ヲシマイ
不意に、資料を読む背後から声が聞こえてきた。
「災いに名前を付け、漢字を宛がい、封じる。不幸を退けるこの一連の手順、
背後に何者かがいる。だが、この部屋には誰もいなかった筈だ。厳重に封印された資料のコピーを安置する、たったそれだけの大きな部屋には誰一人としていなかった筈だ。計器類は異常を示さず、あらゆる監視カメラと監視員は資料室に存在するのは僅か一人であると誤認し続ける。
「理解できないのも無理はない、
尚も語る声の主は、同時に少しずつ近づく。
「
カラン カラン――
部屋の中に不相応な下駄の音が木霊する。が、それでも尚、誰も、何も、己以外の全てが一切の異常を感知しない。認めない。異常、異様な空気は周囲を侵食し、やがて口から取り込まれると肺を経由し身体の隅々までを汚染する。恐怖だ。
「どちらも共生関係が永久に続くとは考えていなかった。特に村人達は約束を反故にする機会を虎視眈々と狙っていた。そんな折、
カラン――
足音は不意に止まる。声はもう直ぐ、耳元で聞こえている。凛とした、美しい鈴のような声は、だからこそより一層に恐怖を煽る。動かなければ。だが、身体が動かない。何故か、全く微動だにせず。
「アレは知ってはならない。知るというただその行為が
背後から問いかける女の声は何処までも無機質で無感情で。あぁ、そうだコレは小さい頃の思い出に重なる。羽虫を捕まえると残虐に、残酷に羽を毟り、いたぶり、最後には殺した思い出。無邪気で、無関心で、空っぽの敵意だ。
「正解はね、口。でも正しい読み方を知らないでしょう?クチ?ハコ?いいえ、外れ。この四角の中にはちゃあんと入っているんですよ。私が、ユキノヨウニシロイ私が。何もない真っ白。コレが私、私を指す言葉」
「ほら、後ろを見て?」
「見えるでしょう?貴方を食もうとする大きな口が……」
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