第21話 脱出


 モンスターハウスを脱出した俺たちは、ダンジョンの出口を目指す。

 ダンジョンを最短で出るには、真上に上っていけばいい。

 だけど、うまく上までつながっている穴がないな。

 壁を上ればすぐに上にいけるんだけど、ここだと少し上りにくい。

 どこか登れる壁があればいいんだけど。


 上れそうな壁を探してしばらく歩いていると、前から人が現れた。

 このダンジョンはイレギュラーが出て、通報もいっているはずだ。

 だからすでに閉鎖されていて、中には誰も入れないはず。

 もし中に入れるとすれば、それは俺たちを救助に来たダンジョン救助隊だけだろう。


「よかった。救助対象を発見。ふたりとも無事なようだな」

「あなたは……?」

「ダンジョン救助隊のものだ」


 よかった、どうやら救助に来てくれたみたいだ。

 しかし、深層に一人で入ってくるとは、こいつはかなりの手練れのようだな。


【うおおおおお! 救助来た!】

【まあでも救助いらんかったな】

【おせえよ】

【もう杉田が助けたから意味ないぞ】

【てかこいつ、剛堂じゃね!?】

【ほんとだ、剛堂ごうどうつよしだ】

【誰それ】

【Sランクの探索者だよ! めちゃくちゃ強いやつ】

【有名人だぞ】

【まさか剛堂が助けにくるとはな】


 コメントによると、この男はどうやら有名人らしい。


「それにしても、まさか深層にいるとはな。通報によると、中層でイレギュラーと遭遇したとあったが……? 通報を受けて中層まで行ってみると、滑落したあとがあったから降りてきたが……。深層にいてよく無事だったな」

「こちらの杉田さんが助けてくれたんです」

「ふん、この男がか……? とても深層でやりあえるようには見えないがな」


 剛堂は俺の全身を見渡した。


【もしかして剛堂、杉田のこと知らないのか?】

【いまどき杉田のこと知らないやついるのか?】

【まあ、まだ杉田は配信始めたばかりだから。一部のしか知らないぞ】

【そういえば、剛堂は配信とか見ないらしい】


 どうやら剛堂は俺のことを知らないらしいな。


「中層で巨大化したゴーレムの襲撃を受けたんです。それで、二人とも深層のモンスターハウスに落とされて……」


 俺は、ことのあらましを剛堂に説明した。

 すると、なにがおかしいのか、剛堂は大笑いしだした。


「あっはっはっはっは!」

「なんですか?」

「君ねぇ、もう少しましな嘘をついたらどうなんだ?」

「はい……?」

「私はさっき中層を通ってきたけど、そんなゴーレムはいなかったぞ? それに、そもそも深層のモンスターハウスなんかに入ったら、人は生きてはでられない。私でさえもそうだ。そんなことができる人間がいるはずないだろう。そもそも、中層から滑落したのになんで生きているんだ?」


【そらそうだwwww】

【剛堂信じてなくて草】

【まあそうなるわな……】

【剛堂勘違いしてるな……】

【これはめんどうなことになりそうな予感】


「いや、本当なんですって」

「嘘をつくのはやめたまえ。まあ、どうせこういうことだろう。もしかして君は、そちらのお嬢さんを騙しているのではないか? わざと深層までやってきて、その女性を殺そうとしたとか? そうに違いない! なにを隠しているんだ!」

「えぇ……!? なんでそうなる! ちがうんですって!」

「ええい! 本当のことを話せ。この嘘つきめ!」

「全部本当なんですって!」


【あらら……www】

【剛堂の正義感が空回りしてるwww】

【なんでそうなるんだwwww】

【いいがかりで草】

【剛堂嫌なやつだな】


「ならばその力、試させてもらうぞ。もし君が本当にモンスターハウスから出てこられるほどの強者なら、この私に勝てるはずだ。もしそうじゃないなら、このままここで逮捕する!」

「えぇ……そんな!」

「す、杉田さんはなにも悪くありません!」

「お嬢さん、君は黙っていてくれ」

 

【おおおお決闘だ!】

【剛堂うぜえ】

【やっちゃえ!】

【杉田の力みせつけてやれ!】


 困ったな……。

 だけど、信じてもらえないなら仕方がない。

 向かってくるというのなら、やるしかないな。


「いいでしょう……ただし、俺が勝ったばあいは信じてくださいよ? あと、俺は人と戦うのは初めてなので、手加減はできませんから」

「よかろう。どこからでもこい」

「よし……」


 次の瞬間だった。

 俺が踏み込んだと同時――。

 ――剛堂は、宙を舞っていた。


「は…………?」

「あれ…………?」


 そのまま剛堂は地面に激突して、気絶した。


「よ、よっわあ…………。思ったより弱かったな……。ちょっとやりすぎてしまったみたいだ……」


【うおおおおお杉田つえええええ】

【あの剛堂に勝ったぞ!】

【しかも瞬殺!】

【ざまぁwwww】

【弱くて草】

【情けねえwww】

【剛堂あのイキリからのこれはダサいwww】


「あの……剛堂さん? 大丈夫ですか……?」


 だめだ、完全に気絶している。

 まあいいや。

 とにかくこれで疑いは晴れただろう。

 さっさとここから脱出しよう。

 俺は倒れた剛堂を抱えて、ダンジョン内を歩く。

 ちょうど、登れそうな垂直の壁をみつける。


「みるるん、壁は歩けますか?」

「え、いや……歩けるわけないじゃないですか」


【そりゃそうだwww】

【あたりまえだろ】

【なにいってだこいつ】

【みるるんも引いてるよ】


「じゃあ、俺につかまって」

「は、はい……」


 俺はみるるんをおんぶする形になって、持ち上げる。

 後ろにみるるんを背負い、前には剛堂を抱えている。

 

 そして、足に魔力を込める。

 魔力を帯びた足で、地面を捕まえる。

 あとは壁を垂直に上っていけばいいだけだ。


「よいしょと……」

「きゃ……。ほんとに壁歩けるんですか!?」


【なにやってんのwwww】

【ありえねえええwww】

【まじでどういうことwww】

【なんで壁歩けるんだよ】

【ニンジャかよ】


 そして俺は壁を垂直に歩き、なんとか上層まで戻ってくる。

 こっからはあとは普通に歩いて出口に向かうだけだ。

 



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