第8話
1時間後、そこにはぐったりと地面に伏しているしゅんこちゃんと、画面に向かってピースをしている俺がいた。
なぜこんなことになったか説明しよう。
しゅんこちゃんが言っていた勝負の内容は、お互いの力を見せつけあい、相手の強さを認めたら負けというものだった。
全部で3種目で、1つ目の種目は腕相撲。
完勝した。まぁ俺が幼女に負ける訳ないからな。これは当然と言える。その時なぜかしゅんこちゃんは驚いて「なぜじゃ、こんなはずは……」と言っていたがどうしたんだろう。
二つ目の種目は圧勝負。
相手に殺気を放ち怯えた方の負けというルールだった。完勝した。
しゅんこちゃんから始まったのだが正直全然恐ろしくなんてなかったし、ただ幼女が睨んでるだけの可愛らしい光景だった。
俺のターンでしゅんこちゃんが涙目になって震えてたんだがまぁ……仕方ないよな、うん。
探索者の殺気に幼女が耐えられる訳ないからな普通。
三つ目の種目は破壊力勝負。ダンジョンにある山目掛けて攻撃を放ち、より多く壊せた方の勝ち。
どうやらこの勝負が本番で1と2は前座だったらしい。この勝負に勝てば勝ちが決まるようなので、全力で行かせてもらった。
ちなみに壊した山は復活するらしい。まあ流石に前の人が全部壊して次の人が壊せなくて負けるのは理不尽だもんな。
結果、しゅんこちゃんが火の魔法を使って山10個を破壊させたのに対し、俺は全力の手刀による薙ぎで山を全て破壊した。
それに留まらず空間に亀裂が入ったのはビビった。なんだったんだろあれ。
まぁ結果は俺の勝ちだったんだがな。
それでしゅんこちゃんは地面に伏してシクシクと泣いている。よほど自信があったんだろう。なんか悪いことをした気分だ。
「うぅ……儂の負けじゃ……もう煮るなり焼くなり好きにせい」
:え、今なんでもって
:幼女を好きに……グヘヘヘヘ
:おまわりさーん
:やべえやつが湧いてるぜ
:待てお前ら、俺達にしゅんこちゃんをどうこうする権利はない、だがその代わりにようこちゃんがしゅんこちゃんにあんなことやこんなことをする様子を見る権利がある!
:真の紳士は百合見てを鑑賞するのだ、その間に挟まるなどあってはならない
:まずい百合豚も湧いてきやがった!
:百合豚は出荷よー
:(´・ω・`)そんなー
なぜか覚悟を決めているしゅんこちゃんに向き合い、俺は正面から彼女を見つめた。
そして安心させるように、ゆっくりと彼女の頭を撫でる。目を白黒させている彼女に一言。
「私はあなたに何もしません。ですので、そんなに泣きそうな顔をしないでください」
しゅんこちゃんの俺を見る目は、まるで殺されるのを待つ死刑囚のようだった。幼い子が、していい顔じゃない。
そもそも、俺にこの子を殺す意志なんてない。
「……情けはいらぬぞ」
「情けじゃありません。私はあなたを殺したくないんです」
「じゃが、弱者は強者に従うのが自然の摂理。それこそが誇りじゃ。そなたが儂を見逃したとしても、儂は見逃された自分が許せない。妖狐の中でも落ちこぼれで、里を追い出された儂じゃが、妖狐の誇りを失ってはおらん! そなたが何もしないと言うのなら、儂はこの場で自害する!!」
「……そうですか。ならば、勝った私があなたに命じます。あなたはこれから、私の妹です」
「……は?」
「いいですね?」
「は?」
:まさかの展開きたーーー!!!
:姉妹だと!?
:しゅんこちゃん呆気に取られてて草
:姉妹百合とはいいものだ
:百合は、百合はいい
:百合豚生還しやがった
:出荷よー
:(´・ω・`)そんなー
「これからは私の事はお姉ちゃんと言うように」
「くっ……弱者は強者に従うのが義務。承知したぞ主よ」
「お姉ちゃん」
「あ、姉上」
「よし」
こうして俺は妹を手に入れたのだった。なんか里を追い出されたとか言ってたし、身寄りもないのだろう。だから俺が姉になる事でしゅんこちゃんを保護するのだ。
決して誘拐とか事案じゃないよ?
「姉上。儂を倒し、真の意味でダンジョンをクリアしたそなたに、儂から報酬があるのじゃが、受け取ってくれるか?」
「しゅんこちゃんからの初めての贈り物ですね!」
「まあそうとも言う」
そう言ってしゅんこちゃんが取り出したのは、手のひらに収まる程の大きさの、一つのオーブだった。白く輝くんスキルオーブとは違い、紫と黄色が混ざり合うおどろおどろしい色合いをしていた。
十中八九スキルオーブではない。ではこれはなんなのか。
俺は疑問と共にしゅんこちゃんを見た。
「これはダンジョンコアと言っての。簡単に言うと、このダンジョンの核じゃ。そしてこのコアを使えばダンジョンを管理することができるようになる」
なるほど、ようはダンジョンそのものを俺にくれるということか。……いやいやいや!!
「しゅんこちゃん、これはダメですよ。受け取れません」
「な、なぜじゃ!?」
「私は、妹の大切な物を奪う姉にはなりたくないからです」
「え?」
「そんなに悲しい顔で渡されても、受け取れませんよ」
「……か、悲しくなんてないぞ!?」
「いや涙目で言われても」
しゅんこちゃんはダンジョンコアを取り出した時、とても悲しそうな顔をしていた。まるで宝物を奪われるような、諦めきれないけど、どうしようもない。そんな顔だ。
悲しそうな妹から、宝物を奪う姉がいるだろうか、いやいない!
「ダンジョンを攻略した報酬は、すでにもらっているので結構です」
「え、何か渡したか?」
「生まれて初めて妹ができました」
「で、でもそれは報酬では……」
「充分すぎる報酬ですよ。あなたの人生をもらったのですから。これ以上何かを貰うのは申し訳ないです」
「じ、人生!?」
なぜか顔を赤くしているしゅんこちゃん。どうしたのだろうか?
まあいいや。まだ伝えたいことがあるし、理由を聞くのは後にしよう。
「それでもあなたが納得できないから、一緒にダンジョンを作りましょう。私はダンジョンの作り方を知らないので、しゅんこちゃんに教えてもらいながらになってしまいますが」
ダンジョンのルールで、そうなっているのなら、それに従うのが得策だ。でもしゅんこちゃんの意思を蔑ろにしたい訳ではない。だからそう提案した。
それを聞いたしゅんこちゃんは戸惑っていたが、やがて満面の笑みを向けてくれた。
「ありがとう」
:ええ話や
:人生をもらったって言い方いいな
:もうプロポーズだよ
:それで照れてるしゅんこちゃんも最高
:式はいつかな?
:ご祝儀ってどこで渡せる?
:ご祝辞考えないと
:ガチ百合はここですか?
:↑百合豚は出荷よー
:(´・ω・`)そんなー
「はい、ダンジョンもクリアしましたし、妹もできたので、これにて今日の配信は終了です。みなさん、ありがとうございました」
俺はカメラに向けて礼をし、配信を終了した。
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