第6話 美津子
陽子の家に行ってみた。
いつもは気軽に押すインターフォンがなかなか押しづらい。
陽子の泣きそうな顔を見るのはどの位ぶりだろうか?
さてと…勇気を出して押そうと思ったが、中から怒鳴り声が聞こえてきた。
梅川先生の声だ。
梅川先生は普段は静かだが、怒ると女性特有の金切り声で怒鳴る。
車庫の車の横に座り、内容を聞いてみた。
「だから、私は悪くないです!」
「相手が大怪我しているんですよ?下手したら一生残る傷が顔に残るんです! 反省はしないんですか?」
「だけど、私は本当に…」
「ですが、娘が…」
「まぁ、良いです…これからどうするか? 先方と話し合って下さい」
「あの…」
断片的にしか聞き取れない。
今の状態じゃ、詳しい話は聞けないな。
俺は陽子に話を聞くのを後にして、先に美津子の方に話を聞きに行く事にした。
美津子の家は俺の家から歩いて10分位。
酒屋さんをしているから、話しがしやすい。
『お見舞い』に来た。
その名目で問題ないだろう。
近くの兔屋でアイスを2つ買って持って行くだけでどうにかなるな。
◆◆◆
「おばさん、美津子のお見舞いに来たよ」
「あら、司ちゃん、美津子なら2階にいるからねノックして入って良いから」
「ありがとう」
お礼を言ってそのまま、店の奥から2階に上がっていった。
トントントン
ドアをノックした。
「開いているよ? って司…ちょっと待って」
赤い顔しながら、何やらジタバタしていた。
「大丈夫か? これお見舞いのアイス」
「その、ありがとう!だけど司が私のお見舞いに来るなんて珍しいね…どうしたの?」
真実が知りたいから…
とは言えないな。
「いや、怪我したって聞いたからお見舞いに来たんだ、大丈夫か?結構な怪我したって聞いたけど?」
「うん、ありがとう、階段で打ちつけたから額をぱっくりやっちゃったんだけど、縫って貰ったしお医者さんが傷は残らないって言っていたから大丈夫だよ!」
「まぁ、山里整形外科のあの先生は口は悪いけど、手術は上手いらしいから、安心だね」
「うん、その代り局所麻酔で泣きそうになったら怒鳴られたよ」
「あははっ、いつもの通りだ」
「それでね、お見舞いに来てくれてありがとうな! 司が来てくれて嬉しいよ…うん」
なんで赤くなってモジモジしているんだ。
「そう?」
「うん…私は、その目好き派だから…ね」
「そうか?」
俺のこの金色の目は好きな奴と嫌いな奴に別れる。
美津子は好き派だったのか?
「うん、本当にカッコ良いよ」
「ありがとうな」
「それで、司は、その陽子の事が聞きたいんじゃないの?」
「まぁな、幼馴染だし」
「うらやま…じゃない、あれは私が悪いんだよ! まぁ大きな怪我を私がしたから大事になったけど…元は大した事無いんだ」
美津子の話だと、何時ものようにじゃれあっていたそうだ。
ただ、今回は運が悪い事に場所が階段の傍で…
何時ものように美津子がバシバシ陽子の背中を叩いていたら
『何するのよ!』と陽子が避ける為に押したら、運悪く階段から美津子が落ちた。
う~ん…確かにこれなら美津子が悪い。
「美津子のバシバシは半端じゃない位に痛いからな」
「そんなに痛いのか? あれは私のスキンシップなんだけど?」
「真面目に痛い」
マジで無自覚だから仕方ないが背中が真っ赤になって手形が紅葉みたいにつく位だ。
いつも陽子は止めてって言っていたからな。
「それじゃ、今度から止めるよ」
「そうした方が良いよ…」
「あのね…私が怪我しちゃったから、お母さんもお父さんも怒っているけど、私は自分も悪いと思っているんだ!だから陽子に謝っていたって伝えて貰えるかな?」
まぁ、怪我については子供の俺が関わる事じゃ無いよな。
多分、治療費とかの話もあるかも知れないしな。
「解った、伝えておくよ」
なんだ、こう言う事か?
もう解決しちゃったじゃないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます