流されるしかない風船
仲仁へび(旧:離久)
第1話
一瞬の油断で、おいらの体がふわりと浮かんだ。
あーあ、手を放しちゃだめっていったのに。
「あっ、ぼくのふうせん!」
持ち主が手を離したとき、おいらの体はふわり。
狙ったかのように風がびゅおっと吹いたから、おいらは持ち主から一気に離れていってしまう。
持ち主の男の子が慌てて追いかけるけれど、おいらはもう空の中。
こうなったら、もう戻れないな。
おいらは風船。
伸び縮みする素材に空気を入れて、ばーんとふくらむまぁるい体が特徴なんだ。
空気が逃げないようにひもでしばれば、それだけで簡単につくれるよ。
だから、お祭りの時とかには、たくさんのおいら達が作られてる。
材料が安いし、作るが簡単だからはすぐできちゃうのがいいのかもね。
おいらは、どこでもひっぱりだこの、人気ものなのさ。
でも注意が必要だ。
おいら達は軽いからね。
風がちょっと吹いただけでもあっという間にさらわれちゃう。
だから持ち主になった人達は、おいら達が飛ばされないように、しっかりと握ってなくちゃいけないんだ。
そうしないと、二度と戻ってこないかもしれないからね。
びゅう、びゅう。
すごい勢いで風が吹いてる。
おいらは、どこまでもどこまでも、とばされる。
持ち主の姿はもう見えなくなっちゃったや。
しょうがない。
これも運命だ。
そう思ったおいらはのんびり、空の旅を満喫。
持ち主との触れ合いは短い間だったけど、これはこれで悪くないさ。
おいらは風船として生まれてきた、風船として必要とされたんだから。
生み出されても、持ち主の手に渡る前にとばされちゃうものも、わずかにあるからね。
おいらは風船としての仕事をやりおえる事ができたのさ。
それに。
「ぴい! ぴい!」
巣立ったばかりの、飛びつかれた小さな鳥さんが、おいらの上に落ちてきた。
つい先日までヒナだった子だね。
不安そうにしてるや。
空に飛ばされてると、こういう事もたまにはあるから。
「ぴい?」
おいらがいて良かったね。
鳥さん。
元気になるまでおいらの体の上で休んでいるといいよ。
「ぴい!」
ほら、案外こんな人生ーーじゃなくて風船生も悪くは見えないよね?
流されるしかない風船 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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