第41話 終わりの始まり
「ここはこれまでと雰囲気が違う」
「嫌な予感がするわ」
「さすがにこればっかりは言われなくてもわかるぜ、次が最後だな」
休憩が明けてから1時間。
砂漠を抜けて極寒の地を進んでいた柊彩たちは、謎の神殿へと続く階段の前に来ていた。
「ちゃっちゃと終わらせるぞ」
神殿に足を踏み入れると、肌を突き刺すような悪寒が一際強くなる。
「なかはあったかいね」
「ていうか暑い、いや熱いぞ!」
その直後、頭上から燃え盛る火球が降り注いだ。
「まかせてー」
先頭に出た紫安は自らの身体でそれを受け止める。
そして顔を上げると、そこには翼を持つ人形の魔物がいた。
大きさは5,6mといったところであり、周辺には炎の球が浮かんでいる。
そして魔物が一度手を振るうと、それは生き物のように宙を舞いながら柊彩たちに襲いかかる。
「バッドエンド、半分は任せた」
「おうよ!」
柊彩はその剣で炎を斬り裂き、バッドエンド腕を振るった風圧で炎を掻き消す。
二人でも対応しきれなかったものを紫安が受けとめていた。
そうしていると魔物は一際大きな炎を放つ。
「飛べ!」
柊彩の一言で散り散りになって攻撃を避ける。
地面に触れた炎はとてつもない爆発を引き起こし、周囲にあるものを焼き尽くしていった。
「さすがSランク迷宮最下層なだけあるな」
これまで戦ってきた魔物たちとも一線を画す存在。
だが日聖はそこまで恐ろしいとは感じなかった、柊彩たちならばなんとかする、そんな確信があったからだ。
「バッドエンド、左に30°、上に70°よ!」
「サンキュー!」
魔物の魔法によって砂煙が巻き起こり、視界は完全に覆われている。
だがその中でも空間を完全に把握できるソフィが敵の位置をバッドエンドに伝えた。
バッドエンドはそれに従い、今の一撃で生み出された瓦礫を機関銃のように絶え間なく投げつける。
「5秒後に攻撃が来る」
「紫安は右斜め後方に下がって日聖ちゃんを守って!」
「りょーかーい」
今度は魔物のはなった火炎魔法が雨のように降り注ぐが、紗凪の予知によって来るのがわかっていた柊彩たちは、それを難なく防ぐか避ける。
そしてようやく砂煙が晴れてきたその一瞬。
「“すとっぷ!”」
魔物と目を合わせて放つ奏音の『お願い』が動きを強制的に止める。
「終わりだ」
トドメに柊彩が100を超える斬撃を魔物に刻み込む。
魔物の身体は空中でバラバラになり、それと同時に迷宮は崩壊を始めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「お、戻ってきたな」
「ゲートも消えた、Sランク迷宮『ベリアル』の完全消滅を確認」
視界が一瞬白くなったかと思うと、一行の姿は富士の樹海にあった。
振り返ってみても迷宮に続くゲートはなく、柊彩たちが迷宮を攻略して帰ってきたことがわかる。
「少し物足りねぇが、久々に楽しめたぜ」
「みんなでたたかうのたのしかった!」
「そうね、相変わらずって感じだったわ」
「みんなありがとな、急に連絡したのに付き合ってくれて」
「柊彩くんの頼みだからねー」
「私たちは仲間、たとえ時代が変わってもそれは決して変わらない」
「……そう、だな」
「お、照れてんのか?」
「うっせーな」
柊彩はそう言って仲間達に背を向ける。
「疲れたし早く帰って寝よーぜ」
「今からだとギリギリ終電に間に合うかしら」
「じゃあみんなでかえろ!」
「日聖ちゃんもお疲れー、大変だったでしょ」
「いえ、みなさんがいましたから。むしろ私が何もしていないというか、何もできないというか……」
「気にしなくていい。貴女にしかできないこと、貴女の良いところもたくさんある」
「……ありがとうございます」
「そうそう、ていうか嬢ちゃんも俺たちの仲間なんだ、変なこと気にすんな!」
「何やってんだお前ら、終電逃すぞ!」
「すみません、今行きます!」
Sランク迷宮を攻略した柊彩たちは行きと同じように電車とバスを利用して帰路につく。
道中で仲間とも別れ、家の最寄駅に着く頃には時刻も日を跨いでいた。
「遅くなったな、大丈夫か?」
「はい、勇者様の方こそ疲れてるんじゃないですか?」
「ああ、さっさと寝てーよ」
そんなことを話しながら部屋の間に到着した柊彩は、鍵を差し込んで異変に気づく。
そして勢いよくドアを開け、その姿勢のまま固まった。
「ど、どうかしましたか?」
そう尋ねてみても答えは返ってこない。
恐る恐る横から覗いてみると、部屋の中はあらゆるものが散乱して酷く荒らされていた。
「こ、これって!」
「日聖」
柊彩はゆっくりと部屋の中に入り、物をどかしてスペースを作りながら静かに言った。
「少し予定変更だ。明日の早朝、逃げるぞ」
原因はわからない、ただ日聖を匿っていたことがバレたのは間違いない。
そして住所を特定して乗り込んできたのだ。
偶然にもSランク迷宮に挑んでいたため鉢合わせることはなかったが、またいつやってくるかはわからない。
「今日は早く寝よう」
人が一人横になれるスペースと、あとはもう一つ小さなスペースを作ると、柊彩はそこに腰を下ろして目を瞑った。
日聖は何も言うことができなかった。
ただただ柊彩の言葉に従い、自分のために作られた広い空間で横になる。
そして翌朝、柊彩が目を覚ますと部屋の中に日聖の姿はなかった。
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