底辺配信者(元勇者)、配信切り忘れで身バレする〜バズりすぎてて一生通知が鳴り止みません〜
上洲燈
第一章 勇者、バズる
第1話 底辺配信者(元勇者)、身バレする
「それでは、今日の配信はここまでにします。見てくれた方、ありがとうございました!また来てくださーい!」
少年は笑顔を浮かべ、浮遊型のカメラに手を振りながらそう言った。
彼の名は
「はぁ、今日もダメだな……」
残念なことに同時接続が10人いれば良いほどの、有象無象の底辺配信者の一人に過ぎないが。
「俺も1年近くやってるはずなんだけどな、競争相手多すぎだろ」
そうぼやきたくなるのも仕方のないことである。
女神の加護を受けた少年が勇者として立ち上がり、たった6人の仲間と共に魔王討伐を成し遂げたのは今からわずか3年前のこと。
だというのに魔物討伐と迷宮攻略は瞬く間に一大コンテンツとなり、ただ配信してるだけでは誰の目にも止まらなくなってしまった。
「ったく、もっと簡単に有名になれると思ってたのによ」
柊彩は配信中手にしていた松明の火を消し、迷宮の外に出る。
配信を開始したのは夕方であったが、今はすっかり夜になっており、今日は空が雲に覆われているせいか辺りは真っ暗であった。
「はぁ、帰るか……」
なぜこんなにも魔物討伐の配信が流行したのか。
魔王が死んだことにより魔物の力が弱まったことや、人類も魔法を身につけて互角以上に戦えるようになったことも大きいだろう。
だが一番の理由は、魔王との戦いで勇者が命を落としたからである。
人々はただ魔物を倒したり迷宮を攻略したりする様子を見て楽しんでいるのではない、その中でも一際輝く存在、新たなる勇者の誕生を待ち望んでいたのだ。
そう、この日までは──
「イテッ!」
帰り道の途中、柊彩は何かに足を引っ掛けてしまった。
迷宮の周りには基本的に自然が広がっており、道もあまり舗装されていない。
今日みたいに暗い日は足元がよく見えず危ないのだ。
「松明つけるのはめんどくせーし……これでいっか」
柊彩は一度あたりに誰もいないことを確認してから、左手の手袋を外す。
するとその手の甲に刻まれた紋章が眩い光を放ち、周囲を照らしていく。
その紋章は女神の加護の証、世界でたった一人だけが持つ力。
そう、実は勇者は死んでいない。
底辺配信者の雪村柊彩、その正体はかつて魔王を倒し、世界を救った勇者である。
だが既に勇者は死んだものとされており、変な騒ぎに巻き込まれては面倒なため、柊彩はずっと正体を隠してきた。
これまでの配信でも一度も加護の力を使ったことはない。
それどころか日常生活でもほとんどなく、ごくたまにこうしてしょうもない使い方をする程度。
その際も今のように加護の力を使う前に周囲を確認しており、決して誰にもバレる心配はない。
「よし、これなら明るいな」
柊彩は満足そうにそう言って帰路に着く。
だがこの時の柊彩はまだ自分が重大なミスを犯したことに気づいていなかった。
配信の切り忘れという、あまりにも初歩的で致命的なミスに──
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ふぁ……」
翌日。
12時を少し回った頃、柊彩は陽の光を顔に浴びて目を覚ました。
起きるのはいつもこのくらいの時間である。
仕事はしていない、働きたくないから配信者をしているのだ。
「もっかい寝るかな……」
ベッドで横になったまま、スマホで自分のチャンネルを開く。
特になにかするわけではないが、それが起きて最初の日課になっていた。
一応通知がないか確認した後はもう一眠りしようかな。
そんな柊彩の考えは眠気と共に吹き飛んだ。
「……は?」
いつも通りのルーティン、だがこの日は決定的に何かが違っていた。
「いち、じゅう、ひゃく……」
チャンネル登録者数のところに並ぶあり得ない数字。
そこにある7つの数字は、登録者数が100万人を軽く超えていることを物語っている。
「え……えっ?」
脳が覚醒すると同時に困惑で埋め尽くされていく。
まだこれは夢だと言われたほうが納得できるが、今はすっかり目が覚めている。
それにさっきは寝ぼけてて気づいていなかったが、通知もとんでもないことになっていた。
配信者用に利用しているSNSはどれも限界突破しており、右上に『99+』やら『999+』の数字がついている。
そのほとんどが様々な配信者や動画投稿者からのコラボの誘いである。
恐る恐るアイコンの一つをタップしてアプリを起動する。
チャンネルと同様にSNSのフォロワー数も桁違いの数字になっているが、今はそれに驚いている場合ではない。
震える指で画面を切り替え、そして柊彩は言葉を失った。
画面に表示されているトレンドのランキング。
その一番上、一位のところにはこう書かれていた。
──#勇者生存
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第一話をお読みいただきありがとうございます!
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初めての作品投稿でありますが頑張っていきたいと思いますので、これからどうぞよろしくお願いします!
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