第3話 弟子たちのこと
「ところで、今日はまだ占ってもらって無いな」
ズィオは子羊の煮込みのとなりに置かれたピクルスをつまみながら、残りのワインを呷った。
「今日はお酒はこれで最後って約束してくれたら、占ってあげる」
意地悪な笑みを浮かべながら、ロンディーネは三杯目のワインをズィオのグラスに注いだ。
ズィオは不服そうに口を尖らせながら、ふと何かを思い出したように口を開いた。
「あんたの弟子の仮の名を考えてやるときも、占いで出した数字を名前にしたんだっけか?結局その名前のまんまだったよな」
昔を思い起こすような遠い目をしながら、ズィオは言った。
「一人前になった時に新しい名前を考えてやりゃ良かったのに」
「数字だって、思い入れがあれば立派な名前よ。幸運の数字なんだから」
ロンディーネは胸を張るような仕草を見せながらそう言った。
「あの子が一生背負っていく名前になる筈だったんだから。私に言わせれば、仮の名前何て言いながら適当なアルファベットを当ててる方が頂けないわね」
「モノになるかもわかんねぇ奴にわざわざ名前を考えてやるこたぁ無い。アルファベット一つで十分さ」
ズィオはロンディーネにそう言い返し、ワインを口に含んだ。浅黒い肌に少しずつ赤みが射してきた。
「ツェー(C)にトレンタ(30)、あいつらは結構いいバディだったよな」
懐かしげな目でワインの赤い揺らめきを覗き込みながら、ズィオは言った。
「あの二人に組ませたのは、仕事をさせる上では正解だったかもね。あんまり仲良さそうには見えなかったけど」
ロンディーネは苦笑いを浮かべて、ズィオの言葉にそう返した。
「ツェーか、あいつの事をそう呼ばなくなって随分経つな。久々に口に出したが、妙な感じだ」
やっぱりアルファベット一文字は良くねぇのかもな、そんな事を言いながら、ズィオは口に放り込んだピクルスの酸っぱさに顔をしかめた。
「そりゃそうでしょ」
ロンディーネは、呆れたように、けれどどこか楽しげに笑みを浮かべながら、そう言った。
それから何かを確認するように店の中を見回すと、ズィオの方に顔を近づけ、小声で囁いた。
「そろそろお客さんも少なくなるわ。ちょっと興味があるから、良かったら教えてくれない。アルバがツェーになる前のこと」
ロンディーネの言葉に、ズィオはどうしようかねとでも言いたげな、とぼけた目をしながら、昔の彼ならまず見せはしないであろう優しい笑顔で答えた。
「全部覚えてる訳じゃねえが、思い出す範囲でな」
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