第16話 犬神先輩

早く退院したいけど…村井院長がどうしても退院させてくれない。


今日と、明日、2日間はこのままか。


本当にドジを踏んだ。


俺が居ないと、陽子が萌子と二人きりで居る事が多くなる。


萌子は陽子に何かする機会は少ない筈だ。


だけど、それでも殺人者と幼馴染が一緒に居るのは何かと心配だ。


そんな心配をしていると今日は、陽子と一緒に萌子が俺のお見舞いに来た。


「元気そうだね!」


「頭を少し縫っただけだからな、退屈で困っているよ!」


「元気そうじゃん! うんうん、その美形な顔、特に目に傷が出来なくて良かったよ!」


そう言いながら萌子は何時もの様に俺の目を覗き込んできた。


今日はお見舞いに来るせいかウエーブロングのコンタクト。


美少女バージョンだ。


僅か数センチ先に美少女の唇がある。


思春期の男の子には何とも魅力的な状態だ。


しかも息が直接口に掛かってくる…


これ後ろから見たらキスしている様に見えるよな。


「萌子ちゃんはもう、司から離れて…」


「ええっ、良いじゃない? 司の目って凄く神秘的で綺麗なんだから、もうちょっと見させてよ」


「だけど、その距離は駄目!」


「キスしているみたいだから? そうだいつも目を覗かせて貰っているからキスしたいならしても良いよ? うん…どう?」


これは萌子の冗談。


多分、本当にしたらビンタ&蹴りが飛んできて罵倒される。


「もし…本当にしたら…ビンタするつもりだろう?」


「あはははっ当たり! だけどビンタ一発で私とキス出来るならお得じゃないかな? 意気地なし」


そう言って笑いだした。


「意気地が無いと言うより、俺を好きでも無い奴と幾ら美少女でもキスはな…まぁあんまり揶揄ないでくれ」


「あれれっ!司はそんなイケメンなのにキスの経験も無いのかな」


「萌子、いい加減にしなよ、司が困っているじゃない!」


「陽子は幼馴染だけど、司とキスした事無いの?」


「それは…」


「あるよな? 多分20回じゃきかない位はある」


「司ぁぁぁ余計な事言わないで良いわ!」


「あれっ…そうなんだ」


なんで萌子が悲しそうな顔をするんだ…解らない。


「ああっ陽子の奴幼稚園の時はキス魔で、やたらとキスしてきたんだ『ねぇ、チューしよう』ってねまぁ良い思い出だよ」


「それ黒歴史なんだからやめてーーっ」


「なんだ、幼稚園の時か…へぇ~随分ませていたんだね」


「幼馴染って凄いぞ、更にもっとガキの時にはビニールプールやお風呂にスッポンポンで二人して入れられていたんだから、ある意味今の時点で陽子の裸を一番多く見ている男は多分…ぶはっ」


いきなり殴られた。


「陽子、お前、俺怪我人だぞ!」


「デリカシーの無い司が悪いんじゃない!」


「うん、今のは流石に司が悪い」


どう考えても萌子が高部先輩の死に関わっているとは思えない。


人を殺すにしても自殺に追いやるにしても、その後で普通で居られるとは俺には思わない。


しかも、萌子の場合は俺の目を見て話す。


誰かを殺した、もしくは自殺に追い込んだ後にこんな笑顔で居られるだろうか?


もし、そんな人間が居たら…普通じゃない。


「それじゃ、私達行くね」


「それじゃぁね司、寂しくなったら何時でも呼んでね」


「萌子、あんたねーー」


「あはははっじゃあね」


2人はじゃれ合いながら帰っていった。


◆◆◆


しかし、一人になると寂しいな。


これなら誰でも良いから、入院して来ないかな。


「入って良いかい?」


なんで、此奴が来るんだ。


「あっ別に構いません…犬神先輩」


「僕の事を知っているのかい?」


「そりゃ、生徒会ですから。ですが生徒会書記の先輩が一体俺になんのようですか?」


「君が襲われたって聞いてね!生徒会を代表してお見舞いに来たんだよ」


やはり可笑しい。


生徒会代表してというのなら会長か副会長が来るだろう。


果たして書記の犬神先輩がくるだろうか?


それもたった1人で。


「ありがとうございます! ですが、先輩と俺は名前位は知っていますが、付き合いは殆ど無いですよね?どうかしたんですか?」


「はははっ、それが生徒会の辛い所なんだよ! 教師がお見舞いに行って来いって言うから来たんだ、これお見舞いのバナナ…思ったより元気そうだね」


「はい、打ち所が良かったみたいで…」


やはり声が少し似ている気がする。


それにどう考えても可笑しい。


『教師がお見舞いに来ない状態』でなんで生徒会が来るんだ。


少なくとも俺も、俺の知り合いも生徒会がお見舞いに来たことはない。


「そう、それは良かったね…それで犯人の心当たりはあるのかな?」


この辺りで少しブラフを言っておいた方が良いだろう。


「いえ、無いですね…頭を殴られた後『次は…殺す』って言われた位ですね…あと何故か赤ん坊の声が何処からか聞こえてきた気がします」


「赤ん坊の声だって…」


何故だ、動揺したような気がする。


「はい、幻覚かも知れないけど、腐った臭いがしてきて何処から兎も角赤ん坊が泣く声が聞こえてきたんです…そして目の前を黒い影がよぎったら誰かに殴られて…これです」


顔色が更に変わった。


「赤ん坊の声だって? 腐った臭い…冗談だよな…」


「多分、幻覚かも知れませんが、確かに見たんですよ…」


「揶揄っているのか!」


「揶揄って居ません! だから幻覚だって言っているでしょう? 頭を強く打ったから…だけど、不思議な事に高部先輩妊娠していたみたいですよ!」


ヤバいなつい口を滑らしてしまった。


「君は何を言っているんだ…冗談だろう…」


「いえ、俺、念の為にとか言われてDNA検査をしましたから」


「DNA検査…麻美子…」


「どうしたんですか犬神先輩…」


「そうか…そうか…」


「犬神先輩? どうしたんですか?」


「ああっ、何でもない…それじゃ僕は失礼するよ」


真っ青な顔をしながら犬神先輩は去っていった。







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