ワンフレーム

Air

第1話

 バイト帰りの帰り道、自転車を見つけた。赤煉瓦でできたベンチの様な休憩場の様な場所の横にそれはポツンと置かれてきた。

 夜中で、外が真っ暗であまり見えなかった為、見逃して通り過ぎそうになったが、街頭の僅かな光でなんとかそれを見る事が出来た。

 放置されていた自転車には泥除けにステッカーが貼っていたが、恐らく学校のステッカーと、登録された防犯シールでも、入っているんであろう。

 そして、俺は柄にも無いのにその自転車の写真をフラッシュを焚いてスマホで撮った。俺はその写真を、なんとなく写真を投稿するSNSにUPした。背景が暗いからそれっぽい雰囲気になっている為、いつもよりも心なしか少しアクセスも増えていた。我ながら良い写真だ、とも自惚れた。ただその自転車は翌日の朝に見た時点ではもう既に消えていた。

「なんだったんだ?」

 そう思った時、一件のニュース速報がスマホに飛び込んで来た。どうやらそれは近所の事件らしい。

 そのニュース記事によると、昨夜の夜8時ごろから外出した桜井 花江さんが自転車と共に行方不明になった、という知らせだった。

 こんなことは、よくある事だ。しかし、よくある事だが、ゾッとした。その自転車は、場所、学校、時間帯を示し合わせて考えてみると、恐らく失踪した彼女のものであろう。実際、写真をあげたSNSを確認したが、その様な考察のコメントが既に幾つも付いていた。気味が悪い。


 興味本位だった。その画像を加工し、明るさを最大にまであげ、真実を見ようと奮闘した。昨日は暗くて、裸眼でもよく見えなかったが光量を上げると何か手掛かりが見つかるかも知れない。そう思い、俺は見てしまった。見ては行けなかったのかも知れない。

 赤いシミ。まるで雫を幾つも垂らしたかの様な染み付きようだ。更に、画像の端には、ハサミの様なものも見える。それにも、赤いシミがこびり付いていた。

 只事ではない。それだけは分かった。しかし、それと同時に気持ち悪さだけが残った。彼女は何処へ行ってしまったのだろうか。それに、この赤いシミはなんだろうか。この無造作に捨てられた、ハサミは何に使ったのか。俺は、想像もしたくない。

 しかし、どんなに頑張っても、自分だけの考察はこれで限界だ。しかし、SNSのコメントになら有効な考察が転がっているであろう。そう思い、俺はコメントを確認する.....が、それはテンプレートの様な同じ考察ばかりだった。どうやら光量を上げたのは俺だけでは無かったらしい。これではまるで意味がない。

 しかし、ふと気づいた。DMが来ている。普段は、誰ともDMを使って話すことなど無い。

「一体誰からだろう」

 そう思い、確認した。そこには写真が一枚載せられていた。写真を見てみると驚愕した。

「これは、昨日の自転車と......!なんて事だ。」

 その写真には自転車と、俺の住んでいるマンションが背景に写っていた。それは映り込んだ、って訳でもなくワザと写したって感じだ。明らかに故意であろう。俺はそう思ってから動悸が止まらない。恐怖に震えるがどうしても指は止まらなかった。そして、数分経ったのち、新たに画像が送られて来た。それは、俺の玄関前だ。俺は恐怖のあまり、のたうち回った。本能のまま、こう思ったね、「コロサレル」と。

 俺は今すぐに110番通報しようとしたが、ドアの鍵が開く音がした。その瞬間思わずその手を止めてしまった。そして、ドアが開きそうになる瞬時に俺はトイレに隠れて、鍵をかけた。トイレに入ってしばらくした頃。見知らぬ足音が、ゆっくりと聞こえてくる。

 ......。

 暫く経ったのち、急に音がしなくなった。この部屋から出て行ったのか?そう思った。しかし、油断は出来ない。アレからドアの開く音を聞いていない。つまり、誰かが俺が出て来るのを待ち伏せしているのだ。しかし、それが分かったところでどうすればいいか、全くわからない。そんな時、スマホの通知が鳴った。

 藁にもすがる思いで確認してみるとDMが一件来ていた。写真がまた一枚。しかし、これは開くべきではなかった。お世辞にもそれは、とても良い物とは思えなかった。


 俺がいるトイレの.....ドアの前。

 

 つまり、、、誰かがこのドアを一枚挟んだ所で待ち伏せしているのだ。気づいた時から汗が止まらない。それも冷や汗だ。恐怖と気持ちの悪さで、ずっと吐き気も止まらなかった。俺は、ここで覚悟を決めて110番通報をした。数回コールしたのち、無事に繋がった。

「もしもし、どういったご用件で?」

「助けてくれ、不審者が家に入り込んでいる。このままだと俺が、殺されかねない!」

 俺が焦りに焦った声で伝えると、電話越しの警察も只事ではない事に気づいた。

「!!不審者が今何処にいるか分かりますか?」

「トイレのドアの向こう側。」

「分かりました!!直ちに警察を迎えさせます。ご住所を教えて頂けますか?」

 俺は警察に住所と、階層を伝えた。

「到着は早く見越して5分ほどになります。暫くの辛抱です。なんとか到着まで耐え切ってください。」

「お、お願いします」

 俺は涙ながらに警察に委託した。電話を切ると少しだけ安堵した。

「助かる。」

 しかし、そんな時だった。ドアから強くノックする音が聞こえて来た。俺はビクッと身体を震わせる。恐らく犯人も警察を呼ばれたからかなり焦っているのだろう。あと5分。5分の辛抱だ。

 しかし、それはノックから段々とドアを何度も強く殴りつけるような音へと変わっていった。完全なる恐怖だ。それはもうこの音を聞いている間は、生きている心地がしなかった。ドアは無情にも少しずつ亀裂を出し始め、限界が迫っていることは誰が見ても明白だった。

 そんな時、警察が部屋に入り込んでくる音が聞こえて来た。それと同時に、ドアは再びいつも通りの静寂を取り戻した。

「大丈夫です!!私達が来ました。」

 警察の声に安堵し、思わず涙を流す。良かった。助かったんだって。そして、俺は歓喜しながらボロボロのドアを開けた。

 しかし、摩訶不思議な事に、ドア越しに居たのは、犯人でもなく、警察でもなく、それは本来居てはいけないはずの失踪した高校生であろう少女の遺体だった。

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