第28話 特異体質系配信者
「みなさん改めて初めまして、ジャンです!」
「どうも、ヒロです……」
大食い大会から10日後、リスナーの期待通り事務所からデビューを飾った紫安の初配信が行われていた。
「見ての通り、今日は山に来てます……」
なぜか山の中で。
もう7月も下旬の夏真っ盛りに山に来たものだから、柊彩は配信開始と同時に暑さで項垂れている。
今日は人目に付くことも少ないだろうということで画面外には日聖もいるのだが、彼女も暑さのあまりしきりにタオルで汗を拭っている。
なぜわざわざ平日のよく晴れた日にこんな配信をしているのかというと、紫安が有給を取ることができたのがこの日だったからである。
〈暑そう〉
〈初配信待ってました!〉
〈山の中で何するんだよww〉
「今日はねー、山を上りながらみんなに食べられるものと食べられないものを紹介してくよー。ついでに食べちゃダメなやつを食べたらどうなるかもねー」
〈何だその配信w〉
〈既に危ない雰囲気してて草〉
この配信は柊彩たちで考えた末に紫安の希望で決定したものだった。
紫安が特異体質を持っていることが知られ、そのことに対して好意的な意見が多く注目も集まったこの機会がチャンス。
特異体質を活かした配信を行って話題を作り、多くの人に認知してもらう。
昔は特異体質を持っているというだけで化け物扱いされたが、この配信で特異体質を持っていようが普通の人と変わらないと知ってもらえれば、隠す必要もなくなるかもしれない。
そのため紫安は特異体質系配信者として、自身の体質だからこそできる配信を行うことにしたのだ。
「重い……暑い……」
「お、早速美味しそうな野草が生えてるよー」
特大の荷物を持って今にも死にそうな表情をしている柊彩とは対照的に、紫安は軽やかな足取りで先を行く。
「ほら、たんぽぽ」
そう言って一輪摘んでカメラに見せたかと思うと、あっという間に食べてしまった。
「土を洗えば根っこも食べられるよー。あと成長したほうが苦いから、もしそれが嫌なら成長前がおすすめだよー」
〈そのまま食ってて草〉
〈野生児かよww〉
〈見た目と違ってワイルドすぎる〉
「あ、あそこにもあるねー」
そんな調子ですごくマイペースに野草を見つけては食べ、味や食べ方などを紹介していく。
食べる時は洗ってからのほうがいいよ、と言いつつそのまま食べたりだとか、穏やかそうな見た目からは想像もできない豪快な行動の数々に、リスナーも盛り上がっている。
「アイツ、ノリノリだな」
「なんというか、凄い方ですね」
「ああ見えて俺たちの中でもトップクラスにぶっ飛んでるからな」
本当は柊彩は洗うための水や調理器具を大量に持ってきており、紫安とともに配信を進めていく予定だったのだが、気がつけばカメラの外からついていくだけになっていた。
それくらい紫安は一人で自由気ままに配信を進めている。
だが全員が度肝を抜かれるのはここからだった。
「あ、これ。これはフキノトウに似てるけど危険だから食べちゃダメだよー」
先ほどまでサバイバルで使える知識、なんていいながら食べられる野草ばかりを紹介してきたが、今度は毒のある野草を扱っていた。
「これはね、食べると眩暈がしたり幻覚が見えたりするんだよ、こんな感じに」
そして危険性を紹介したかと思うと、なんとそれを食べてしまった。
〈は?〉
〈今普通に食ったぞ〉
「あ、あれ大丈夫なんですか……?」
「言ったろ、アイツはぶっ飛んでるって」
柊彩は呆れた調子で言いながら紫安の元に向かう。
「すごい、世界が歪んできたよー。あれ、ヒロくんが10人いる」
「おら、さっさと目を覚ませバカ!」
すっかり毒にやられておかしくなった紫安の頭を、思い切り引っ叩く。
もちろん普通はそれでどうにかなるはずもない、すぐに医者に見せに行かなければならない。
だが紫安は違う。
体内に入った毒はあまりの代謝の高さに一瞬で全身に巡り症状を引き起こすが、そこから時間が経つとすぐに新たな細胞に入れ替わり毒すら無効化してしまう。
「あ、ありがとー。今みたいにこれ食べるとおかしなことになるから、みんなは絶対ダメだよー!」
〈今ので治ったの?〉
〈どうなってんだよww〉
〈特異体質ヤバすぎる〉
一般的に致死量と言われる量の毒ならば、紫安にとっては一時的に症状が出るだけで済む。
もしそれ以上の大量の毒に侵されたとしても、毒に侵された部分を吹き飛ばして再生すれば元に戻る。
そのため紫安には毒に対する恐怖というものがほとんどないのだ。
「次はね──」
ここからとんでもない時間が始まった。
「コレはワライダケで、ははっ、食べると本当に笑いがふふっ」
「いい加減笑いながら食うのやめろ!キノコから手を離せ!」
ワライダケの症状が出ているにもかかわらず食べ続けようとしたり。
「カエンタケは特に毒が強くて有名だよね、見た目もすごいし。ただすごく美味しいんだよねー」
「お前さっきカメラの外でそれ食って吐いただろ、もう止めろ!」
「あ、気をつけてー、それ触るだけで危ないから」
「それを先に言え!」
特に危険だと言われるカエンタケを美味しいからと何度も食べては吐いてを繰り返したり。
「トリカブト、コレは有名だから紹介するまでもないかなー」
「じゃあ食おうとするな!」
毒だとわかっていてとりあえず食べようとしてみたり。
初めはその予想外すぎる行動にリスナーも困惑していたが、次第に紫安の独特の雰囲気とそれに振り回される柊彩に惹かれ、しばらくすると何かしらの毒性の野草やキノコを食べるたびにチャット欄が大盛り上がりになっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夕暮れ、寄り道しながらも山頂に着いたことにより、紫安の配信も終わろうとしていた。
「はぁ、はぁ、疲れた……」
「どうだったかなー、今日の話はためになった?」
〈おもしろかった!〉
〈第二弾待ってる!〉
もちろんただ毒のある野草を食べただけでなく、紫安が旅で身につけたサバイバル知識を披露したり、その場で集めた食べられる野草で料理をしたりと、タメになる話もたくさんあった。
それもあってか配信は非常に好評で、長時間の配信にもかかわらずリスナーは減るどころか最初よりも増えていた。
「うん、みんながそういうならまたやろっかなー」
「俺は絶対嫌だからな」
〈今度はヒロも食ってくれ!〉
〈毒物クッキングとかしてほしい〉
〈また二人で大食い対決待ってます〉
「お前らふざけんな!俺のこと殺す気じゃねーか!」
「まあ次何やるかは一緒に考えようねー」
「絶対安全なやつにするからな」
「ということで今日の配信は終わりまーす」
「みんな次もまた見に来てくれな!じゃあおつかれー!」
終始とんでもない内容の配信は、なぜか最後は夕焼けが映える真っ赤な山々を背後にするという中々にエモい雰囲気で終了した。
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