補足資料:捜査資料 後半部分

 映像記録再生


<202XX年7月15日>


 映像は何処とも知れない一軒家の内部を映している。恐らく件の刑事が映っていると思われる。以後、映像で起きた状況を文字に書き起こす。


20:25 バタンという大きな音と共にイケダヤスト(以下、対象)が扉を乱雑に開け放ち一軒家の中に入る。手には何処かで買って来た木製の板の入った袋を持っている。息は大きく荒げており、顔は酷くやつれている


20:29 対象がキッチンの蛇口をひねり顔を洗い、そのまま水を飲み始める。相変わらず呼吸は荒いが、少しだけ落ち着いた様子を見せる


20:31 対象がベッドを動かして入口の扉を塞ぎ、次いで箪笥を動かし玄関の反対側に位置する窓を塞ぎ、最後にキッチン前面の小窓を木の板で塞いだ


20:47 部屋の隅で震える対象が震える手で携帯を操作している。どうやら誰かにメールを送信している様子だが、書きながら頭を掻きむしり、中断と再開を無意味に繰り返している


20:48 部屋が小さく揺れる。対象のメールを打つ手が止まり、周囲を見回す。音声からどうやら一軒家の周囲を何者かが叩いている模様。映像はコンコンという小さな音を捉えている


20:49 対象が部屋の中心に移動する。どうやら一軒家の周囲を叩く音は一方向からではない模様。少なくとも玄関側を除く3方向から音が発生しているが、その音にパチパチと手を叩く音が混ざり始める


20:52 対象が狂乱する。意味不明な叫び声を上げるに伴い一軒家の壁を叩く音が次第に大きくなる。微かに笑い声の様な何かも聞こえるが、詳細は不明


20:56 更に狂乱する対象が、持っていた携帯電話や床に落ちていた板切れの残りなどを手あたり次第放り投げ始める。その内の1つが木で塞がれた小窓を破る


20:56 監視カメラに付随したマイクが正体不明の音声を捉える。ケタケタという声はまるで笑い声の様に聞こえる


20:57 部屋の電灯が落ち、真っ暗となる。直後、闇の中に細く長い何か……恐らく人の手?が何本も映る。だが、映像にはイケダヤスト1人しか映っていなかった。何時の間に侵入、いやそもそもアレは人の手か?異常に長い手が不鮮明な映像を横切る度に対象の悲鳴に似た絶叫が響く


20:58 黒く蠢く何かが監視カメラを見つめ……口元を歪める。僅かに漏れる外の光に映った姿は、全身が真っ黒の人間の姿をした何か。ただ、顔には大きく裂けた口しかなくて、その口の中は真っ赤に染まっていた。直後、監視カメラの映像が途絶える

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