第28話 ズィオのエゴ
「例の、海外で里親斡旋の事業をやってる知り合いが送って来た。妹さんはシュビークの夫婦が引き取ってくれた。仲良くやってるよ」
ズィオの差し出した画面には、楽しそうに微笑むアリアナと、その肩にそっと手を置く年嵩の夫婦の姿があった。
「そこそこ裕福で、誠実なご夫婦だそうだ。身分もしっかりしてる。だから心配はいらねぇよ」
ズィオは労るような口調で少年に向かって言った。この男がここまで優しさを見せる姿を、ロンディーネは今まで一度も見たことがなかった。
「本当なら、お前のことも知り合いに頼みたかったんだが、その話を仕掛けたところで先に警察に投降しちまったからなぁ...」
そんなことを言いながらも、ズィオの声は尻すぼみに小さくなり、何故か気まずそうな表情で、少年と画面との間で視線を行き来させていた。
だがやがて、意を決したようにまっすぐ少年の方を向くと、真剣な声で言った。
「お前、うちの組織に入らねぇか。お前のことを鍛えてみたくなった。若いヤツを日陰の道に引っ張り込むのは良くねぇことだし、お前のご両親が何より憎んでいたことだ。それを承知で聞く、どうだ」
言葉は固いが、決して脅しつけるような威圧感はない。むしろ、謙虚さと相手に対する敬意すら感じられると言っていい。
少年がズィオにここまで気を遣わせる理由が、ロンディーネはいよいよわからなくなってきた。だが一方で、少年がどんな返事をズィオに返すのか、気になっている自分もいた。
「自分は逮捕されるつもりだった…」
ポツリと、少年がその口から言葉を洩らした。
「アリアナに非道い事をしようとしたあのクズ二人の事は許せない。でもその為に自分が取った行動は犯罪だ。クズな行いにクズな行いで返したままなのは良くない。けじめはつけたかった」
低いけれど、まだどこかあどけなさの残る声で、少年は訥々とそう言った。
「おじさんに鍛えて貰うのは、けじめになる?」
少年の灰色の瞳が、ズィオをまっすぐに見据えた。ロンディーネは少年の言葉の意味を計りかねたが、ズィオにはわかったようだ。
ズィオは考え込むように下を向き低く唸ると、少し苦い顔のまま少年に視線を戻した。
「残念ながら、お前やお前のご両親の考えるようなけじめにはならねぇな。あくまで俺のエゴだ。そして俺自身のけじめにもならねぇ」
そう言うと、ズィオはどこか開き直ったような、それでいて穏やかな笑みを浮かべながら言葉を繋いだ。
「俺はお前の家族を壊したカプランの一味として、けじめじゃねえが、責任を果たさなきゃならねぇと思っていた。妹さんのことはそう言う理由だ」
悪党失格だろ、そう言ってズィオは静かに笑った。
「本当なら、お前も妹さんと同じようにしてやるのが筋ってもんだが、何となく、手元に置いてみたくなったのさ。エゴだろ?」
自嘲気味にそう語ったズィオのことを、少年は相変わらず表情一つ変えずにズィオを見ていたが、不意に口を開いた。
「カプランの為にはなりたくない。でもおじさんの為にって言うなら、それならいい」
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