第12話 元弥生第3公衆便所の不可解


元弥生第3公衆便所。


これが、あの公衆便所の正式名称だった。


放課後、俺は陽子を家に送り届け、花屋に寄ってからこの場所へ来た。


相変わらず黄色と黒のテープで立ち入り禁止にはなっていたが、警察官はもう居なかった。


その代り、花束や缶ジュースが置かれており、高部先輩が如何に生徒に慕われているかが良く解った。


俺も習って花束を置いた。


俺の場合は、能力がある。


神の使いのお稲荷様や閻魔様がいるのだから、きっと死後の世界もあるに決まっている。


だからこそ、こう言う供養に関する事は率先して行いたいと思っている。


俺は目を瞑り、誰が高部先輩を殺したのか考えた。


俺の脳裏に2人の名前が浮かんだ。


『犬神翼』『湯浅萌子』の2人の名前だ。


本当にこの二人が、高部先輩の死に関わっているのか?


思わず疑いたくなった。


犬神翼は生徒会の書記をしている2年生だ。


品行方正で優しい性格。


上からも下からも愛される人だと聞いた事がある。


湯浅萌子は言うまでも無い。


同級生にして陽子の次に親しい存在と言っても過言ではない。


もし、俺が探偵や刑事だとしたらこの二人を容疑者と考える事はしないだろう。


しかし困った事になった。


犬神翼は兎も角、湯浅萌子は友達だ。


今後関わらないという選択は取れない。


あの優しい笑顔の裏に別の顔があるのだろうか?


美津子の時の事もある。


しっかりと考えるべきだ。


余りにも身近な存在過ぎて関わらないという選択がとれない。


俺は強引に関わらない選択が出来ても陽子は違う。


陽子も萌子と友達だし、証拠も無しに『高部先輩の死に関わっているから』なんて言えないし、信じて貰えないだろう。


今回は前のようにはいかない。


今回は、『死』に繋がる話だ。


最悪、犯人は『殺人者』の可能性すらあるし、疑っていると解れば、俺を殺しに来る可能性もある。


迂闊な行動をする訳にはいかない。


このまま放置…湯浅萌子の名前が出た以上そう言う訳にはいかないな。


前の時の陽子の様に偶々加害者になってしまった可能性だってある。


こうなった以上もう関わらない選択は無いな。


◆◆◆


頭を整理しよう。


まずは可笑しな点だ。


高部先輩は現役アイドルだ。


周りから見た感じでは自殺なんてしないように思える。


それに、もし自殺するにしてもこんな寂しい公衆便所なんて選ぶだろうか?


アイドルが死ぬ場所に選ぶには寂しすぎる気がする。


今は中は見れない公衆便所だが、俺の記憶が定かならあの場所は首吊りには適さない気がする。


一体どこにロープを掛けたのだろう? 


普通に考えてロープを引っかける場所が思いつかない。


間違いじゃ無ければ、ロープを引っかける場所に苦労しそうだ。


どう考えても可笑しい。


自殺するにしても、殺されたにしても態々こんな首吊りに不便な場所を選ぶだろうか?


俺なら選ばない。


もし、自殺するにも殺すにしてもすぐ傍には東大がある。


この大学は敷地が広く、小学校の時には秘密基地ごっこをした位だ。


室内で死にたいなら、旧校舎や古い使ってない建物等、この便所よりは良い場所がある。


外で良いなら、まるで森みたいに木々が生い茂った場所が無数にあるから、そこを選べば良い。


態々人通りが少ないとはいえ、人が来る可能性がある公衆便所を選ぶ必要は無い。


まずは『場所』が可笑しい。


それに『何故死ぬのか?』


少なくとも仕事は順調で本当に成功者みたいな存在。


見えない物はあるのかも知れないが、傍から見た感じは幸せそうにしか見えない。


そして、殺したのか自殺に追い込んだ二人だ。


『犬神翼』『湯浅萌子』どちらも、こんな事に関わるような人物に思えない。


何もかもが解らない。


俺は、特殊な能力はあるが、他は只の高校生だ。


どこぞの漫画の探偵みたいに警察の力や情報を得られる訳じゃない。


それに子供の頃に多少探偵小説を読んだことがある程度で『名探偵』ではない。


それでも、俺の周りで問題が起きた以上は放って置く事は出来ない。


友達が関わっている以上、何もしないと言う事はしたく無い。



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