第43話 突撃
聖教会の敷地内にある大広間を利用した処刑場、その真ん中には磔にされた日聖と廻斗がいた。
さらに彼らを囲むように100を超える隊員が銃を構えている。
「なぜ殺されに来た」
「それが一番いいからです」
「そうか……」
廻斗はそう小さく答えると日聖から少し離れ、この場にいる隊員たちに大声で命令を下す。
「良いか!これより我らが迎え撃つはかつての勇者、幸村柊彩!その実力は計り知れない、一時も気を抜くな!この場にいる者は常に清月日聖に銃口を向けろ、幸村柊彩への処刑はこの私が行う!」
「えっ……」
今の話には理解できないことが多すぎた。
なぜ柊彩が勇者であることが全員に知れ渡っているのか、なぜ柊彩はここに来ることになっているのか、そしてなぜ廻斗は敵になっているのか。
日聖には何もわからない。
ただここに来ることなく逃げてくれ、そう祈るしか無かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「皆さん、ここまで来ました。いやー、久しぶりに見ましたけどこの壁はすごいですね」
柊彩は今、聖教会や国会議事堂などがある都心3区に来ていた。
東京の中でも政治・経済の中心となっている都心3区は魔王侵攻時の名残により、要塞都市としての面影を残している。
とはいえ普段から要塞都市になっていると不便も多いため、現在では一部を除いてその壁は地面の中に埋まっており、要事の際にのみ起動する仕組みになっている。
ただ今日は壁こそ起動していないものの、どういうわけか警察の姿が多かった。
〈やっぱ最近不穏だし警備も慎重なんだな〉
〈結局今日はなんの配信なんだ?〉
「この配信が何かはもう少ししたらわかります。あとここからはコメント見れないと思うので、ご了承ください」
柊彩はそう言ってから警察の元へ近づく。
「すみません、こちらにはどのようなご用でしょうか」
すると向こうのほうから柊彩に声をかけてきた。
「聖女様にお会いしに来ました、どちらにおられるか知っていますか?」
「は?」
普通聖女の居場所などただの警察が知っているわけがない。
そんな意味のわからない質問をする柊彩に対し、警察は顔を顰める。
「何を言っているんですか?それともし本日東京3区に入られる場合、そちらのカメラはお止めいただいて──」
「もういいや」
柊彩はそう言って、近くにいた警察の腹部を殴った。
〈は?〉
〈え、なにしてんの〉
「その無線で伝えてくれよ、聖女様を取り戻しに来た男がいるって。わかるやつにはわかるはずだからさ」
そして警察を振り切り、東京3区の中に突っ込んだ。
無難に考えて日聖がいるのは聖教会、まずはそこを目指す。
騒ぎが起ころうと気にしない、たとえ国がどれだけの戦力をつぎ込もうとも、今の自分に勝てるわけがないのだから。
「よく見とけよお前ら!俺が今から配信で、この国の腐った実態ってやつを暴いてやるからな!」
柊彩はかつてない速さで聖教会を目指す。
警察は応援を呼び始めたのだろうが、柊彩が速すぎてそうすぐには対応できない。
恐らくこのままいけるだろう、そう踏んでいたのだが。
「おっと、自衛隊までいるのか」
自衛隊や警察の特殊部隊もあちこちに構えていた。
明らかに異常な警備体制、やはり日聖がここにいるのだろう。
「相手してる暇はねーんだ、正面突破でいくぜ」
左右から飛んでくる銃弾や魔法はことごとく避け、しゃがむと同時に足に力を入れる。
そして前に突き進む勢いのみで、目の前のバリケードごと警察の特殊部隊を弾き飛ばした。
「あと距離はどれくらいだ……って、またか」
今日は朝から厳重な警備体制が敷かれ、一般人はあまりここに来ていない。
そのため向こうの動きも早く、今度は周辺にいた車両が柊彩の確保に動き出していた。
「飛ばすのは良いけど、事故るなよ」
あくまで予想ではあるが、ここにいる警察は命令に従っているだけ。
なぜこのような警備体制を敷いているのか、その理由までは教えてもらっていない。
そんなただの末端をどうこうするつもりはなかった。
柊彩の狙いは日聖の暗殺計画を企んでいた、この国のトップに巣食う邪悪。
それ以外をあまり傷つけたくはない。
「悪いな、俺はこっちから行くわ」
車両が近づいてきたのを確認すると、柊彩は高層ビルの隙間に向かっていった。
そして二つのビルを交互に蹴り、屋上まで駆け上っていく。
「お、見えた!」
そこまで登ると聖教会の場所が確認できた、ビルの上ならば邪魔するものもいない。
柊彩はそこから思い切り飛び、カメラを掴んでポケットの中に隠しながら聖教会の目の前に降り立った。
「な、なんだ⁉︎」
「来たぜ、聖女様に会いに」
「聖女様だと⁉︎ふざけたことを言うな」
「俺は本気だ。きっとお偉いさんには伝わるはずだぜ、聖女に会いにきた配信者がいるって言えばな」
「その必要はない」
「ふ、副教皇様⁉︎」
「アンタは事情を知っている側か。どこにいるのか教えてくれよ」
「ついて来い」
その男はそれだけ言って歩き始める。
例えば罠だとしてもついていくしかない、柊彩は大人しくそれに続く。
「随分大胆な行動に出るのだな」
「まーな、それよりもう周りに人はいねーんだ。どこにいるか教えろよ」
「大広間だ、そこが聖女とお前の処刑場に──」
「ありがとな」
答えを聞いた瞬間、柊彩は首に手刀を叩き込んで気絶させる。
そしてやけに人が少ない大聖堂の中で、ポケットに仕込んでいたカメラを取り出した。
〈聖女とか処刑とかなんかヤバくね?〉
〈この配信完全にアウトだろ〉
〈大犯罪者ヒロ〉
「ん、確かに今の俺は大罪人だな、さっさとこの国逃げねーと」
〈笑ってて草〉
〈マジでどうしたんだよ〉
「どうかしたのはこの国の方だ、今からそれがわかる。ま、信じるも信じないも自由だけどさ、ただ俺はこれを伝えたかったんだ」
柊彩はカメラに向かってそう告げると、再び歩き出す。
目指すは大広間、日聖を救うまであと少し。
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