My sweet home~恋のカタチ。22--wistaria wind--
森野日菜
第1話 Pure feeling(1)
結城は出先から社に戻る途中に、ついでに昼食を済ませた。
携帯のメールチェックをしながら歩いていると、テイクアウトの寿司屋の前で夏希がジーっと佇んでいる。
特に注文をするわけでもなく、財布を握り締めてただ立っているだけだったので
「なにやってんの?」
結城は怪訝な顔で彼女を覗き込んだ。
「えっ! あ! 結城さん・・」
夏希はいきなり声を掛けられてびっくりしていた。
「買わないの? もう昼休み終わっちゃうよ、」
「あ~~~~、どーしよっかな~~~。 やっぱやめよう・・」
夏希はため息をついて、回れ右をしてそこを立ち去ろうとした。
「昼飯、抜くの?」
「や。 コンビニのおにぎりにします・・」
「さっき何か買いたかったんじゃないの?」
「『イカ納豆温玉のせ丼』を・・」
「は?」
「『イカ納豆温玉のせ丼』です。」
夏希はくるっと結城に振り返った。
「でも。 もうコレ10日間連続で食べてるんですよお、」
「ハア? 10日も????」
そこに驚いた。
「なんかハマっちゃって! 毎日食べたいんです! でも・・5日目くらいからちょっと恥ずかしくなってきて。それ、いつも置いてなくて。 注文して作ってもらうんですけど。 そこのおばちゃんが『またか!』みたいな顔して笑うから・・・」
深刻そうな顔して。
そんなこと考えてたのか・・
そう思ったらおかしくなって、ぷっと吹き出してしまった。
「なんか最近。 コレおいしいって思ったら、そればっか食べてんですよ・・。 その前は『ラー油入りおにぎり』だったし・・・」
「加瀬さんはいつも食べ物のことを考えてるんだね。 この前も真緒さんと昼休み中ずーっとバームクーヘンの話してたでしょ、」
「ああ! そうそう! バームクーヘンのラスク! 前に真緒さんがおみやげで買って来てくれて! それが美味しくて、やっぱり3日連続でデパートまで買いに行っちゃった話をしてて・・」
思い出すだけでよだれがたれそうだった。
「・・きみは。 幸せだねえ。」
結城はアハハと笑って夏希を追い越して足早に通り過ぎていった。
入社して8ヶ月。
さすがに仕事にも事業部にも慣れてきた。
南があまり事業部にいられなくなったので、今はもう彼女の代わりに一人で営業にも行っている。
いろいろあってオケの方はいまだ『出入り禁止』状態だが、八神が留守の今、それ以外のことはほとんど彼がこなしていると言ってよかった。
逆に夏希に指示をしたりすることもあって
どっちが『先輩』なのかもわからない状態になっていた。
「・・で。 何やってんの・・?」
残業中、夏希がデスクでひとり山盛りのキーホルダーとビニール袋と格闘していた。
もうだれも事業部からはいなくなっていて、外出から戻った結城はその異様な光景に思わず覗き込んでしまった。
「ファンクラブの人たちに送るキーホルダーなんですけど。 あたしの指示ミスで袋に入ってこなかったんですよお。 だから責任とって内職です、」
夏希はトホホな顔をしてため息をついた。
「しょうがねえなあ。 デザインだけじゃなくて仕様も最後にチェックしろってこの前斯波さんに怒られてたじゃん・・」
「当然。 また怒られて。 明日までに徹夜でやれ!って。 アタマから湯気が出ちゃってましたよ、」
そんな彼女にまた笑いがこみ上げてきてしまった。
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