第6話 Pure feeling(6)

「余計なことかもしれないけど。 あんたもそれなりの勤め人なんだろ? これ以上のことすると。 ヤバいんじゃないの?」



結城はわざと男の社章に視線を集中させて言った。



「えっ、」



慌ててそれに手をやった。



「・・見たとこ。 それなりの地位そうだし。 あんましつこいと『つきまとい』でケーサツもんだと思うよ、」



ニヤっと笑ってそう言うと



「・・・・」



男は気まずそうにそそくさとその場を去った。



あゆみはホッとして思わず結城の背中に手を置いた。




「なに? あの男。 客?」



彼が振りかえったので、慌ててその手を離した。



「あ・・前のキャバクラの常連さんです。 今の店、会員制のクラブなんで紹介がないとダメなんです。いつも待ち伏せされて、同伴するって言われて。」



「へー、」



「この前は店の前で待ち伏せしていたみたいで。 自宅前までついてこられてしまって。 だんだんエスカレートしていく気がして、なんだか怖くなって。」



「あぶねーなあ。 ホント、しつこかったら警察に言った方がいいよ、」



「今の店の先輩にも相談したんですけど。 こういう商売していると警察もなかなか真剣に取り合ってくれないって言われて。 あたしたちはお客さんとある程度距離を縮めないと、なかなか商売にならないし。 ほとんどはそれをわきまえて接して下さるお客様なんですけど、中には勘違いをしてすごくアプローチしてくる人もいて、」




あゆみはうつむいてため息をついた。



「ここんとこ。 いつも誰かにつけられている気がしちゃって。 怖くて・・」



結城はふうっと息をついて。



「そういうことこそ。 相談してくれたらいいのに。」



彼女を真正面から見た。




「え、」



「今日も。 それをおれに相談しようとしていたんじゃないの?」



どきんとした。



「別におれは柔道とか空手とかやってたわけじゃないし、きみを何かから守れるかって言ったらわかんないけど。 でも、何か解決策を見つけることはできるかもしれない。 けっこう何でもひとりで抱え込むよね、」




「・・・・・」



また



どきんとした。



両親が亡くなってから、金銭的なことや生活のことの悩みは全てひとりで解決してきた。



弟に心配だけはかけたくなくて。




水商売をはじめて、慣れずに辛いこともあったが



それも誰にも言えずにジッと堪えた。




なんだか彼の優しい言葉が



スカスカの心に



じんわりとしみこんでいく。



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