第19話 アビス
オーガを倒した俺は、今だ恐怖に体を震わせているみるるんに話しかける。
「えーっと、みるるんさん」
「みるるんでいいですよ」
「じゃあ、みるるん。どうやらこのダンジョンは少し様子がおかしいようです。オーガがこんなところに出るんなんておかしい。他にもイレギュラーが出るかもしれない。今のうちにいったん外に出ましょう。あとはダンジョン調査隊を呼んで、彼らに任せるとしましょう」
「そうですね……」
俺はみるるんの手を引いて、ダンジョンを引き返そうとした。
そのときだった。
急に地面が大きく揺れる。
――ゴゴゴゴゴゴゴ。
「きゃ……!」
「な、なんだ……!? 地震か……!?」
急な揺れに、みるるんは思わず俺の腕にしがみついてくる。
みるるんの豊満なバストが腕に当たっていて、俺も冷静ではいられなくなる。
【なにごと……!?】
【地震……!?】
【杉田動揺してて草】
【あててんのよ】
【お前ら笑い事じゃないぞ】
【ダンジョン内の地震はやばいからな】
【最悪命にかかわる】
【まあ杉田なら大丈夫でしょ】
そして、その直後、地面が大きく動く。
地面が傾いて、身体が90度ひっくり返りそうになる。
どういうことなんだ……!?
どうやらただの地震ではなさそうだ。
――ゴゴゴゴゴゴゴ。
地面が完全に90度に傾き、俺たちは空中に放り出される。
そしてそのまま、ダンジョンの大穴に真っ逆さまだ。
「きゃああああああ!」
「みるるん! 俺から離れるな!」
俺はみるるんの手をぎゅっと握った。
【うおおおおなにごとなんだ……!?】
俺たちはそのまま、ダンジョンの大穴に落ちていく。
くそ……このまま深層まで真っ逆さまだ。
ふと上を見上げると、そこにはなんと通常の50倍ほどは大きなゴーレムが存在した。
そういうことか……!
さっきまで俺たちが足場だと思っていたのは、巨大ゴーレムの身体だったというわけだ。
そしてゴーレムが立ち上がったせいで、俺たちは振り落とされた。
それにしても、あのゴーレムなんという大きさだ。
普通、あんな大きさのゴーレムはありえない。
さっきのイレギュラーといい、ゴーレムといい、このダンジョンはなにかおかしいな。
もしかして、魔力のバランスが狂っているのかもしれない。
ダンジョンの中の魔力は、通常深層が一番濃くて、上層が一番薄い。
だが稀に、その魔力が逆流したりすることもあるそうだ。
このダンジョンは危険すぎる。
今すぐにでも逃げないと……。
しかし、俺たちはなすすべなく垂直な大穴に落下していく。
【うおおおおおおお落ちるううううう!!!!】
【死ぬうううううう】
【大丈夫か……!?】
【なんだあのゴーレム……!?】
なんとか下層で踏みとどまりたかったが、足場がない。
俺たちは深層までなすすべなく落とされてしまった。
ようやく地面が見えてきたので、俺は風魔法を足場にして着地する。
「よっと……」
「きゃああああ……! って、生きてる……!?」
【うおおおおおおおおおおお!】
【すげえさすが杉田】
【そういえば杉田は落下死しないんだったな】
【前も飛び降りてたしな】
「風魔法を使って着地しました」
「すごい……そんなことができるんですね……」
気がつけば、俺はみるるんをお姫様抱っこする形で、抱きかかえていた。
安全に着地するためだったとはいえ、これは少し恥ずかしい。
俺はそっと地面に彼女を降ろした。
「ご、ごめんなさい……ありがとうございます」
「い、いえ。みるるんが無事でよかったです」
【これは完全にメスの顔】
【落ちたな……(ダブルミーニング)】
【お姫様と王子様じゃねえか】
【これはラノベ主人公だわ】
【ヒロインゲット!】
なにやらコメント欄が騒がしい。
おっと、今はそれどころじゃないな。
状況を確認しないと。
ここは深層だ。
なにが起こってもおかしくない。
そして、いつ命を奪われてもおかしくないのだ。
「これは……まいったな……」
「え…………?」
暗闇に慣れて、視界が戻ってくると、今置かれている状況に気が付いた。
なんと、俺たちは無数のモンスターに囲まれていたのである。
周囲を100体ほどのモンスターに囲まれている。
モンスターたちは今にもこちらに襲いかかってこようと、威嚇をしている。
俺たちは、モンスターのなわばりに入り込んでしまったようだ。
「モンスターハウスか……」
【うわあああああああああ!!!!】
【やべええええええええええええ】
【モンスターハウスはやばいぞ】
【ただでさえモンスターハウスはやばいのに、深層のモンスターハウスとか死んだな】
【深層のモンスターハウスとか見たことねえ】
【これは杉田でも死ぬ、逃げろ】
【囲まれてるううううう!!!!】
【逃げるんだよおおおおおお】
【まずいまずいまずい】
【放送事故だろ】
コメントがめちゃくちゃ早いな……。
たしかにこれはピンチだ……。
だけど、これはチャンスでもある。
「よし、そうだ。今までモンスターハウスの攻略講座はやってませんでしたね。ちょうどいいので、これからモンスターハウスに入ってしまったときの対策を解説します」
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