚さんに言われた。


「別にいいけど」

といって俺は、急いでテーブルにビールを置いて外に出た。


外に出ると、ちょうど海に夕陽が反射していてとても綺麗だった。それを背景に飯塚さんがビーチに立っていた。俺が見惚れていると、


「こっちきて」

と言われた。俺は、飯塚さんのいるところに行った。


「どうしたの?」


「昼間は、ありがとね」


「別に何にもしてないよ」

というと、飯塚さんは少し微笑んで


「やっぱり、昔と変わってない」


「どういうこと?」

俺は、言っていることがさっぱり理解できない。だって、今日初めて出会ったはずなのに。


「ううん、なんでもない」

そう言って、飯塚さんは海辺に行って海に足をつかり始めた。俺も足をつかりに行った。いつもは、人が多くとても海になんて入ろうと思わないがたまにはいいものだと思った。


「私、久しぶりに海に来たんだ」


「家族ときたの?」


「違うよー、友達と来てたんだけど友達と別れた後海の家に行ったらお父さんがいたの」


「そうだったんだ」


「ごめんね、お父さんが」


「大丈夫だよ。俺のお父さんも嬉しそうだったから」

そう話していると、スマホの通知音がなった。ポケットからスマホを取り出して通知を見ると父親からだった。


「そろそろ、戻ろうか」

と言って俺は、飯塚さんと海の家に戻った。中に入ると、父親と飯塚さんのお父さんは完全に出来上がっていた。テーブルの上を見ると瓶ビールの殻瓶が大量に置いてあった。


「父さん、大丈夫?」


「#%$%&’()(’&R%E $W#Q"」


父親は、何を言っているのか全くわからなかった。俺は、こんな情けない父親の姿を初めて見た。その姿を見て飯塚さんは、笑っていた。


「笑ってる場合じゃないよー」


「だってー面白いじゃん」


そんなことを話していると時計の針は九時を指していた。俺は、この海の家に泊まり込みで働いているからここで寝るが、飯塚さんはどうするのだろう。


「飯塚さんは、どこかホテルとってるの?」


「ここに泊まっていく」

俺は、冗談を言っていると思った。


「冗談でしょ?」


「本当だよ。だってこんな姿のお父さんを運ぶの大変だもん」


「そうかー」


「嫌なの?」

飯塚さんの顔が少し怖かった。俺は、その姿を見て


「いいよ」

と答えてしまった。


「やったー。お泊まりデートだね」

今年の夏は、例年とは違いそうだ。

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