第4話 Pure feeling(4)

あゆみはイタリアンレストランの窓際の席でぼうっと肘をついて外を見ていた。



まだまだ寒いけれど、陽がさんさんと降り注いで。



道行く人達がみな楽しそうに見えるのは



やっぱり自分の心が他人よりも低い所にあるからなのかなあ



と、ついつい思ってしまう。




相変わらず銀座のクラブでホステスを週4日して



あとの2日はイベントコンパニオンの事務所に所属して、たまに仕事を貰う。



あと空いている日は近所のコンビニでもバイトをして。




借金を返済するのが大変なのは今までとあまり変わらないが



キャバクラ時代より気持ちに余裕ができた。



・・・・・



あゆみは再びため息をついた。



「ごめん。 時間、あるかな。」



結城がやってきたのは約束の時間よりも15分ほど遅れたころだった。



「ああ・・いえ。 忙しいのに、ごめんなさい。」



あゆみは笑顔を作った。



「今日はこれから店なんだろ?」



彼は食事のオーダーを素早くしたあとそう言った。



「あ、ハイ。 でも夕方からだし。 結城さんも忙しいって有吏が言ってたから。」



「忙しくてもね。 こういう時間は作らないとね、」



彼の笑顔が



胸にしみる。



あれから本当に二人は『友達』として連絡を取り合い



そしてたまにこうして一緒に食事を採ったりの関係が続いていた。




でも



本当にそれだけで。




長い水商売生活の中で、



下心なしで近づいてくる男は皆無だった。



水商売の女なんか、そんな対象でしか見られてないと思っていた。



有吏は彼のことを



『仕事ができてカッコイイ人』



としか言わないけど



この人から漂う気配は



『そういう人』



って感じがプンプンしていたから。



でも



不思議にこの笑顔だけは素直に心に入ってくる。




「なんか。 あったの?」



食事をしながら結城は言った。



「え・・」



あゆみはふっと顔を上げた。



「きみから。 ゴハン食べませんかなんて誘われるなんて初めてだし、」



まるで見透かしたように人の心を読んでくる



何だかすごく恥ずかしくなった。



「い・・いえ。 別に。 深い意味は、」



なんでもないフリをしてしまった。



「ま、意味なくてもいいか。 もっともっときみからこういうアプローチ欲しかったし、」



その言葉には



「はあ???」



思わず声を張ってしまった。


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