6-4 outlook 下書き [2]

「2つ、先方に確認のメールを作ってみたんだけど、どうかな?」


 帰社後、智章は急いで2つのメール文と添付資料を作り上げた。片方の送付先は担当者である谷口で、もう一方はいつもcc.に入っている谷口の上役だ。

 智章はさっそく円香のもとを訪ねて、このメール案をもとにこれからの動きを相談していた。


「えっと、いろいろ気になるところはあるんだけど、文面はいいと思う」

「気になること?」


 隣に座る円香を見ると、まさに鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。


「ええと、外出中に何かあった?」


 どうやら、本当に顔に出てしまいやすいようだ。彩人にすべてを吐き出したことで、ずいぶんとスッキリしている気持ちはあった。


「ちょっといろいろとね」


 そう言って智章は、笑って誤魔化した。訪問のついでに友人の家に行ってきたとは、なかなか正直に話しづらい。なにより、そこでのことは雑談で話せる内容ではなかった。


「分からないけど、おめでとう。悪くないことなんでしょう?」

「そうだね。少なくとも後退ではないと思う」

「うん、なら良かった」


 円香はそれ以上、詳しく訊いてくることはしなかった。円香に感じる居心地の良さは、きっとそういうところにあるのだろうと思った。

 話が一区切りついたのを見て、「それで」と智章は話を戻す。


「メールの方だけどさ、問題の原因を探りたくて」

「それは私も確かめたいけど、どうやって探るの?」


 競合に提案内容が漏れているのだとしたら、きっとどこかにパイプがある。可能性としては、担当の谷口か、谷口が報告をしている上長か。

 メールを2つ用意したのは、その両者に探りを入れるためでもある。


「一人ひとり違う提案を送って相手の出方を探る。それぞれの提案に穴も用意しておいたから、それに対して競合相手の動きを見ようかと思って」

「それ、さっきの訪問のあとに考えたの?」


 円香からの反応は、そんな少しズレた質問だった。


「えっと、まあ……」

「ごめん、変なこと訊いたね」


 円香はひとこと謝ったあと、すぐに真面目な顔に切り替えた。


「作戦、これでいいと思う。気をつけなきゃいけないポイントはいくつかあると思うけど、やれるだけやってみよう」


 こうして、競合とのつながりを探るための作戦は固まった。

 果たしてこれが上手くいくのか確証はないが、できることはやっておきたい。今は、そんな風に思うことができた。


「じゃあ、方々へのメールと電話は俺の方からしておくから。明日、また向こうの動きを確認しよう」

「ありがとう。手間をかけちゃうけどお願いね」


 そうして話を終えた後、計画通りの行動を取った。メールを2通送ってから、それぞれに電話をかける。谷口もその上司も、こちらの動きの違和感に気づいた様子はなかった。

 2人に送った異なる提案。そのどちらに競合が反応するかで、情報のもれた場所が分かる。


 そうして、やがて定時が近づいてきた時、ふとポケットのスマートフォンが震えるのに気づいた。社用の物ではなく、私物の方だ。

 確認すると、それは彩人から呼び出しのメッセージだった。

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